さてどこに行くかと思案しますが、どこに行くもなにも、ホテルしかございません。思案しているのは、そのホテルがどこにあったかということです。当てもなく歩くわけにも参りません。
不意に思い付きます。
確か浅草寺鐘撞き堂の裏に一軒、その場所は浅草寺に何箇所かある喫煙所の場所でもあります。
ハイライトを吸いながら、こんなところにと眺めた景色が浮かびます。
歩調を早めた一郎は、浅草寺境内を急ぎます。一歩ごとに股間の張りは慥かなものになります。
ホテルの部屋に入るなり、大隅一郎は咲村咲子を抱きしめます。硬くなった股間をムズムズと咲子の体に押し付けます。抱きしめながら口を吸います。
駅ビル二階東武線浅草駅の改札前で、いきなり咲子に唇を押し付けられたのは昨夜のことでございました。予期せぬ咲子の行いに、差し入れられた小さな舌にも応えられませんでした。
しかしこの度は違います。浅草ロック座から咲子の手を引き、足早に浅草寺境内を通り抜ける間に出来上がっております。躊躇などあろうはずがございません。
いきなりのベロチューです。雰囲気もなにもあったものではございません。グチュグチュと音を立てて咲子の小さな舌を吸います。ングングと鼻を鳴らして小刻みに息継ぎします。舌を吸い、鼻を鳴らしながら、股間を押し付けます。右手で咲子の尻を鷲掴みにし、左手であるか無いかの貧乳を揉みしだき、いつまでやっているのだと呆れるほど舌を吸います。赤い水玉のワンピースがしわくちゃになってしまいます。
やがてさすがにその行為にも納得したのでございましょう、手を咲子の細い肩に置き申します。
「風呂の用意をしてくる。キミは服を脱いでおきなさい」
余裕ぶって申します。
苦笑させられます。息が乱れているではございませんか。
入室以来の振る舞いはとても大人の男性のそれではございませんでした。発情した高校生の所業を思わせる振る舞いです。
咲子が経験の少ない女だったから良かったようなものの、三十二歳という年齢なりに経験を積んでいれば、何の工夫もなく闇雲に舌を吸われ、あまつさえ口唇周りをヤニ臭い唾液でベチョベチョにされ、ウンザリしたのに違いありません。
しかし服を脱いでおけと言われた咲子、神妙に頷きます。一郎の唾液を拭おうとも致しません。
一郎は一郎で、浴室に入る用意なのでございましょう。靴下を脱いで、ベッドの横の脱衣籠に放り込みます。少し考えてネクタイを外し、上着も脱いでハンガーポールに吊るします。また少し考えて、ズボンも脱いで同様に吊るします。さらに考え込んで、カッターシャツとアンダーシャツ、これは脱衣籠に放り込みます。そして最後の一枚、トランクスも脱いで脱衣籠に放り込みます。
端からさっさと全裸になればよいようなもの、それでは余りにさもしいか、いやいや浴槽の床が濡れているかもしれないので、靴下だけは脱いでおこう。
跳ね返りで濡れるかもしれないので上着も脱いでおいたほうがいいのではないか。湯加減を見るのに袖口を濡らしてしまうかもしれないではないか。
上着を脱いだのであればズボンも脱いでおくのが自然か。
いざズボンを脱ぎますと、パンツ姿にカッターシャツはおかしいだろう。
こんな具合に試行錯誤したのです。この期に及んで小市民、器の小ささが露呈する一郎でございます。
さてさてパンツから解放されました一郎の陰茎は、見事にというほどではございませんが、床と漸く水平になるくらいには勃起しております。完全に水平とは申せませんが、何とか重力に抗っております。
大小を言うのは野暮でございましょう。せめてものお情けとして、並と申し上げておきます。松竹梅で申せば梅クラスです。朝勃ちでさえ遠い記憶なのでございますからレビトラ効果恐るべしです。
自身の勃起に満足した一郎がバスルームへと消えます。
