大沢在昌、長岡弘樹、垣谷美雨、湊かなえ各氏を輩出した小説推理新人賞が今年で45回目を迎えた。未来のストーリーテラーを選ぶべく、選考委員による議論の結果、大賞が決定した。小説家を志す者、あるいは小説ファン必見の選考座談会の模様をお届けする。

(構成・文=門賀美央子 写真=弘瀬秀樹)

 

前編はこちら

 

第45回 小説推理新人賞最終候補作
「昏い熱」鮎村咲希
死者を洗うエンドクリーニング」淀橋大
「いつか見た瑠璃色」谷ユカリ
「恋文」鹿森ゆきの
「三つの栞の謎」七宮慶人

選考委員にお渡しした候補作は、タイトルとペンネームのみ明記し、年齢や職業などは伏せております。

 

 

候補作を絞る

 

──候補作全5作の講評が終わりました。ここからは作品を絞り込んでいく作業に入っていきます。今のところ、評価が厳しかったのは「恋文」と「三つの栞の謎」だったかと思います。この2作は現時点で残念ながら敗退としてよろしいでしょうか。

 

一同:はい。

 

──それでは、「昏い熱」「いつか見た瑠璃色」「死体を洗う」の3作について話を進めていきたいと思います。

 

薬丸:「死体を洗う」については、やはりお二人も指摘されていた「短編として完結していない」点が大きな問題だと思います。主人公たちが前職を辞めた理由などをきちんと書き、特殊清掃を仕事にした経緯もしっかりと膨らませてほしかったですね。

 

中山:特殊清掃という職業ならではの描写もほしかったです。死体の臭いや飛沫、さらには消毒や消臭の作業も一筋縄ではいかない。そこをきっちり書き込まないと仕事の特殊性って読者に伝わらないのですが、さらっと流してしまったために特殊清掃でなくてもよかったんじゃないか、と感じてしまいます。

 この方は3年前の小説推理新人賞で最終候補に残られていました。当時の選考委員の方々の選評でも文章の読みづらさは指摘されていましたが、今回向上していない点は評価しづらいですね。

 

恩田:最初に中山さんが指摘されていた「描写しているようで描写できておらず説明に終始している」という点も看過できないですね。

 

中山:臭いや視覚といった感覚的なものは丁寧に描写してはじめてリアルに伝わるのに、そこを全部説明で終わらせてしまっているのがもったいなく感じます。

 

薬丸:キャラクターの書き方も惜しいです。元刑事や元記者と設定だけを見るとキャラが立っているはずが、セリフや行動、仕草からは個々の特徴が見えてこないんです。あくまでも外側の設定だけで人物が書かれていて、設定を活かす描写がないように感じました。

 

中山:主人公の二人がここまで謎を追及する理由についても、あとひと押しがほしかったと思います。僕の作品では、事故物件を売り出す際、死因によって価格が変わることを理由にしました。自殺だったら3割減だけど、殺人だったら5割減になるので、切実な要請になりうるんですね。ところが、本作ではただ元刑事だったから、元新聞記者だったからなど、観念的なことだけで動いてるから不自然に感じられます。登場人物が持つ背景が、後付けになっているんです。これも描写ではなく説明です。すべてを説明で終わらせようとするので、地の文が長くなるし、セリフでもキャラクターを表しきれないのです。

 

恩田:今回指摘された部分を次回作にきちんと反映した上でこの路線で行けば、新人賞を受賞できる可能性はある方だと思います。

 

──ここまでのお話だと「死者を洗う」は単独の短編として成立していない部分や描写に関して欠点が目立ち、受賞作とするのは少し厳しいという結論になったように思います。この後は「昏い熱」と「いつか見た瑠璃色」どちらが受賞作にふさわしいか、検討してもよろしいでしょうか。

 

一同:結構です。

 

薬丸:ただ、みなさん、おそらくこれをなんとしてでも一番推したいという作品がないんじゃないでしょうか。

 

恩田:ないですね。

 

中山:僕もありません。

 

薬丸:僕は「昏い熱」と「いつか見た瑠璃色」ならどちらが受賞作になっても納得できる、という気持ちでいます。

 

