最初から読む

 

 次の日記は、約一か月後に更新されていた。

 

『ご報告』 2009/10/11

お久しぶりです。レンです。
やっと気持ちの整理がついたのでご報告します。
ユキちゃんが亡くなりました。
赤ちゃんは無事に生まれました。予定日に陣痛がきて、すぐに病院に行きました。
最初は順調だったのですが、いきみはじめてから何時間たっても生まれず、その途中でユキちゃんの容態が急変し、すぐに緊急手術になりました。
赤ちゃんはなんとか助かりましたが、ユキちゃんは手術中に亡くなりました。

それからは一か月、あっという間に過ぎました。
ユキちゃんのお葬式や、赤ちゃんのお世話が大変で、悲しむ暇もありませんでした。
でも、今こうして一人で文章を書いていると、涙が出てきてしまいます。
つらいけど、赤ちゃんのために僕が強くなるしかありません。
子育て、頑張ります。

レン

 

 佐々木は画面を見つめながら、しばらく呆然ぼうぜんとしていた。行き場のない感情が、心を巡っていた。ユキもレンも、言ってしまえば赤の他人だ。そもそもこのブログ自体、好奇心で読み始めたものだ。
 しかし、日記を追っていくうちに、いつの間にか二人に感情移入していたのだと気づく。今まで味わったことのない喪失感だった。
 はたして、残された父子おやこにどんな人生が待っているのか……。
 佐々木は、二人の未来が気になった。ユキの死を乗り越え、レンが子供と幸せに生きる姿を見たいと願った。
 祈る思いで『次の日記を読む』ボタンをクリックする。
 新しいページが表示される。

 記事のタイトルを見て、佐々木は目を疑った。

 

『一番愛する人へ』 2012/11/28

今日で、このブログを更新するのをやめます。
あの3枚の絵の秘密に気づいてしまったからです。

あなたがいったいどんな苦しみを背負っていたのか、僕には理解することはできません。
あなたが犯してしまった罪がどれほどのものなのか、僕にはわかりません。
あなたを許すことはできません。それでも、僕はあなたを愛し続けます。

レン

 

 それは、最初に読んだ日記だった。
 つまりレンは、2009年10月11日に妻の死を報告した後、日記を一切更新せず(、、、、、、、、、)、数年後に突然、この文章を投稿したということだ。佐々木は改めて、記事を読んでみた。
『一番愛する人』……おそらくユキのことだろう。この文章は亡き妻・ユキに向けて書かれたものだと思われる。
『あなたが犯してしまった罪』……ブログを読む限り、ユキが罪を犯すような描写はなかった。
『あなたを許すことはできません』……あんなに愛していた妻を許せない、とはどういうことだろう。
『あの3枚の絵の秘密』……『絵』といえば、ユキが予定日間近になって描き始めた『未来予想図』が思い当たる。

 

 

 絵の上手な女性が、生まれてくる我が子の未来をイメージして描いた絵。やや珍しい行為だが、とりたてておかしなこととも思えない。すこやかに長生きしてほしい……そんな願いを込めて描いたのだろう。……と、佐々木は思っていた。 
 しかし、レンは5枚のうち、いずれか3枚の絵を見て、そこに隠された『秘密』を知ってしまった。いったい、どんな秘密なのだろう。……佐々木は、難解なパズルの前で立ち尽くすような気分になった。
 しかし、ヒントがないわけではない。絵の端に書かれた数字だ。
 5枚の絵には、それぞれ数字が振ってある。その意味を聞かれ、ユキは『秘密!』とはぐらかした。これが謎を解くカギになりそうだ。

 

この続きは、書籍にてお楽しみください