最初から読む

 

生き方を変える可能性

西堀 今の生活だってさ、それこそ日給を使い果たす――みたいに、先のことを考えてないように思えるんだけど。
和賀 はい。それは認めます。
西堀 前に和賀が言ってたのが、「俺、別に明日死んでもいいんだ」って。意外と芸人だからって、そういう考え方の人は少ないんだよ。和賀のこと見てみんなが不安になるのは、まだ見ぬ部分を見て絶望しちゃっているからなのよ。結婚、子供、老後……ってあるわけじゃん。でも、当の和賀は「明日死んでもいい」っていう感覚なんだよな?
和賀 いやぁ、もう嫌なんですもん、長生きするの……。
西堀 すごいな、こんな調子で高齢化社会にもメスを入れようとしてるのか。
和賀 だって、現時点でもう、思い描いた人生とはかけ離れてるんですよ!
西堀 (笑)。そうか、思い描いていたビジョンからはずれちゃったんだよな。
和賀 だから、リセットボタン押したくなるんですよ。でも、そんなことはできないから……。
西堀 リセットボタンって言っても、死ぬとかじゃなくて、転職だったり、そういうのもあるわけじゃん? でも、それだけはしたくないから、芸人で突き進もうってことでしょ?
和賀 そうです。
西堀 芸人だったら野垂れ死ぬのもかっこよし、みたいなのもある?
和賀 それもあるんですよね。死ぬとしても、「元・お笑い芸人の和賀」っていうより、「お笑い芸人の和賀」でニュースになりたい。
西堀 なんかちょっとロマンチストでもあるんだよな。芸人像がちゃんとあるというか。なんかこういうところも含めて、和賀と飲んでると、自分がみみっちく思えてくるんだよな(笑)。
和賀 まぁ、こんな状況でも芸人を続けていられる、生きていけてるのは、僕が独り身だからってのもあるかもしれないですね。奥さんとか、子供がいたら、こうはいかなかったでしょうし。
西堀 ちなみに、今は彼女はいないの?
和賀 いないっす。
西堀 何年いないの?
和賀 12~13年くらいですね。
西堀 そもそも、結婚願望ってあるの?
和賀 ないっすね。
西堀 好きな人ができたら変わるのかな? でも、お前、異性は好きだろ?
和賀 そうですね、好きです、はい。
西堀 じゃあ、信じられないくらいの大恋愛で好きな人ができたとする。で、相手も和賀のことが好きだと。結婚してくださいってなった場合に、考え方は変わるのかな? 芸人至上主義がさ。だって、一人じゃなくなるわけだから。
和賀 実は、これは最近思ったことなんですけど、変わるかも……しれないっすね。
西堀 あら(笑)。
和賀 なんかもう、今まで芸人とは、みたいな話してきましたけど、そんなのをぶち壊すような大恋愛に飛び込んでみたいとさえ思うんです。
西堀 大恋愛(笑)……!?
和賀 だって、そこまでしないと、逆にもう、芸人辞めるふんぎりつかないんじゃないか、みたいに思うこともあるんですよ。
西堀 これさ、こういうのは言わないほうがいいのかもしれないけど、もしかしたら潜在意識では「この暮らしやめたい」って思ってるんじゃないのか?
和賀 実は最近ちょっと思ってるかもしれません。
西堀 おい! 思ってるのかよ、どうなってんだよ。
和賀 いやいや(笑)。そんな人生も考えちゃうなっていう。だって、コンビ続けてたら、もちろんなかったですよ。だって、結婚とかってなったら、生活費を入れるとか、働いたお金を全部渡すとか……よく分からないですけどね。
西堀 潜在意識の中にはどこかでこの生活を変えたいっていうのがあって、それができる唯一の手段が大恋愛って(笑)……少女漫画じゃないんだから!
和賀 でも、そうなのかもしれないですね(笑)。
西堀 あ、でも前あったよな! バイトさせてもらっている土木の会社の社長に、越後湯沢の別荘に旅行に連れてってもらったことあったじゃん。
和賀 ありましたね。
西堀 でさ、みんなでバーベキューして、そのあと地元のラーメンショップに行ったら、すごいかわいい店員さんがいたんだよな。それで俺、和賀に言ったんだよ。「あの子かわいいな、もしあの子が芸人辞めて一緒にここで働いてほしい、働いてくれたら結婚するって言ったら、おまえどうする?」って。