中山:二つを比べると、引っかかりが少ないのは「瑠璃色」の方ですね。

 

恩田:私は「昏い熱」の方が好きです。ただやっぱりどうしても引っかかりはあります。例えばそもそも主人公の女子中学生がなぜそんな早く現場にたどり着けるのだろうかとか細かい疑問が未解決のまま散乱しています。

 

薬丸:そこで何かいいオチがあったら印象は全く違っていたでしょうね。

 

恩田:そうなんです。最後に盛り上がりを持たせたまま、歯切れよく終われた気がします。

 

中山:この作品は長編を無理やり短編にしたような印象を持ちました。

 

薬丸:確かに長編にできそうな素材だと思います。

 

中山:長編だったらキャラクターの肉づけや動機づけをもう少し丁寧にできたのでしょうが、短編に仕立てたがために不自然さが残っている。結局、料理の仕方が少し荒っぽいと言えるのかもしれません。現場に集まってくる野次馬の数だって、書かれている倍はいてもいいはずなんです。

 

恩田:そうしたら、現場マニアの人たちの気持ち悪さみたいなのをもっと出すことができたでしょうね。

 

薬丸:純然たる野次馬と何か別の目的がある人たちを書き分けることもできます。

 

中山:いつも来る常連の中でも自然にグループができて彼らは実は……という展開だったらまだ納得できます。

 

恩田:そういうのがなく、最初から事件の関係者だけが集まってるんですよね。

 

中山:そうなんです。そのせいで不自然さが目立ってしまいました。

 

薬丸:切り口は面白いと思うのですが……。

 

恩田:悪くないです。登場人物それぞれの事情もきちんと書かれています。

 

薬丸:せめて中編にすれば長谷川が最後に殺人に及ぼうとする動機も説明できたのですんなり腑に落ちるものになったでしょう。ほんのわずかな設定、たとえば二人の距離が縮まって、長谷川の家に主人公が遊びに行くと何かが起こったとかそういうシーンで伏線を仕込めそうなのに、と思いました。

 

中山:長編にすべき題材を短編で書いた弊害が出てしまいましたね。

 

──「いつか見た瑠璃色」はいかがでしょうか。

 

恩田:読みやすいのは確かで、そんなに嫌な人も出てこない。でも、私は強く推せません。

 

中山:本当だったら加点方式で受賞作を決めたいのだけれど、難しいですね。他の4作が減点せざるをえないから必然的にこの作品が残る。だからといって強く推したい要素もないんです。新人に必要なのは突破力だと思っていますが、それがない。相対評価で残ってしまいました。

 

恩田:そう、あくまで相対評価。

 

薬丸:○か×かを問われると、×をつけづらいタイプの作品ではあります。ただこの作品に賞をあげて、このあと短編を何作か書いて本にしたときに、読者の購買意欲をそそる作品集になりうるかどうか。少し疑問が残ります。

 

恩田:この方が今後どういう短編を書くのかなと想像したときに、たぶん同様の作品を書くことになると思うんですが、それらに魅力を感じるかというと……。

 

中山:ただ一つ希望があるのは、作者にとってこの作品がほとんど初めて書いた小説なんじゃないか、と思える点なんですよ。もし創作歴が浅いなら、まだまだいいものが書ける可能性はある。将来を見据えるのなら「瑠璃色」を推したいです。

 

──当賞では応募時に他賞への応募履歴を書いてもらっていますが、中山さんがおっしゃるように谷さんはこれが初応募でした。

 

薬丸:僕は「瑠璃色」が受賞作であったとしても反対はしません。だけど、すごく積極的に推すという感じでもない。瑕疵が少ないから残った作品を受賞作にしてよいのか、判断に苦しみます。

 

中山:ミステリーの新人賞だから、「ミステリー」として瑕疵があると受賞作としてはどうしてもつらいんですよね。

 

恩田:私は、小説としては「昏い熱」がふさわしいかと思います。

 

