キャリアがキラキラしていなくても、結婚をせず子供がいなくても。いわゆる「主人公」らしくない女性が一人で幸せに暮らすには? 発売中の南綾子さんの新刊は、人生に目標も夢もない30代の響がひそかに憧れる社内の「庶務のおばちゃん」と友情を育み、一歩前進する姿を描いています。
著者の南綾子さんと同じ『女による女のためのR-18文学賞』でデビューした上村裕香さんのレビューで『わたしは今すぐおばさんになりたい』の読みどころをご紹介します。

『わたしは今すぐおばさんになりたい』南綾子 /上村裕香 [評]
この物語を、ずっと求めていた。キャリアウーマンになるわけでも、結婚して家庭を築くわけでもない、ただ平凡な日常を愛し、幸せに生きる「独身のおばさん」を目標にした物語を、ずっと求めていた。なかった。この世の中には、夢も目標もなく一人で生きる女性の物語は存在できないのだと思っていた。それは一般に「魅力的ではない」から。そう思っていたのに、この小説の登場人物たちはどこまでも魅力的で、自由で、人生を照らす光になってくれる。
人生迷子中のアラサー・宇佐美響は、彼氏はいるけど結婚の予定はなく、仕事にやりがいも持てず、仕事も家庭も順調な友人たちと自分を比べてばかりいる。社内の「庶務のおばちゃん」こと桜子が気になる響は、ひどく落ち込んだ夜、おにぎり屋で偶然会った彼女に助けられる。桜子と彼女の友人たちと、結婚の話も仕事の話もナシで美味しい料理を食べ、くだらない話をして笑い合う時間を過ごし、響は次第に「一人なのに幸せそうに生きる」桜子に影響されていく。
しがらみから離れてみたら、一人って案外快適で、でも、一人で生きていっていいのかな。まだ間に合うんじゃないかな。そう迷う響の気持ちが、痛いほどわかった。
わたしは先月、25歳になった。正社員としてバリバリ働く自分も、パートナーを得たり家族を作ったりする未来も、想像できない。たぶん、世間一般で言われるそんな「正規ルート」な生き方は向いてない。分かっているけど、「正規ルート」から外れるのはやっぱり怖い。そんなとき、桜子や響のような存在が描かれた小説が一冊でもこの世にあることが、どんなに人生の命綱になるか。
あくまでも桜子は忠告してくれる。「とにかく、自分で決めなさい。自分で決めたものだけが、この道を歩けるの」と。わたしはその言葉にも、うれしくなる。一人で生きている仲間と同じ道なら、一人ぼっちで、時々落ち込んで塩辛い味噌汁を飲む日があっても、きっと悪くないはずだ。