実父・尊氏にうとまれて孤独のなかで育ち、長じて叔父・直義の養子になった足利直冬の知られざる悲壮な生涯!

 

「WEB小説推理」2026年9月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『ふゆがすみ』の読みどころをご紹介します。

 

 

 

 

■『冬霞』森山光太郎  /細谷正充 [評]

 

討つべき相手は武士の王である父親。足利尊氏の息子の直冬ただふゆが南北朝時代を激しく生きる

 

 古代から戦国時代まで、日本史を横断する森山光太郎が、新作の主人公に選んだのは、南北朝時代の武将・足利直冬だ。元弘3年(1333年)、後醍醐帝を頂点とする6万の大軍に攻められ、鎌倉幕府は滅亡した。その混乱の渦中で、まだ幼いいまくまは、母親を斬り殺される。足利尊氏の子だが、打ち捨てられていた新熊野。やがて成長した彼は父親に会おうとするが拒否され、尊氏の弟の直義ただよしの養子となり、足利直冬の名を与えられた。

 

 一方、おおとうの宮護良親王みやもりよししんのうの娘のかすみ綴連つづれのきみ)は、足利家の武士に父親を斬り殺された。鎌倉から南朝の拠点である吉野に逃げようとした母親も、霞を産むと力尽きて死亡。しかし吉野は霞を受け入れず、父親と親交の深かった楠木一族に育てられ、忍びの技を身につける。足利家と戦う力を得るため、西国(九州)の海で貿易と戦力増強に邁進する。そんな霞だが、楠木一族の正行まさつらが、足利家を討つための戦備えを始めたと聞き、京にやって来る。そして直冬と運命的な出会いをするのだった。

 

 足利直冬は最初、尊氏のために戦うが、さまざまな体験を経てなが探題たんだいとなり、西国に行くと力を蓄えて父親に反旗を翻す。母親を殺されたときに“この世の戦をもたらそうとした者こそが、己の敵だ”と考えるようになった直冬が実の父こそが最大の敵だと思い定めるまでを、作者は興趣豊かなストーリーで描き出しているのである。ヒロインというべき霞や、直冬の仲間となる戦大好きな仁科盛宗や、異装の今川直貞たださだなど、脇役陣も魅力的である。

 

 さらに尊氏と直義の兄弟と、尊氏に心酔している高師直の肖像も、じっくりと書き込まれている。お互いの心の底の底まで理解していながら、戦乱から泰平へと向かう時代の中で、食い違っていく3人の姿も、大きな読みどころになっている。

 

 といっても内容は堅苦しくない。戦のシーンは迫力満点。悩み苦しみながら、自らの道を切り拓いていく直冬に、魅了されずにはいられないのだ。