中山:僕はこれまでの応募歴も少し考慮に入れたいです。過去に最終選考くらいまで進めた人はその時々の選考者に選評をもらっているはずです。もともと力があるから上位に残るのであって、あとは選評で指摘されたところを正しく理解し咀嚼してきっちりと直せば次は受賞できる。そもそも、プロの作家は作品を書く過程で編集者と何度もやり取りをし、意見を聞きながらブラッシュアップしていきます。聞く耳がなければ作品はできないと僕は思っています。アドバイスを聞き入れ、修正していく力もプロとして必要な資質だと考えています。新人賞は伸びしろを見る必要もあると思いますが、個人的には「瑠璃色」の方がまだ伸びしろがあるように感じます。こればかりは、やってみないとわからないのですが。

 

薬丸:2作を比較したときに、「昏い熱」の後半の唐突さなどが引っかかったんです。切り口は確かにキャッチーです。ただ「瑠璃色」より瑕が瑕として目立ってしまう。

 

中山:「昏い熱」を最初に読んだときに書きなれているなと思いました。でも、「瑠璃色」の人も数を重ねればもっと洗練されていくように感じました。だから、この2作については、文章力で優劣を付けるのは早計な気がするのです。

 

薬丸:同時受賞というのはなしでしょうか。

 

──過去にはありますが、基本的には1作受賞にしています。

 

恩田:今回は甲乙つけがたくてどちらも受賞、というわけではないですからね。消極的理由での同時受賞は避けたいです。中山さんがおっしゃる通り、「瑠璃色」の作者は今後うまくなるだろうと思います。ただ、今の時点では、作家としてのオリジナリティを感じることが難しいです。こういう感動的であったり家族の繋がりを強調したりするミステリーを書く作家には上手な人がたくさんいます。その人たちと差別化できるか、市場に割って入っていけるか考えたとき、厳しいように思います。「瑠璃色」に限らず、今回の候補作はどれも既視感がある上、今現在ある競合作品に敵う出来とは思えませんでした。将来性を考えるとむしろ推しきれないところがあるんです。

 

薬丸:「昏い熱」はこのまま作品が世に出てしまうのはなんだかもったいない気がします。編集者のアドバイスや今回の選評を活かして、後半を膨らませることができたら良い小説になると思います。扱っている素材としてはこちらの方がより魅力的に映ります。ただ短編としての全体的な完成度は「瑠璃色」の方が高い。二作を全く違う基準で比べなければならないので決断しづらいですね。

 

中山:お二人は、短編の場合、どれぐらいの枚数が限度だと思われますか。100枚ぐらい?

 

恩田:もう少し短いと思います。 

 

薬丸:僕は普通短編といわれると60枚程度を想定します。

 

恩田:長くてもせいぜい80枚でしょう。

 

中山:やはりそうですよね。その枚数の中で話をどれだけまとめられるかは、テクニックも関係してくると思うんです。その点、「昏い熱」の評価が落ちる。どうしても減点方式になってしまうのですが……。ネタはいいんですが、調理の仕方がよくない。逆に「瑠璃色」はそんなに新鮮なネタではないが、調理がうまいから食べられるというイメージです。だからどちらを受賞作にするにしても条件付きになり、その緩い方を選ぶしかないんですよね。

 

恩田:そうですね。

 

中山:片方は瑕疵をどれだけ目立たなくするかだし、もう片方はどれだけもっと魅力的な話にするかです。どちらのハードルがより高いのか……。

 

──評価についての議論が尽きてきたかと思います。受賞作をどちらにするか……いかがでしょうか。

 

薬丸:ここまでの話だと恩田さんが「昏い熱」派で中山さんが「いつか見た瑠璃色」派ですね。多数決にするなら、あとは僕次第ということですね。この2作は魅力がそれぞれ全然違うところにあるし、足りないところも同様で、二者択一で評価するのはなかなか難しい。ただ最終的な結論はつけなければならないので、受賞作を1作とするなら僕は腹をくくります。

 

設定の類似する既存作品があるなら、それを上回る魅力を加えないと 薬丸岳氏

 

──では、編集部判断で受賞作を1作決めていただくことにいたします。最後にもう一度、両作品の長所を確認した上で、決を取らせてください。

 

