町中華編
町中華はライフスタイル
#友達が町中華の子
そもそも“町中華”って俺たち50代以上の人にとっては当たり前の存在、生活の一環だからね。
昭和の時代には個人営業のラーメン専門店なんてものはほとんどなくて、ラーメン屋=町中華だった。それが『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)という番組になり、クローズアップされるわけだから。世の中、何が注目されるのかわからないもんだよ。
最初に番組の企画書が俺のところに来た時には正直、驚いたね。
「えっー。嘘だろ。これは俺をだますドッキリじゃないのか?」って本気に思ったんだよ。
番組タイトルからして、俺のライフスタイルそのものだし、オンエアしてる内容も、俺が飲んでうまいもの食って一言つぶやく。完全に“プライベート映像”だもの。
町中華ってのは自分の成長と町の栄枯盛衰を見ているようでね。
昔は小学校の同学年に一人は町中華の家の子がいたもんだよ。俺が生まれた東京・新宿、通っていた学校全体で町中華の子が5~6人はいたんじゃないかな。
「今日はあそこの店で食うぞ」ってオヤジに言われて連れられ、家族全員で同級生の店に食べに行くのは妙に照れ臭い。親のファッションセンスから会話から口癖まで。何から何まで垣間見られちゃうわけだからさ。
食べに行く前はいつも「出前にしてくんないかな」と思ったもの。
これぞ地域密着型の生活様式。実にいい時代だった。
どこの店にも一軒一軒に歴史があるんだよ。その同級生、後継ぎだったけど、一瞬だけ継いで結局、辞めちゃったなぁ。
バブル経済の真っただ中という時代の影響もあったのかもしれない。
山田太一脚本の名作ドラマ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)もそんな設定だったんだよ。
四流大学生の柳沢慎吾演じる西寺実の実家は町中華でさ、一度は企業に勤めたものの葛藤の末、脱サラして家業を継ぐという話。
“昭和の原風景”ともいえる町中華も後継者問題もあって減少の一途をたどっている。こんな話を共有できるのも40代半ばまでだろうね。若い世代は家族で食事する店はファミレスが主流になっちゃったもんな。
もはや「出先で見つけた店、いつか行こうと思ってる」では遅過ぎる。見つけたら即、入らなきゃ。いつなくなっちゃうかわかんないんだから。「カレーは飲み物」って言った人がいたけど、今の時代は“町中華はナマモノ”かもね。
よく考えたらスナックも町中華もどっちも絶滅危惧種。どうして俺の仕事ってのは、消えゆくものばかりなんだろ? 最後は自分が消えたりしてさ。
銭湯帰りに町中華
#勝利の方程式
町中華の良さの一つに人の温かみがある。
家族経営の店が多いだけに、お客さんとの距離が近い。ビールを頼むと突き出しがスーッと出てくるような店がいいじゃない。居酒屋だと突き出しは有料だったりするけど、町中華はほとんどがサービスなんだから。
地域に根付いた町中華には、暗黙の了解はある。基本、ながっちりは禁物だ。店の滞在時間は長くても40~50分じゃないの? 一人だったら注文を待つ間、週刊誌の袋とじ開けて、大将とちらっと話して帰る。
ボトルキープができる店もあるね。そういった店の常連客たちは晩飯時の混雑を避け、客が引いた時間に飲みに来る。店の動きを邪魔するってことは決してない。
晩飯時は出前の電話だって鳴ってるわけだし、
「大将、ビール出しとくから付けといてよ」ってなるわけ。押しつけがましくない程度のセルフサービス。こういった店とお客の連携が実にいいんだな。チーンとかピンポーンで呼び出すのとは違ってね。
臨機応変、言われなくたって混んでたら相席もする。ファミレス世代の人たちはこういうことに慣れてないのかもしれないな。ドレスコードがある高級料理店もいいけど、大衆文化におけるお店のマナーも大切にしたいよ。
だって町中華で「俺は客だ!」なんてふんぞり返ってる奴見たことないでしょ?
