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「芸人至上主義」

西堀 だってさ、今の状況考えると「なんで芸人を辞めないのか」って思う人もいると思うんだよな。
和賀 そうですね……。
西堀 それこそ、収入でいえば、芸人辞めても稼ぐことはできるわけじゃん。稼げる仕事は他にもあるわけじゃん。
和賀 いや、ないでしょう! 40歳で。
西堀 え、そういう考え方はあるんだ? じゃあ、稼げる仕事があったら、辞めたりって考えるわけ?
和賀 うーん、いや! やっぱりないですね。辞めるっていう選択肢は。芸人でいたいんです。
西堀 だよな! これは芸人みんなにある考えだと思うんだよ。だって、今やってるバイトだってめちゃくちゃ好きなわけじゃないだろ?
和賀 う~ん、まぁそうですね。ただ、いいところなんですよね。バーは芸人仲間が周りにいるし、土木の現場だって、いい人ばっかりですもん。
西堀 人間関係か。
和賀 そこのストレスが嫌なんですよね。バイト仲間に限らず、ストレス与えてくる芸人なんていないですもん。
西堀 いやぁ、だからこれも病なんだよな。「芸人至上主義」っていうかさ。やっぱり、「芸人といるのが一番」、「一緒にいて楽しい」って思うだろ?
和賀 めちゃくちゃ思いますね。
西堀 でも、そこが働くうえでの最優先になってしまっているのは、会社員の人とかから考えると、異質なのかもしれないぜ。職場にストレスはつきものって思うんじゃない。
和賀 普通じゃないんでしょうね、収入よりもそっちを大事にしているってのは。
西堀 でもさ、和賀の擁護するわけじゃないけど、ストレスがまったくないわけじゃないもんな、角度が違うっていうか、金がないストレスはめちゃくちゃあるもんな!
和賀 そうですよ!
西堀 それでも芸人は辞めたくないんだもんな。
和賀 なんていうか……本当にお笑いがゼロになったら嫌だっていう思いがあるんですよね。あと、芸人以外にやりたいこともないですし、それを投げ捨ててまで、収入のために何かやることに意味があるのかっていう……。
西堀 これはさ、俺にも当てはまるんだけど、「そこまでしてなんでお笑い続けたいのか、芸人でいたいのか」っていうのはさ、根本的な疑問だよね。
和賀 えぇ、なんでなんだろう。そんな……ね、芸人としてやれてるのかって言われたら、今だって分かんないじゃないですか。でもなんで続けているのか、なんで芸人でいたいのか……。
西堀 俺なんかがさ、和賀と話していて感じるのは、やっぱり「楽しい」ってこと。これに尽きる気がするんだよな。だって、芸人でいるのも、周りにいる芸人と一緒に過ごすのも、楽しいだろ?
和賀 それはめちゃくちゃありますね。同じ思いで、同じ苦労していて……そんな人たちと過ごすのは楽しいですね。
 なんか、よく分かんないんですけど、一緒にいる後輩とか、純粋に売れてほしいって思いますもん、最近は。
西堀 妬みなどなくね。達観してんじゃん(笑)。でもさ、芸人として知り合った人はさ、仮に芸人辞めても会えるわけじゃん。そいつといると「楽しい」だけに焦点当てたらさ、芸人じゃなくても別にいいじゃん。
和賀 でも僕はちょっと違和感あるんですよね。辞めた人と会うっていうのは。芸人辞めた奴には、「おまえは、もう芸人のこととかしゃべんなよ!」って思っちゃう。
西堀 厳しい! 厳しいねぇ。
和賀 なんか、辞めた人の中には、楽しそうな人も多いんですよ。「解放された!」みたいな。でも、僕はそういう人たちを見て、うらやましいとかよりも、「あぁ、あの人辞めちゃったんだな」って思っちゃうんです。
西堀 でもさ、その人の人となりというか、その人との関係は変わらないんじゃないのか?
和賀 ただ、僕には辞めた人に対しての違和感があって。だから、自分が辞めた場合も周りにそう思われるんじゃないかなって考えちゃって、嫌なんですよね。
西堀 じゃあ、やっぱり、「芸人を続けることがすごい、芸人でいることも含めて芸人が一番面白い」っていう「芸人至上主義」に違いないよな。
和賀 そうですね。「芸人至上主義」――これは間違いないと思います。
西堀 とんでもない偏見野郎ですよ(笑)。