薬丸:「昏い熱」は切り口がよかった。僕は創作において切り口を重視しているので、本作の他に類を見ない設定は高く評価したいです。また、今という時代の暗い面を感じさせてくれた部分もよかった点です。逆に「いつか見た瑠璃色」は顕著な特長を持つ作品ではないけれど、全体を通して引っかかりがなく、すっきりと読めました。もっと暗い話になるのかと思いきや最後は爽やかに締められ、候補作の中で一番読み口がよかった点は評価したいと思います。

 

恩田:「昏い熱」は時代の空気を捉えていて、題材も面白いと思いました。主人公の女の子がなぜ事件事故の野次馬になるのか、その必然性が感じられましたし、だんだん己の行動に取り込まれていって、無意識のうちによりひどい結果を求めている自分に気がついて愕然とするシーンはよく書けていました。何より小説としての魅力を感じました。「瑠璃色」は確かに読後感がとてもいい。嫌味なく素直に読めるところは美点だと思います。また、登場人物が多いけれどもきちんと書き分けられていて、すんなり頭に入ってきました。人物が多いと出し入れが難しくなるものですが、そこをクリアしていることを考えても上手な方なんだと思います。

 

中山:短編小説は“今”を切り取ることのできるジャンルでもあります。その点、「昏い熱」はお二方がおっしゃったようにキャッチーな題材で、いいところに目をつけているなというのが第一印象でした。「瑠璃色」の方は、死んだ人間の心理を探るという昔からのテーマがうまく書かれてました。候補作の中では一番優しい小説だったでしょう。殺伐としたことも多い世の中で、読者が何を求めているか考えたときに、こういう優しい小説も求められてるものの一つなのでは、と思わされました。

 

──それでは、最後は挙手で決を取りたいと思います。まず「昏い熱」を受賞作に、という方。

 

恩田:はい。

 

──「いつか見た瑠璃色」を、という方。

 

中山 薬丸:はい。

 

──ありがとうございます。では、2対1で受賞作は「いつか見た瑠璃色」といたします。よろしいでしょうか。

 

一同:結構です。

 

薬丸:どうして僕が「瑠璃色」を選んだのか理由を最後に説明させてください。現代性や物語の切り口という点では「昏い熱」の方が上でした。ただ、最終的な決め手になったのはラストシーンです。主人公が事故現場マニアになる元凶となった人間と邂逅するシーンをせっかく作ったのに、その人間と主人公を対峙させなかったのはなんとも惜しく感じたのです。あの場面で二人をそうさせないのは、作者の逃げのように思いました。

 

中山:枚数にまだ余裕があるのだから、もう少し書いてほしかったですね。

 

恩田:ただ、私はやはり「昏い熱」の著者の題材を選ぶセンスを買いたいと思います。時代を的確に捉えられるっていうのは、小説を書く上でとても大事だと思います。

 

薬丸:それはまったくおっしゃる通りです。

 

中山:素材で味が決まることは往々にしてありますからね。

 

──では、第45回小説推理新人賞受賞作は「いつか見た瑠璃色」に決定いたします。長時間のご議論、ありがとうございました。

 

応募者へメッセージ

 

──丁寧に判断していただき、まことにありがとうございました。最後に次回応募される方に向けてアドバイスをいただければと思います。

 

薬丸:小説として体裁の整った完成度の高い作品で応募するのは当然ですが、受賞したら、それが自分のデビュー作となって書店に並ぶのだということをもっともっと意識してほしいと思います。この小説が書店に並んだときに、はたして自分の手は伸びるだろうか。そんなことを考えながら構想を練るのは大事です。みなさん、作家という職業に憧れを持って書かれていると思います。大谷翔平選手がWBCの決勝前にしたスピーチではありませんが、憧れている限りは超えられないんです。憧れながらも、既存の作家たちが持っていないのは何なんだろうとか、自分だけの売りはどこにあるのかというところまで考えられないと、プロとしてやっていくのは難しいと思います。

 

