■ミャンマー シュウェボ
列車でアジアを旅するようになって十数年になる。低速で走る古い車両の、開け放たれた窓から吹き込んでくる風。ビール片手に寝台車両から眺める夕日。いつしかのんびりした鉄路旅情の虜になっていた。
なかでも、近代化に乗り遅れたミャンマーの列車は味わい深い。空調がないのはおろか、線路脇に生い茂った木の枝が、バシバシッとムチのような音を立てて車内に入り込んでくる路線もある。
2016年10月。第二の都市マンダレー発、北部の町ミッチーナ行きの寝台列車に乗った。夜明け前に乗り込み、発車を待っていると、向かいの寝台に大荷物を背負った家族がやってきた。お母さんとその子ども、おじいちゃんらしき年配の男性と笑顔であいさつを交わした。
定刻通りマンダレー駅を出発。景色に飽きると、横になってウトウトする。そんなことを繰り返しているうちに5時間が過ぎた。そろそろこの旅の「鉄道めし」第1弾といきたいところである。
途中のシュウェボ駅に到着すると、にわかに乗客の動きが慌ただしくなった。おじいちゃんが「ハロー」と僕を呼び、窓の外を指さす。
「おお、これは!」
プラットホームに屋台がぎっしりと軒を連ねている。おじいちゃんについて、駆け足で外へ出た。
「うちのがおいしいよ!」とでも言わんばかりに、店を切り盛りする女性たちが声を張り上げている。
まずは弁当箱にごはんをよそい、上から好みのおかずを盛ってもらう。アジア各地にある「ぶっかけめし」は、指差しで注文できるのがありがたい。
「この空芯菜と……青菜をください……それと……」
メインを決めかねていると、店主のおばさんが、揚げた手羽元をトングで指し、自慢げに何度も頷いた。これで決まりだ。
車内に戻り、ふたを開けると、スパイスの効いたタレの香りがふわりと広がった。ピリッとしつつも甘味のあるタレで味付けされた手羽元は、パラパラの長粒米に合うのはもちろんのこと、コクのあるミャンマービールがぐいぐい進む。にんにく風味の香ばしい野菜が、手羽元のうまさを際立たせる。あっというまに手羽元は骨になってしまった。
「もう一本欲しかったなぁ……」
僕の表情を見て、同じ手羽元を食べているお母さんがプッと吹き出した。照れ笑いしながら子どもを見ると、タレの染み込んだごはんにがっついている。たしかにこれは絶品タレごはんだ。
結局この家族とはミッチーナまでの24時間をともにし、いっしょにごはんを食べ、人懐こい子どもとよく遊んだ。
長距離列車は、出会いの場でもあるのだ。