■台湾 台北

 

路地の屋台飯には現地人も多く集う。

 

 3月上旬、羽田空港の国際線ターミナルへ向かった。実に3年ぶりとなる海外渡航の行き先は、台湾。コロナウイルスに出国を断たれてからというもの、アジアめしの妄想にふける日々を過ごしてきたわけだが、特に台湾メシが恋しかった。かつて味わった感動に胸を高鳴らせ、台北松山空港に降り立った。

 台北駅裏手の常宿にザックを下ろし、台湾の地下鉄MRTで台北の中心地である忠孝復興駅に出た。一時は感染者が急増し都市封鎖状態に陥った台湾だが、街には見るからに活気が戻り、行き交う人々の表情は明るい。

 

 

 駅近くにある日本人観光客に人気の小籠包屋に昼飯がてら入ってみたのだが、なにやら様子がおかしい。以前は客の半数近くが日本人だった店内に、その姿が見当たらない。小籠包5個、干し豆腐、青菜炒め、ビール1本で720元。日本円で2500円くらいだろうか。有名店は少々割高である。

 翌朝、手持ちの台湾元が心許なくなり近くの銀行に立ち寄ると、両替レートの悪さに愕然とした。3年前と比べて3割ほど目減りしている。昨日の小籠包屋の会計が3000円を超えるとなると、なかなかにハードルが高い。ここまで円安が進むと海外に目が向かないのも無理はない。

 それはさておき、きょうの昼は牛肉麺と決めていた。台湾といえば牛肉麺である。宿の近くの薄暗い路地をのぞくと、お目当ての店は相変わらず賑わっていた。店とはいうものの、ビルの角の小さな敷地を活用した、いわば屋台である。路上の席につき、ビールをたのんだ。

「コロナでビールやめたのよ。そこのコンビニで買ってらっしゃい」

 テーブルには「飲酒禁止」と書いてあるが、店員にすすめられたのだから問題なかろう。小さなショーケースにはいくつか小皿料理が並んでいて、これが酒好きのツボをつく。豚耳のピリ辛和えをとり、買ってきた缶ビールを開けた。まもなく運ばれてきた牛肉麺に載っている、じっくり煮込まれた、肉、スジ、モツはこれまた極上のツマミである。平打ち麺をすすると、ホッとするようなシンプル醤油味のスープがしみわたる。

 

牛肉麺

 

 台湾には日本のラーメン専門店のような「こだわりの一杯」を出す牛肉麺の有名店も数多い。しかし、「町中華」的な素朴な店で小皿をつまみに酒を飲み、麺でシメる、これぞ至福のひとときである。1949年、国共内戦の末、台湾へ脱出した蒋介石は、のちの故宮博物院に所蔵されるような宝物とともに、料理人などの優秀な人材も同行させたと言われている。

 海を渡った料理人たちが今に遺した、数少ない元祖台湾料理のひとつが、牛肉麺だという説がある。