恩田:その通りだと思います。これは本当に自分が読みたいと思える物語なのか、きちんと見極めてほしいです。読者の視点を持つといっても、単純に今これが流行ってるから……というふうに安易な姿勢だと、すぐに古くなってしまう。本当に自分が書きたいもの、もっといえば自分が読みたいものを書くしかない。デビュー後は憧れのベテラン作家が競合相手になります。そこでやっていく上で、この物語は読者としての私が読みたいと思うものだろうか、と問いかけながら書いてほしいなと思います。

 

中山:テクニックの話をすると、自作への客観性を持ってほしいと思います。客観性を持ったら、まずプロローグはつけないです。極論になるかもしれませんが、短編にプロローグとエピローグは基本的には不要です。それらをつけるのは自意識の為せる業なのではないでしょうか。そこで作者の影を感じさせても意味がないと思います。

 

──ありがとうございます。もうひとつ、伺っておきたいことがあります。本日、連作短編の最初の一話のような作品を新人賞に出すことについて苦言がありましたが、過去の選考座談会でもたびたび同様の指摘がありました。それでも依然としてそういった短編が応募されます。改めてなぜ「連作短編の最初の一話」的な作品が新人賞応募作としてふさわしくないのか説明をお願いできるでしょうか。

 

中山:単純に、短編として完結していないからです。

 

薬丸:連作短編の一話目のように感じられる理由は、本来作品中で明かされるべき情報を隠しているからです。例えば今回の「死者を洗う」だと、主人公がどういう事件で警察をやめることになったのかを具体的に示さず、ほのめかす程度にしか書かれていない。だけど、読み進めるにはそこはやっぱり気になるところなのです。まるで「受賞したらこの続きが読めますよ」と言っているようで、選考委員としてはアンフェアに感じるんです。その作品の中で出すべき情報は出し惜しみせず開陳すべきです。

 

恩田:これの続きを読みたいと多くの人が思って、結果として連作短編になるのは健全なことです。けれども、最初から「まだこの先がありますよ」というのを感じさせていては、それは読者に対する甘えなのではないでしょうか。

 

中山:プロが最初から連作短編の依頼を受けて書くのならそれでいいんです。また、恩田さんがおっしゃった通り、続きを読みたい! このキャラクターの後のことを知りたい! と読者に思わせた結果が連作になるのもいい。でも、新人賞の応募作でそれをやるのは、ただ必要な情報をすっ飛ばしてるだけなのです。下手に作為を用いるせいで作品の魅力も削ってしまっています。プロになって10年20年の人間がやって許されることと、デビュー前の人がやって許されることは違います。

 

薬丸:むしろ最初からすべてをさらして、受賞した後に編集者と話し合って「連作短編にするならここは削っておきましょうか」となる方がいいでしょうね。

 

──これから応募しようと考えている方々には大変貴重なお話だったかと思います。では、これで本年の小説推理新人賞選考会を終わりたいと思います。ありがとうございました。

 

 

受賞作
「いつか見た瑠璃色」
谷ユカリ

 

谷ユカリ氏

 

プロフィール
1960年7月10日生まれ。東京都出身。成蹊大学文学部卒業。現在はパート勤務やボランティア活動に従事している。

 

受賞の言葉

 還暦を迎えた時、これまでの愚かな失敗も軽薄な選択も、すべて白紙に戻り、一からやり直せるのだと思いました。これからは本当にやりたい事だけをしようと誓い、いくつかの選択肢の中から選んだのが書くことでした。その最初の挑戦が、この小説推理新人賞です。選んで頂けて、体が震えるほど嬉しいと同時に、少し怖気づいている自分もいます。リセットしても、臆病な気質は変わらないようです。

 最終選考まで残して下さいました双葉社の皆様、拙い文章をお読み下さり、選んで下さいました恩田陸先生、中山七里先生、薬丸岳先生に心から御礼申し上げます。

 これから私は何を、どのように書けばいいのか、手探りの日々が始まります。自分が知っていることしか書けないので、知らないことが多過ぎる私には、書けることは少ないのかも知れません。それでも、確かに感じていること、信じていること、望んでいることを誰かと共有するために、今、踏み出します。