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File.01 和賀勇介

日給を使いきる男の「目を逸らす力」

西堀 この本はさ、俺のYouTubeチャンネル「西堀ウォーカーチャンネル」に出てもらっている売れてない芸人と俺が対談するというコンセプトなんだよね。
和賀 いやいやいや。まず引っかかるのが、「売れてない芸人」って失礼ですよね(笑)。
西堀 売れてないだろ! ただ、お前は俺のチャンネルのエースだからな。その界隈では売れっ子、大スターだよ(笑)。
和賀 あんまうれしくないですよ(笑)。
西堀 お前の一日に密着した動画が好評でね。その名も「土木作業の日給を一日で使いきる男」シリーズ。あるいは「土木飯」シリーズ。
和賀 いや、ありがたいことですよ。
西堀 まぁ、内容は読んで字の如くなんだけどさ。そっちの話を先にしちゃおうか。もともと、俺のチャンネルは和賀とかと一緒に東京を散歩する動画がメインだったのよ。
和賀 そうですよね、あれも楽しかったですよ。
西堀 でさ、その収録というか、散歩の時から、和賀の芸人らしい突っ込みとかが、冴えていたんだよな。でもね、その後に始まる土木飯シリーズの片鱗みたいなのもあって。
和賀 片鱗ですか?
西堀 うん。どこだったかな、大崎とかそこらへんだったんだけど、線路沿いに公園があって、親子連れとかいてさ。その近くにでっかいタワマンがあるのよ。そこ通り過ぎたときに和賀が、ぱっと振り返って「関係ねぇ!」って(笑)。
「俺には関係ねぇな!」って、自分の人生にタワマンは関係ないって思った瞬間にぽろっと出たんだろうな、デンジャラスの安田さんも「あそこが最高」って(笑)。「なんで口に出すかね」ってさ。土木魂が出ちゃったんだな(笑)。
和賀 なんかどうしても言いたくなったんでしょうね。でも、タワマンなんて、人騙したりして稼がないと住めないんじゃないですかね?
西堀 おい! そんなわけないわ! あともうひとつ、俺が土木飯の動画を撮ろうって思ったきっかけがあってさ。
和賀 なんですか?
西堀 和賀と同じ現場にいて、昼休憩の時間になって、和賀が土木の道具を置いて、現場の目と鼻の先にある、ローストビーフ丼の店に入っていったんだよ。そこにスコップおいて。
 で食べるでしょ。1300円のローストビーフ丼。で、一服して、時間になったらスコップ持って作業始めるんだよ。日当が1万円だよ。昼飯にローストビーフ丼とその他で2000円つかうって、かっこいい生きざまだなって! 
和賀 何も考えてないですよ(笑)。ただ、うまそうだったから食べただけで。
西堀 たださ、視聴者には好評なんだけど、唯一、俺の義理のお母さんだけには不評でね。
和賀 え……!?
西堀 義理のお母さんから、「東京の街を歩く動画が楽しかったのに、急に汚いおじさんが出る動画になった!」ってクレームが来たのよ(笑)。和賀のこと、「あの子生意気ね」って言われちゃって(笑)。
和賀 それはどうしようもない(笑)。
西堀 でさ、ここからは和賀の生態というか、聞きたいことなんだけど、動画を見た人を含めて、和賀を見てみんなが思うのが、「楽しそうだな」。そのあとに続くのが、「なんで」っていう疑問なんだよ。
和賀 「お前みたいな奴がなんで楽しそうなんだ」ってことですか?
西堀 そうそう(笑)。だってさ、朝は買った朝飯だけ持って集合してさ、ファミチキ食べたりしてさ、昼飯も日給があるからって好きなもん食って、で、夜は日給使い果たすまで飲むわけだろ? 楽しそうなんだよ。そこだけ切り取ると。でもみんな、というか普通の人は、そのあとで不思議に思うんだよ。「なんでこの人、こんな環境なのに楽しそうなんだろう」って。今、楽しいの(笑)?
和賀 なんですか、その質問(笑)。でも、前よりは楽しいですね。
西堀 前っていうと、いつよ。
和賀 やっぱり解散した時に比べたら……。
西堀 あぁ、そうか。知らない人もいるかもしれないけど、和賀は元々『トップリード』っていうコンビで、コントやってたんだよ。
和賀 そうです。
西堀 今、芸歴何年目でいつ解散したんだっけ?