部屋にひとり残された咲子はと申しますと、表情も変えず、緩慢な動作で脱衣し始めます。特に浮かれている風でもございません。頬が赤くもなっておりません。淡々と脱衣し、ジャンパーとワンピースをハンガーポールに、ブラジャーとパンティーを二つ並んだ脱衣籠の片方に納めます。
バスルームからはドドドドドドドドと湯船が満たされる水音が聞こえてきます。そのうちに掛かり湯をしているのでありましょう、ザバン、ザバンと浴室の床に水が弾ける音も聞こえて参ります。
やがて一郎の声が咲子を呼びます。
「サキちゃん、もういいよ。入っておいで」
期待のこもった、それでいてどこかワザとらしい声です。
湯に身を沈めた一郎は、両手を湯船の縁に広げて腰を浮かし、水面に浮上した亀頭にご満悦のようです。中学生かよとツッコミたくなります。
腕と手で乳と陰部を隠した咲子がドアを開け、バスルームに入ってきます。
「さっ、一緒に入ろう」
快活に促します。
「先にシャワーを」
あっさりと受け流されます。
咲子が流し場にしゃがんでシャワーを使い始めます。
それを横目で見ながら、おやおやどうしたことでございましょう、一郎の亀頭が水面下に沈み始めているではありませんか。
どうやら期待が裏切られたようなのです。
さすがに口には出しませんが、一郎が凝視しているのは咲子の乳です。いまさら大小に拘っているわけではありません。咲子が貧乳であることは、着衣の時から承知しております。さらに先ほど揉みしだいたのです。その手応えからも何ら期待はしておりませんでした。しかし問題は乳首でございます。乳輪です。
勝手といえば勝手な思い込みでございますが、実は一郎、小学生を思わせる咲子の見た目から、透明感のある桜色の乳首、乳輪を思い描いていたのです。それを裏切る黒豆の乳首、そして乳輪に関してはどす黒いだけでなく、貧しい乳房を覆い尽くさんばかりの大きさなのです。加えて毛穴の粒々が顕著です。爬虫類の背中を思わせます。
それだけではございません。もっとも肝心な場所、陰部です。
一郎は浅草ロック座の踊り子を思い出します。遠目にしか見ておりませんが、いずれも綺麗に整えられた陰毛でした。
それを咲子に望んだわけではございません。比べるほうが間違っていることくらいは心得ています。何しろ相手はプロの踊り子、お足を頂戴して御開帳に及んでいるのです。それに引き換え同じようにステージに上がる身とはいえ、咲子はシンガーソングライター、ピンクの照明に照らされて肌を晒す稼業ではありません。
それにしてもです。咲子の体型、見た目からすれば、無毛、パイパンを一郎が期待していたとしても不思議ではありません。
それがです。それがでございます。ボウボウなのです。しかも剛毛。タワシ。使い古しのタワシです。
さらに咲子の身体には痛々しいほどの痣があります。一箇所や二箇所ではありません。身体中です。
アル中でギャンブル狂いの父親のことが頭に浮かびます。咲子はDVを受けているのではないか。自然な発想として浮かびます。
咲子は丁寧に股間を洗います。どうやら指を入れて洗っているようです。湯に浸かったまま、ことに及ぶ可能性でも考えているのでしょうか。残念ながら一郎の股間のものはレビトラの効果虚しく、すっかり萎えております。
洗い終わった咲子が湯船に足を入れます。一郎に背を向け抱っこしてもらいたいかのように密着します。必然、一郎の両手は咲子の乳を背後から揉む格好になります。貧弱な乳を掌に包み、指先で黒豆の乳首を弄ります、目立った反応は得られません。咲子にも一郎の陰茎にも。
しばらく不毛な愛撫を続けます。湯に逆上せた一郎が申します。
「出ようか」
咲子が頷き二人で助け合いながら湯を出ます。
バスルームを出ると足拭きマットが敷いてあります。一郎が入るときにはございませんでした。どうやら咲子が気を利かせてくれたようです。その隣には、畳んだバスタオルとフェイスタオルを入れた籠も移動されています。
「そのままでいてください」