 そしたらおまえ「う~ん、結婚するかな」って(笑)。だからさ、もしかしたらどっかで“恋の蜘蛛の糸”を待ってるんじゃないのか?
和賀 たしかに、今はなんか見えちゃってるじゃないですか。色々あってここまで来て、これから先はこんな感じかなって……。だったらいっそ、すべてを壊すような、第二の人生を始められるような何かを待ってるのかもしれないっすね。
西堀 でもさ、特に自分では動かないもんね。
和賀 だって、基本は芸人でいたいんですもん。
西堀 いやさ、これ悪い意味じゃなくてね、和賀って、「サセ子」っぽいんだよな。断れないんだよな。飲みの誘いだったり遊びだったり、誘われて断ることないもんな。でも、その代わり自分からは誘わない。だからさ、俺コンビ解散した時にも「誰かの誘いを待ってるのかな」って思ったんだよ。誰かが「一緒にやらない?」って言ってくれるのをさ。
 でも、自分からは動かない。誘えないのかな?
和賀 当たっていますね。でもこれは子供の頃からずっとですね。
西堀 子供の頃からサセ子なの?
和賀 子供の頃からサセ子。サセ子の人生……。
西堀 何がサセ子の人生だよ、『嫌われ松子の一生』みたいに言いやがって。汚いおじさんのくせに! なんか、そう考えると、和賀には「現実から目を逸らす力」に加えて、「サセ子」というか「流される力」も備わってる感じだよな。じゃあ、自分を変える何かを待ってる感じなのか。
和賀 そうですね。でも、人生を変えるほどの何かって、たぶん仕事ではないんじゃないかな……。
西堀 (笑)。そこはもう恋愛なんだ?
和賀 そうですねぇ。
西堀 なんで恋愛のすごさをしみじみ再認識してんだよ! そんな本じゃねーぞ!
和賀 いやいや、たとえばの話ね! 人生観が変わるようなことっていう感じね。それで言うと、あの相方のニュースが出た時、「俺にだけ震災が起こった」って思ったんですよ。震災って、自分ではどうすることもできないけど、全員に降りかかるじゃないですか。町から人もいなくなるし、パニック状態は続くし、お笑いなんかできる状態じゃない。もうどんなに売れてても、面白くても、誰も活動できないじゃないですか。
西堀 そうだな。
和賀 でも、俺が解散した時って、町は変わらず動いているし、お笑いも通常運転。「俺だけに震災が起こった」って感じで……。だから俺、コロナの時って、「これはみんな一緒だね」「みんなライブできないね」って思っちゃったんです。みんな落ち込んでたと思うんですけど、俺は前に経験済みだから、意外と大丈夫だったんです。
西堀 いや、おまえの境遇考えたら分かるよ。そんな中で、まっとうに生きてると思うよ。
和賀 そうですかね?
西堀 いや、おまえまっとうだよ。しっかり働いて、自分の金で生活してさ。
和賀 (笑)。
西堀 でもさ、借金はあるんだっけ?
和賀 ありますね、ただ、消費者金融とかじゃなくて。知り合いに借りた金。
西堀 あ、そうなんだ。なんで消費者金融とかに走らなかったの?
和賀 消費者金融とか、無人のやつとか、使い方が分からなかったんですよね(笑)。
西堀 (笑)。でもさ、今聞いてて思ったのは、「明日死んでもいい」って思えるってことはさ、「明日芸人辞めてもいい」って思ってるのと、同義なのかな? なんか、そんな感じがしちゃったんだよね。
和賀 う~ん……。
西堀 芸人に限らず、明日があると思うから、人って進んでいけると思うんだよ。「こうなりたい!」とか、「こうしたい!」とかさ。それがないわけじゃない、明日終わってもいいってことは、和賀には。ある意味、完結しているというかさ。
和賀 いや! でも芸人で終わりたいんですよ! 何としてでも。芸人失格っていう戦力外通告はされたくないんですよ!
西堀 でも、大恋愛があったら?
和賀 まぁ、それは話が変わってきますよね。
西堀 おい! なんだよそれ! ここまで話してきて、恋愛がすべてに勝るのかよ!