和賀 今22年目で……16年目に解散ですね。
西堀 じゃあいい時のピークって何年前?
和賀 デビューして11年目の『キングオブコント2011』ですね。
西堀 決勝進出したんだよな。じゃあそこでプチブレイクというか、食える感じになったんだね。
和賀 まぁ、そうですね。はい。そっから5年くらいは、そんな感じでした。
西堀 5年か……なんで5年で終わっちゃったの?
和賀 いや、だから解散だよ! さっき言ったし、知ってんだろ!
西堀 ごめんごめん(笑)。まぁな、理由はね、あんまり深くは言わなくていいけど、相方の不祥事だよな。ちょっとニュースとかにもなっちゃってな。
 じゃあ、そこが芸人としての底になっちゃった感じ?
和賀 もうデビュー1年目当時に急に戻った感じであったものがすべてなくなったというか……。
西堀 一気になくなったんだ。
和賀 はい、最初のうちは先輩が番組に面白がって呼んでくれたりとかはあったんですけど、そのうちにそれもなくなって……。
西堀 そうか……そのブレイク時って、正直どれくらいもらってたの?
和賀 平均すると月20万円くらいですかね。
西堀 じゃあそれもなくなって、もうヤバいってなって、土木とか?
和賀 はい、前からいろいろなバイトはしてましたけど、そのくらいの時期に、西堀さんに誘われて土木の仕事と、あとは三茶のバーでバイトを始めてましたね。
西堀 今は土木とバーの二足のワラジだもんな!
和賀 一応、芸人だわ! 履かせてくれよ、三足目を! そのつもりでやってんだから!
西堀 (笑)。これもさ、聞いたことなかったんだけど、相方が不祥事起こして、ニュースになるって時は、どんな気持ちで、どう過ごしてたの?
和賀 ニュースになるかどうかも分からなかったんで、ドキドキしてましたけど、結局ニュースになっちゃって、その瞬間は「マスコミの人とかが来たらどうしよう」って思って、すぐに家を飛び出しましたね。
西堀 どこに向かったの?
和賀 5円スロットですね。
西堀 なんでスロット行ってんだよ! なんかそういう衝撃に直面したら、河原とかさ、公園とかでたたずむイメージあるけど。
和賀 1月だったんで寒くて……。
西堀 外はないなって?
和賀 はい(笑)。
西堀 スロット中は何を考えてたの?
和賀 いや、何も考えてなかったですね。不安とかどうするんだろうとか思う前に、スロットが当たったんですよ。
西堀 思う前に当たって、少し忘れられたんだ(笑)。
和賀 はい(笑)。
西堀 クズだねぇ(笑)。じゃあその日はまったくこれからのこととか考えられず?
和賀 そうですね、パチスロのあと家に帰って一人で酒飲んで寝ましたね。
西堀 それで後日、解散になるんだもんな。このエピソード聞いただけでも、今俺が和賀に感じてる、「目を逸らす力」みたいなのを感じるよ。
和賀 「目を逸らす力」って何ですか(笑)。あの時はもうそんな状態じゃなくて、今思い返しても、あんまり覚えてないんですよね。あの当時のことで覚えてるのは、解散直前のタイミングで、有吉さんと西堀さんに呼ばれたこと。
西堀 あー! あったわ、たしかに。
和賀 店に行ったら有吉さんが「もう何も言うな」「全部分かったから」って。俺が来るまでに2人で話してたんでしょうね「こういうことだろう」って(笑)。
西堀 事実とか見たことだけじゃなく、予測も含めてね(笑)。
和賀 いやいや、説明させてくださいよ(笑)。
西堀 こんな経緯で今は一緒にYouTubeとか撮影してるんだけどさ、俺は今でも解散事件の影響があるんじゃないかなって思うのよ。
 たとえば、「芸人としてもっとこうしたらいいのにな」って和賀に投げかけた時に、きちんとそれを受け止められていないっていうか、「でも俺のせいでこうなったわけじゃないしな」ってのがあるんじゃないのかなって。
和賀 いやそれはありますよ。俺のせいじゃない。
西堀 そうだよなぁ。だから、それは感じるわけ。でもその反面、「これでいつまで行くのか」っていうのも思っちゃう。でも、芸人でいたいんだもんな。
和賀 はい。
西堀 やっぱり病気だな!