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 そんな苦労をしながらも、娘と幼い息子を抱え、どうにか前を向こうとしていた矢先に、あの男による恐ろしい犯罪の被害に遭い、またしても深いトラウマを抱えることになってしまいました。そうして深く傷付いている状況でさらに、私の夫や父が亡くなっていることについて、まるで私が殺したかのような記事を書かれ、人間性を疑わざるをえないような報道をされ、精神的に限界を迎えてしまいました。
 はっきり言って、私はつい最近まで毎日のように、自殺を考えていました。でも、それを思いとどまらせてくれたのは、娘と息子でした。この二人の天使たちがいなかったら、私はとっくに自ら命を絶っていただろうと思います。
 最悪の状態は脱したとはいえ、今でも私は、心身も金銭面もギリギリの状態で生きています。みなさん、これでも美人が得だと思いますか? 私には到底思えません。私は、世間一般の「美人は得だ」というイメージとは正反対の、まさに「逆転美人」とでもいうべき、不幸ばかりの人生を送ってしまっているのです。

 世間の人々の好奇心の標的にされ、苦しんでいるさなかに、週刊実態の出版元である四葉社から、手記を書くオファーをいただきました。
 はっきり言ってしまえば四葉社も、私たち家族を苦しめた中の一社です。下世話な好奇心に基づいて、私や家族について、いらぬ記事をたくさん書いてくれました。
 ただ、週刊実態は、極端にひどいデマなどは書かなかったので、各マスコミの中では比較的ましな方でしたし、手記を出版してもらえば、私たちに関する真実を、世の中に正しく発信することができます。四葉社の担当編集者さんも「真実をちゃんと公にして、あらぬ誤解を解きましょう」と言って手記出版を勧めてきました。そうはいっても結局、四葉社はよくも悪くも話題の人物である私の手記を売って、利益を得たいだけだということも分かっています。
 それでも、考えた末に、すべてを承知の上でオファーを受け入れることにしました。
 最大の理由は、興味本位で好き勝手に、虚偽の情報もたっぷり交えて、私たち家族について書かれることに、ほとほと嫌気が差していたからです。今後そういったことが起きないようにするには、私自身の手で真実を書くしかないと思ったからです。
 この手記を通じて、まずは私の半生について知っていただきたいと思います。ただ、読み終わった時には、みなさんに同じ思いを抱いてもらいたいのです。
 人を容姿で判断する「ルッキズム」は、もう世の中全体でやめていこう、と。
 私は、いわゆる美人に分類される形質で生まれてきたために、様々な苦労を強いられてきました。その一方で、私のような人をやっかみたくなってしまうほど、容姿で苦労してきた方々も大勢いらっしゃるのでしょう。――なんてことを言うとまた、「上から目線だ」なんて文句を言う人がきっといると思いますが、「いわゆる美人の立場から、そうでない人を憐れみ共感する」ことを「上から」だと思ってしまう感覚こそ、ルッキズムに毒されてしまっているのです。
 人の容姿に、上も下もないのです。社会のあらゆる場面から、人を容姿で判断してしまうという悪しき風習を取り除いていくべきなのです。世の中のすべての人が、今まで捕らわれていた因習から解放され、ルッキズムが世界中から完全に消滅してしまえば、誰も苦労しなくて済むようになり、もっとみんなが生きやすくなるはずなのに、現状はむしろ逆のようにすら感じます。
 それこそ、たとえば各テレビ局のアナウンサーの選考基準に、明らかに容姿の項目が含まれていることは、もはや公然の秘密と言うべきでしょう。近年の若いアナウンサーたちは、容姿が選考基準に含まれていなかったとは到底思えないほど、いわゆる美男美女ばかりで占められています。しかし、約四十年生きている私は断言できます。三十年ほど前までは、ここまでではありませんでした。男女とも、いわゆる美男美女ではないアナウンサーがたくさん活躍していました。それでよかったのです。なぜなら、本来アナウンサーに求められる能力というのは、ニュース原稿を正確に読んだり、番組の司会をしたり、スポーツ中継の実況をしたり、いずれも容姿とはまったく関係ない、滑舌の良さや語彙力などに基づく能力のはずだからです。
 この手記を通じて、人を容姿で判断することの愚かさを感じてほしいというのが、私の心からの願いです。可愛いとか美人とか、人生で何千回も言われてきましたが、得をしたことなどほとんどなく、逆に苦労ばかりを味わい、ここ十年ほどは輪をかけてひどい不幸続きで、とうとう忌まわしい事件にまで巻き込まれてしまった。――そんな私の哀れな半生を知っていただくことで、ルッキズムが結果的に多くの不幸を生んでしまうのだと実感していただきたいのです。『逆転美人』という本書のタイトルには、「美人は得だ」という世間のイメージとは逆転してしまっている私の現状に加え、その人生を、愛する子供たちのために、今後少しでも逆転させたいという願望も込められています。
 私のような無学の人間が急いで書いた、拙い手記で申し訳ありません。長くなるとは思いますが、あの忌まわしい事件に至るまでの私の半生について、ありのままをお伝えしたいと思います。