芸人でいるための条件

西堀 じゃあさ「芸人でいたい」っていうのは分かるんだけどさ、その次には芸人でい続けるための条件を満たしていないとダメなわけじゃない? それは、和賀はどう考えてんの?
和賀 僕が解散した時に思ったのは、「ネタはやり続けよう」ってことですね。あとはどれだけ貧乏だろうが、どんなに仕事がなくても、ネタだけやっていれば芸人でいられるって……。
西堀 じゃあさ、今ネタやって、ネタでどうにか売れてやろう、どうにかなってやろうっていう思いはあるの?
和賀 それが……ないんですよね……。
西堀 ないのかよ! ネタへの熱い思いとかじゃないのかよ!
和賀 ないんですよ、それ以上に芸人でいられるっていう思いのほうが強い。ネタを作るのは芸人でいたい、芸人でいるために作るしかないっていう意識のほうが強いですね(笑)。
西堀 なんだよそれ! かっこ悪いわ(笑)。でも、確かに「芸人でいる」っていうのは、定義がないもんな。人それぞれだよな。
和賀 難しいんですけど、「周りが芸人って認めていれば芸人」だと思うんですよ。だってテレビに出ている人で、もうネタやってなくても、世間には芸人として見られてるわけじゃないですか。
西堀 あぁ、確かにね。それはあるよね。
和賀 それは、周りが「あの人は芸人だ」って言ってるから。で、「俺はどうなんだ?」って時に証明も証拠もない。その時に「いやいや、僕はネタ書いてますから」って言えば恰好つくでしょ。
西堀 もうそれ、芸人であることのアリバイ作りじゃん! ネタ作りじゃなくて(笑)。じゃあさ、もう芸人としての成功は望まないの? 和賀は今40歳でしょ? でも、錦鯉の長谷川さんなんかは50歳で売れてるわけじゃん。そういうのは自分にはもうないと思ってるの?
和賀 いや、それはあると思っちゃうんですよね。
西堀 いやぁ、そうだよなぁ(笑)。
和賀 それこそ、錦鯉さんとか、永野さんとか、そういう人たちが売れていくのを見ちゃってるんですよね。それが結構あるっていうか。また辞められなくなっちゃうな、っていう感じで。
西堀 じゃあさ、そのために何かを積んでるのか? みんな努力して売れるための何かを積んでるわけだよ、そのために。
和賀 でも、何していいか、分かんないんですよ。
西堀 (笑)。そうだよな。芸人って、これをしたら売れるっていう絶対のセオリーはないもんな。
 じゃあさ、今「副業芸人」ってのがいるじゃん。芸人以外に何か強みがあって、それを芸人としても生かすっていう感じの。それこそ滝沢みたいな。そういった感じの、なんか売れるためにがむしゃらに何かやるっていうのはないの?
和賀 う~ん、なんか、そういう感じというか……言い方難しいんですけど、テレビとか見てると最近思うのが、「俺って承認欲求が弱いな」っていうのがあるんですよね。
西堀 なんかそれで言えば、どん底に近い現状に不満がないってのもそのせいかもね。
和賀 最近よく、「こいつ承認欲求強いなぁ」って、女子アナとか見てて思いますもん(笑)。
西堀 それは承認欲求の塊だわ! あいつらはミスコン勝ち抜いてきた猛者だからな(笑)。ミスコン勝ち抜いて、そっからキー局受けてるわけだからな。
和賀 「私たちはグラビアアイドルとは違うんです」って思いながら活動してるんだろうな、とかって思っちゃうんすよ。
西堀 いやいや、悪口大会じゃないから(笑)。じゃあさ、誰かにコンビ組もうって言われたらどう?
和賀 それが誰かによると思いますけど……。
西堀 でも、そうだよな。変な奴とは組めないよな。トップリードがあるから。キングオブコント決勝まで行ってるんだもんな。
和賀 でも、西堀さんに言われてハッとしたことがあって。「今後コンビ組むとしても、ライバルがトップリードになっちゃうんだよな」って言われたことがありましたよね。
西堀 やっぱり、成功体験があるから、その輝かしい体験があると、どうしても頭の中にあるだろうからね。ライバルが、「一番良かったころの自分」っていうのは、厳しいものがあるよ。
和賀 そうですよね……。
西堀 それって、結構自分で自分が敵みたいなところもあってさ。たぶん多くの人が、「キングオブコントで決勝行った、トップリードの和賀さん」っていう目では見てないことも多いはずなんだよ、今は。でも、自分ではそう思っちゃうじゃない。
和賀 そうですね……。今、YouTubeとかで見られてるのは、そこじゃないんですもんね。ただなぁ、コンビ組んで、コントやりますってなったら、少なくともテレビの人とか、ネタ見せとかではそう見られる気がしちゃうんですよね。
西堀 しかもさっき話していたけど、根っこには「自分のせいじゃない」があるんだもんな。和賀はさ、いろいろあり過ぎて、「芸人でいる」が強い、そこで止まっているんだと思うんだよな。