■ミャンマー ラーショー

 

国民の9割が仏教徒のミャンマーでは、一生のうちに出家を経験する男性が多い

 

 数年前、ユーラシア大陸を陸路で縦断するという酔狂な旅に出た。

 シンガポールを出発し、マレーシア、タイを抜けて、数日後にはミャンマーに入国。エアコンはおろか、シートに毒虫が潜む劣悪な列車を乗り継ぎ、ひたすら北上を続けた。中部の都市マンダレーを過ぎたあたりから列車のスピードが落ちていき、いよいよ先へ進めなくなってしまった。どうやら数日前の豪雨で線路が寸断されたらしい。そこからは臨時のマイクロバスで小さな村まで出て、最後はトラックの荷台に乗せてもらい、東北地方の町ラーショーにたどり着いた。中国国境まで150キロの距離である。

 宿に入ったときはもう真っ暗で、近くの屋台で鶏肉のスパイス焼きや野菜の煮物を見繕い、小さな商店でビールも手に入れることができた。東南アジアでは珍しい、どっしりとコクのあるミャンマービールが憔悴しきった体と心に染みわたった。

 翌朝、ベランダに出てみると、たちこめる朝靄の向こうに低い山が連なり、二人乗りのバイクが坂道をコトコトと上がってくる。名もなき田舎町の、ずっと眺めていたくなるような光景だった。

 朝靄のなか、宿を出た。道路をホウキではくおばさん。湯を沸かし、茶店の開店準備をするおじいさん。托鉢するエンジ色の袈裟姿の小坊主たちが笑顔で僕を見た。

 

 

 しばらく歩いて路地に入ると、小さな店から勢いよく湯気が立ち上っている。店先にいるおねえさんが何か言いながらニコリと麺をすする仕草をすると、僕は反射的にうなずいた。

 運ばれてきた料理は、ひと目でそれとわかる米の麺。赤いスープが食欲をあおる。マレーシア、タイ、ミャンマー。米食大国を駆け抜けてきたが、この旅で米の麺を食べるのは初めてである。久しぶりに味わうつるりとした米麺独特の食感。コクのある辛味スープには魚の風味が香る。鶏ガラに川魚の出汁を合わせたさっぱりスープが辛味を纏い、一層豊かな味に仕上がっている。素朴な田舎料理のようで、麺とスープが互いの味を引き出し合う、実に秀逸なミャンマーならではの麺料理である。

 

辛味スープの米麺

 

 翌日、中国国境の町までたどり着いた。予想通り中国側の事情で国境越えは叶わず、再びラーショーに戻って数日を過ごした。

 ラーショーにはこれといった見どころや名物料理があるわけではない。しかし、不思議と居心地が良い。そこにあるのは、旅の疲れを癒す必要最低限の要素と、観光地では味わえないアジアめしである。

 こういう町に出会うために、これからも旅を続けていこうと思う。