■台湾 金門島

 

廈門を望む海岸には、金門砲戦時に人民解放軍の上陸を阻んだ軌條砦が残されている

 

 3年ぶりに台湾を訪れ、台北から向かったのは、国内線で約1時間の離島、金門島。金門島は台湾(中華民国)の直轄でありながら、地理的には中国大陸のすぐそばに位置する。金門県はメインの島である金門島とすぐとなりの烈嶼れつしょ島(小金門)などからなり、昨年10月にこの二島が金門大橋でつながった。烈嶼島から中国の廈門アモイまではわずか5キロしかなく、大都市廈門の高層ビル群がすぐそこに見える。

 金門島には、台北などの大都市ではあまり見られなくなった老街ラオジエ(古い街並み)があちこちに残っていて、今も人々の暮らしが根付いている。島の中心地、金城の街には商店が軒を連ね、早朝から市場が立つ。活気のある通り外れ、蛇行する路地を進むと、こぢんまりとした食堂が見えた。鉄板から勢いよく湯気が上がっている。

 

 

「金門島の名物が食べたいのですが……」

「カキだね」

 店のおばさんに声をかけたつもりだったが、静かに即答してきたのはとなりに座る客のおじさんだった。

「カキですか?」 

「そうそう、うちは古寧頭こねいとうの天然物しか使わないからね」

 今度は、店のおばさんが声を張り上げる。空港の観光協会でもらった地図を広げると、たしかに北西部の海岸沿いに古寧頭という村がある。

蚵仔麺線オアミィエンシィエン(カキそうめん)でいい?」

 ほどなくして運ばれてきた一杯の蚵仔麺線。ピカピカ光る小粒のカキがたっぷりと盛られていて、湯気から漂う潮の香りが食欲をそそる。スープをひと口すすると、その意外さに思わずおばさんを見た。

 

蚵仔麺線

 

「どう? 台北の麺線とぜんぜん違うでしょ?」

 たしかに、ぜんぜん違う。台湾本島で食べる麺線のスープは、鰹だしをしっかりきかせた、とろみのある濃厚な味が定番である。麺線の発祥と言われる鹿港ルーガンで食べたのもそうだった。

 おばさんは続ける。

「あのね、古寧頭の天然カキには余計なことしちゃだめなの」

「ダシは?」

「そんなものは必要なし。カキから出る旨みだけで十分。味つけは塩を少しだけね」

 ぷりぷりとした古寧頭産カキからあふれる滋味。スープが清淡なぶん、つるりとした細麺の食感が際立つ。そして、セロリの爽やかなアクセントが効いている。

 アジアのあちこちでさんざん麺類を食べてきたが、これほどまでに研ぎ澄まされた逸品は他にない。

 3年ぶりのアジアめしにして、究極の一杯に出会った。