その一方、40年間ただ黙って競馬新聞を読みながらラーメン食って帰るおじさんがいるからね。そのおじさん、馬券当てたら絶対スナックに行くんだよ。
しっかり流れができてる。場外馬券×町中華×スナックという勝利の方程式がね。
町中華って住宅街に突如一軒、ポツーンとあったりするでしょ? チェーン店は駅前にしかないけど。町中華の場合、元々商店街だったのに、時代の流れで店の周りが全部店を閉めた例も多々ある。町中華が残っているような街並みなら、近くにまだ銭湯もあったりする。
ひとっ風呂浴びた後、なぜだか無性に行きたくなるよね。
若い頃、銭湯は“一番風呂”と決めていた。共同便所・風呂なしのアパートに住んでいたし、何より暇だったからね。まだ明るい3時半から誰もいない銭湯で、ゆっくりと湯船に浸かる。極楽だよ。売れてない芸人の特権。
そのあと、5時から町中華へというパターンが多かったね。
町中華はランチタイムが終わると、だいたい夕方まで休憩で、17時頃に再開する。まだ誰もいない店でカウンターに陣取る。
注文はもちろん、瓶ビールだ。
風呂上がりの一杯が、うまいのなんの。たまらんね。
電話番号が3ケタの店は間違いなく名店
#メニュー豊富
町中華ってのは、とりあえず“中華”と名乗っているけど、料理のジャンルは問わず何でも出す店が多い。
カレーライスにオムライス、親子丼、かつ丼に生姜焼きなど、メニューは実に豊富だ。
しかもメニュー豊富なのにファミレスなどの大手チェーン店と違ってほとんどのものが、手作り。出来合いの業務用冷凍総菜を袋から出してレンジで「チーン」じゃないの。そんなことカウンター席から丸見えの厨房ではできやしないからね。
呑兵衛用のつまみメニューが充実してる店もあるし、なくたって丼モノのアタマ(上にのってる具)を注文したって快く対応してくれるだろう。
店内に張り出された無数のメニューを夫婦二人で作り、ホールと出前をこなしてるわけだからスーパーマン、スーパーウーマンだよな。全ては家族の生活、子供を育てるためにやっているわけで、そこに響かない人はいないんじゃないかな。
子供の頃、両親に連れられて東京・大久保にあった老舗の町中華『日の出中華』によく行ったね。日の出には息子がいて、マスターと一緒に中華鍋を振ってたけど、息子が途中、グレたりしてさ。店を継ぐのが遅かった。
俺の実家は雀荘。経営が傾いてスナックに商売替えするんだけど、両親は奮闘してる日の出の姿を見て、長男である俺の将来と照らし合わせていたんだと思う。
日の出はのちにネットでも“昭和レトロ感あふれる店”と紹介されたりして、広く知れ渡ったけど、俺にとっては、リアルにガキの頃の思い出がよみがえる懐かしい店だったよ。
俺が無意識のうちに町中華好きになったルーツと言ってもいいかもしれない。
大人になって、日の出に行ってみたら、そのメニューの豊富さ、そして安さにびっくりしたよ。
「メニューを端から端まで頼んでも1万円行かねぇんじゃないか?」
よくテレビで「ファミレスのメニュー全部食べる」的な企画あるけど、その企画が個人の財布でできちゃうくらいに安かった。
日の出は閉店しちゃったけど、やっぱり長く営業しているお店は応援したくなるよね。自動ドアじゃない店だっていっぱいあるんだから。“自動ドア紀元前”に建てられた文化財的な町中華だ。
東京で言うと、看板に書かれた電話番号が“下3ケタ”の店も多い。マジックで無理やり「3」って加えてあったりさ。一ケタ少ないってことは30年生き残ってるわけだから(電話番号が合計10ケタになったのは1991年)。味の方は間違いないだろう。
スナックロケなど、野外ロケ収録前に“下見”を入れるときは、そんな外見でいい味出してる店に行くことにしてるよ。
『玉袋筋太郎の#昭和あるある』は全5回で連日公開予定