そう言った咲子がバスタオルに手を伸ばし、一郎の身体を拭いてくれます。先ずは背中から、尻から足も丁寧に拭いてくれて前に移ります。
首筋、胸、腹と拭いて跪きます。
「私の腿に足を上げてください」
左足を預けます。体重は右足に残したままです。先ずは脚から、そして股間を拭いてくれます。温まったせいで一郎の玉袋はだらりと垂れております。その玉袋より貧弱な陰茎は重力に抗いもせず垂れたままです。
咥えてくれないか。
その一言がなかなか言い出せません。先ほどのように勃起しているのなら未だしも、萎んでしまった陰茎に自信が持てないのでございます。咲子に咥えさせて、もし萎んだままなら、取り返しのつかないことになる、咲子を失望させてしまう、失望されるどころか、莫迦にされるかも知れない。そんなことに思いを巡らせます。
「足を替えてください」
一郎の思いを知ってか知らずか、全裸のままの咲子が言います。
左足を下ろして右足を上げます。拭いてくれます。拭く動作の中で、いきなり咲子が一郎の股間に顔を埋めます。
「おっ、おい」
動揺しますが咲子の肩に両手を置いただけで、行いを止めようとはしません。止める代わりに右足を床に下ろし、腰を落として股を割り気味にします。もっとと態度で催促します。
と申しますのも、意外なことに咲子は萎んだ陰茎を咥えているのではないのです。睾丸に吸い付いているのです。吸い付いたまま舌を使います。
(これは何とも言えない気持ちよさだな。こそばゆいけど気持ちいい)
睾丸を愛撫する咲子は首を軽く後ろに傾げております。その咲子の頬に垂れ下がった一郎の陰茎に、血液が流れ込みます。硬度が緩やかに回復します。その変化に気付いた咲子が、右手で陰茎を握り扱き始め、さらに血流を促します。睾丸に吸い付いたままです。舌も一層レロレロ動いています。
レビトラ効果が再燃します。
完全にとまでは申せませんが、一郎の陰茎が、辛うじて男根と呼べる程度に復活します。
咲子の口唇が復活した男根に移ります。咥え込み、頭を前後します。ジュポジュポと音を立てながら、喉奥から唇までストロークの長い頭の動きです。
頃合いを見計らっていたのでしょうが、咲子の顔が一郎の陰毛に埋まるくらい、それは即ち、限界まで男根を喉奥に咥え込んでいるということなのですが、さすがに息が苦しいのでしょう、小さな口をいっぱいに開き、「ガはッ、ガはッ、ガはッ」とえずいております。
これがイマラチオというやつだろうか。
かなり以前に鑑賞したアダルトビデオの一場面を思い出します。悪の組織の手に落ちた美人巨乳潜入捜査官とまぁそんな設定でございました。
黒いボディースーツを身に纏った巨乳捜査官が、緊縛され、何人もの男の物を無理やり咥えさせられ、執拗に喉奥を撞かれるというストーリーだった記憶があります。
巨乳捜査官を演じた女優は喉奥を撞かれ、ちょうど今の咲子がそうであるように、「ガはッ、ガはッ、ガはッ」と、えずきながら、大量の唾液を滴らせておりました。咲子も同じです。唾液が垂れております。口の端から涎が糸を引くのも厭わずより深く咥え込もうと致します。
このままでは果ててしまう。
焦ります。
一度果てた後に再び能力が得られるのかどうか、レビトラの性能に通じていない一郎でございます。
「ベッドに行こう」
焦りを抑えて咲子をベッドに誘います。ほんの数メートルの移動ですが、その間も一郎は、己が男根に手を添え、扱くことを忘れません。
湯上がりの二人は全裸です。
ベッドに押し倒しますと咲子が膝を立てて股を開きます。用意はできているということなのかと理解します。右手で男根を扱きながら、咲子のタワシ陰毛を掻き分け左手の中指で陰部を探ります。ぬるりと指が呑まれます。
咲子に覆い被さります。
膝頭を掴んでさらに大きく股を開かせます。
挿入します!
締まります!
抜き差しします!
! ! ! !
