■韓国 ソウル

 

チョンノサンガのカルメギサル通り。コロナ以前は多くの人で賑わっていた。

 

 コロナ騒ぎになる前は、年に1、2度のペースで韓国を訪れていた。直接ソウルや釜山に行くだけでなく、第三国から帰国する際に、韓国料理を食べたいがためにソウルでトランジットすることもあった。

 4年前、ウズベキスタンでの取材を終えたあとも、ソウルに立ち寄った。安宿に荷物を置くと、まるで自宅に帰ってきたかのような居心地のよさを覚えた。僕にとってソウルでのトランジットは、帰国前のリフレッシュでもある。

 その日の夜は酒好きの友人から豚ハラミを食べに行こうと誘われていた。おそらくたらふく飲み食いすることになるだろう。それに備えて昼は軽く麵でもすすりたいところだ。

 地下鉄に乗り、チョンノサンガ駅に出る。このあたりは古い街並みが残るエリアで、近年はリノベーションしたカフェなどもオープンし、若者にも人気があるらしい。店の看板を見ながら歩いてみても、ハングルの表記はまったく読めない。しかし、文字が読めないまま、店構えや湯気の匂いをたよりに直感で店探しをするのは楽しいものである。

 10分ほどウロウロしたところで1軒の食堂の前で足が止まった。なんとなく見覚えがある。たしか10数年前に仕事で取材した店ではないだろうか。

 入りくんだ店内を奥へ進むと、当時の記憶がどんどん呼び覚まされた。

「カルグクス……チュセヨ(ください)」

 ぐりぐりパーマのおばちゃん店員に告げると、まくしたてるように大声で何か言い、無愛想に頷いて立ち去った。
 

カルグクス(韓国風うどん)
カルグクス(韓国風うどん)


 ほどなくして運ばれてきたのは、湯気の立つ「韓国風うどん」。すっきりとした風味のなかにアサリの出汁をしっかりと感じるスープは上品でありながら力強い。旨みがぐっと凝縮されていて、もっちりとした平打ちの小麦麵にスープがよくからんでくる。たっぷりのアサリと、鮮烈なネギの相性も抜群である。

 夢中で食べていると、おばさんが近寄ってきた。無表情で指差す奥のテーブルにはキムチのバットがふたつ。どうやらセルフサービスのようだ。片方はさっぱりした浅漬けで、もう片方はしっかりと漬けた酸味が強いもの。それぞれ絶妙な辛味、酸味、コク。口のなかがさっぱりとし、アサリの出汁の味がより際立ってくる。まわりの地元客を真似て、豪快に麵をすすり、パリパリとキムチを頰張った。

「んーーマシッソヨ、マシッソヨ(おいしい)」

 思わず口に出してしまい、汗だくで顔を上げると、パーマのおばさんが白い歯を見せて笑いかけた。