これだけは期待を裏切りません。
小学生並みの体格に見合う締まりの良さです。
締まりだけでなく膣奥に当たる感触もあります。快感に、あるいは痛みに堪えているのでしょうか「ん、ん、ん、ん」と、一郎の抜き差しに合わせて鼻を鳴らし、眉根に皺を寄せる咲子の表情に、背徳の悦楽を覚えます。
(まるで小学生と致しているようだな)
そんな趣味があったわけではないのですが、その想いに脳が焼けます。松竹梅の梅の男根が、松並に格上げされたようにも思えます。何しろ膣奥を男根が撞き、「ん、ん、ん、ん」なのでございます。
激しいピストン運動を繰り返すうち、咲子が息も絶え絶えに何か申します。うわ言のように訴えてきます。
聞き取れないので、いったんピストン運動を緩めて耳を傾けます。
「中に、中に、中に出してください」
咲子はそう申しているのでございます。
「え、え、え、中に? 出しても大丈夫なの」
一郎も息が乱れております。
「中に、中に出してください」
「安全日? 偶々安全日に当たったということなの」
「中に出してください!」
絶叫で申します。
「分かった」
咲子の申し出に勢いを得て、一郎の責めが激しさを増します。叫んで堰が切れたのでございましょうか、「ん、ん、ん、ん」が「アー、アー、アー」に変わります。烏の鳴き声を彷彿とさせる喘ぎ声です。それが益々一郎の男根に硬度を与えます。レビトラの効力が最大値を迎えます。
体位を変えます。
咲子を裏返し、尻から責めようと試みます。
四つん這いにしたのでは身長差が邪魔になります。上手く挿入角度が得られません。べったりとベッドにうつ伏せに押さえ込みます。
「尻を突き出せ」
乱暴な言葉で檄を飛ばし、小さな尻を平手で打擲します。
一郎の脳内で咲子は、悪の一味に捕らえられた潜入捜査官と化しているのです。巨乳ではなく、美人でもございませんが、それを補って余りある幼さがございます。背徳感で申せば、これ以上のものはありません。
「ギャン」
それほど強く叩いたわけではありませんが、咲子が小さな悲鳴を上げます。その悲鳴に一郎の脳が再び焼けます。
突き出された尻を抱え、斜め上の角度から挿入します。
「ンンンン」
咲子が鼻奥で喘ぎます。
一郎が腰を沈めます。
体重を預けてより深く挿入します。
子宮に届けと言わんばかりに責め立てます。
「アギャ、アギャ、アギャ、アギャ」
一郎の腰の動きに合わせて咲子の喘ぎ声も変化します。
男根が膣の広がりを覚えます。
深さも増したように思えます。それでも亀頭が当たります。
ポッカリ――
そんな感じでございました。
いきなりの開通です。
壁を、いえ膜を破ったような感触があって、一郎の男根が、根元まで咲子の膣にめり込みます。ビデオ撮影で輪姦された経験があると言った咲子が処女ということはないでしょう。ですから膜と申しましても、処女膜を破ったのではございませんでしょうし、そもそも処女と経験したことなどない一郎でございます。
それでも、何かを破ってどこかに辿り着いたという感触は慥かにございます。
辿り着いたどこかは、愛おしいほどに窮屈に亀頭を締め付けて参ります。ひと撞きごとに一郎の亀頭の侵入を拒み、撤退もまた拒みます。
「ンゴ、ンゴ、ンゴ」
咲子ではございません。
一郎のよがり声です。
咲子はと申しますと、喘ぎ声も止み、白目を剥いて口角から細かい泡を吹いております。
泡だけではございません。
一郎の腰の動きに合わせ、男根を浅くするたびに、ピュッピュッ、ピュッピュッと透明の液体が迸ります。
潮を吹いているのでございます。
大量の潮がシーツに遠慮のない染みを残します。
一郎も汗だくです。
ポタポタと咲子の背中に汗が滴ります。組み敷いた咲子の腰骨の窪みに汗溜りを作るほどの発汗です。
汗まみれの顔を咲子の小さな舌で舐めてもらいたい。舐めさせたい。その妄想に一郎の脳が限界まで焼けます。
しかし体位を変えるゆとりはありません。脳が臨界点を求めています。メルトダウンの欲求に抗うことができません。
「もっ、もっ、もう、もうダメだ。中だ。中に出すぞ」
遂にそれが訪れます。
咲子の尻を鷲掴みにし、爪を立て、断末魔の叫びを上げ、一郎が膣奥深くに果てます。
ヒクヒクヒク。
そのまま男根を波打たせます。
ドピュ、ドピュ、ドピュッ。
最後の一滴まで絞り出します。
体力の限界でした。
反転させ咲子の尻から転がり、ベッドに仰向けになります。腹で大きく息をします。ゼイゼイと喉が鳴ります。
一郎の体重から解放された咲子は、尻を突き出したまま、小刻みに痙攣しております。イッたというより、失神しているようでございます。そんな咲子の様子と、咲子の陰部を起点とし、シーツ一面に広がった染みの跡に堪らない満足感を覚える一郎でございます。
かつて経験した、それが素人であったとしても、玄人であったとしても、これほど達成感のあるセックスは初めてでした。
この続きは、書籍にてお楽しみください