まえがき

『昭和40年代男』『昭和45年女』みたいな昭和を懐かしむ雑誌がウケてるね。テレビもそんな企画が目立つしね。「昭和を懐かしい」と思う人「昭和ってなんだよ!」って若い人、それぞれが繋がればいいなぁ~って思いがこの本には詰まっている。
 玉袋筋太郎は“スナック”と“町中華”を中心とした芸能生活の“昭和あるある”ど真ん中で生きている。あの時代が好きだし、老若男女に伝えたい。
 昭和が魅力的に感じるのはなぜか? 
「頑張れば報われるし、誰にでも未来はやってくる」という共通認識で、前向きな熱いエネルギーに溢れていたからじゃないかな。
 大抵近所の人の顔と名前が一致したよ。今と比べると不便なことは多かったけど、SNSがない時代なりの人と人との繋がりが強かった。
 バブル経済崩壊後の平成は“ゆとり世代”になり「頑張っても、頑張らなくてもいいんじゃないか」に変化。
 令和を生きる“Z世代”たちはSNSが当たり前、産まれてからずっと不景気。「頑張るって何? 生きるのに精いっぱいだよ」になってるような気がする。
 昭和を生きた世代からすると今は息苦しくストレスだらけに感じるだろう。昭和が良かった。40年前が懐かしい。出来ることなら戻りたい…。
 しかし、本当にそれでいいのだろうか? 
 歳を重ねると海馬の動きが悪くなる。目の前のことに感動しなくなり脳の中枢・前頭前野が衰えてきて、新しいものを受け入れられなくなってるだけじゃないのか?
 昭和は何をするにも今より制限が少なく、“いい加減(適度)”で自由を謳歌していたという面もあった。でもその実、立場の弱い人に“配慮が足りないだけ”であったり、たまたま運が良かっただけで行き当たりばったりの“いい加減(デタラメ)”で乗り越えてきただけなのではないか?
2025年で昭和100年を迎える。昭和と令和(いけねぇ平成も入れなきゃ)のいいところ・そうでもなかったところを“あるある”を通じてあらゆるモノの“いい加減”をゆる~く考えていきたい。
 その“いい加減”という言葉がポイントで、いい意味にも悪い意味にも使われる同音異義語だよね。“適度”“良い頃合い”を表すのもいい加減だし“デタラメ”“杜撰”を表すのもいい加減だからさ。
 新しいものを知りもせずに拒絶する頑固オヤジにはなりたくないし、ダサすぎる。
昭和のいいところは残し、令和の進化したものは積極的に取り入れる。“良い加減”とか“E加減”でいきたいものだよ。それが昭和オヤジの生きる道じゃないのかな。
 しぶとく長生きしてやろうじゃないの。

スナック編

昭和あるあるの王道スナック

#ハーナビ
 まさに“大衆”の味方、大衆がくつろげる最たる場所がスナックだからね。読者のみなさんは、すでに行きつけのスナックの一軒や二軒あることでしょう。
 とはいえ、最近は行きつけのスナックがある人は少なくなったし、スナック自体は減ってるんだよ。新規で開業する店よりも、ママ・マスターの高齢化で閉店せざるを得ないスナックが増えているのが現実だからね。
 何より問題なのは“後輩を行きつけのスナックに連れて行く”という、当たり前に行われていた引き継ぎの儀式が、ほとんど見られなくなってきてることだね。
 俺らの世代や上の人たちが“スナック童貞”を捨てるきっかけは、圧倒的に、上司や先輩に連れて行ってもらったという例が多い。60~70代、週刊大衆の読者の皆さんぐらいの“スナック有段者”になると「少々強引でも先輩に連れて行ってもらったことが、よかった」という考えが多いんじゃないかな。
 ところが、最近は後輩に断られるのを必要以上に恐れ、スナックに誘うのを遠慮しちゃう人が増えてるんだよ。
 確かに、スマホ世代、要はカラオケボックスやマンガ喫茶など、徹底された仲間内主義、個室文化で育った若者たちを、すぐにこちらの“相席文化”であるスナック陣営に入れることは難しいね。
 それでも、現代っ子の中にもスナック好きになる素養を持った子たちは沢山いるんだよ。
 彼らの多くはカラオケボックスで鍛えているので、うまく歌えるポテンシャルは持ってるからね。知らない人の前で歌うのが快感になるか? それとも、間奏の間や曲が終わった時ぐらいは拍手をするなど、ごくごく当たり前なカラオケ作法が煩わしいのか?
 無理しない程度に一度ぐらいは誘ってみるのもいいんじゃないの。
 若い連中も“スナックの楽しさ、奥深さ”を知れば、店での作法など、どうってことはないなと思うに違いないんだから。
 ではあなたのスナック童貞・処女をどこで捨てたらいいのか?
 まずはお店の見つけ方。日本中どこの店に行っても同じサービスの“全国チェーンのスナック”とかはない。『食べログ』的なネットサイトもあるにはあるんだけど、誰かが集めた情報に頼らず、自分の直感を信じるのが一番。
 俺はそれをカーナビならぬ“ハーナビ”って呼んでるんだけど。
 ちょっとした大人のRPG(ロールプレーイングゲーム)感覚だよ。誰でも初めはいちげんさんなんだから。“ドアを開ける時のドキドキ感”それもスナック探訪の楽しみの一つだと思わなきゃ。お店探しからスナック遊びは始まってるんだよ。
 
 初めてのスナック
 
 #スナック攻略
 初めて行ったスナックがボッタクリだったら、二度とスナックに行こうなんて気は起きないだろう。そんな初体験はごめんだよね。
 ただ、暴力団対策法が厳しくなってからは、そんな店はほとんどないけど、一応ボッタクリ系のスナックに行かない方法を教えておこうか。
 “繁華街で客引きやキャッチをしているスナックへは行かない”
 これは鉄則。スナックだけじゃなく、全ての業種のお店に言えること。これさえ守れば、ほぼ大丈夫だ。
“料金システムは最初に確認”
 ボッタクリでなくとも、会計時に「セット料金3500円と聞いたのに、支払いはなぜ5000円?」といったトラブルはある。時間制なのか、セットに何が含まれているのかは確認しなきゃダメ。
“初めての店で、泥酔しない”
“初めての店でクレジットカードを使わない”
 ボッタクリをするような店なら、スキミングによるクレジットカードのクローン詐欺の被害に、という可能性もなきにしもあらずだからさ。
 数あるお店の中から“いいお店”を見極めるのもスナックRPGの楽しみの一つ。難易度高めなのは、繁華街のお店がいっぱい入っている、雑居ビルを攻める場合だろう。
 旅先などでは、昼にスナック街を歩いて聞き込みするのが一番だけど、時間のない場合もあるので、裏業を教えよう。
 目当ての雑居ビルに着いたら、とりあえずエレベーターホールでタバコを吸う。タバコを吸わない人は携帯をいじるなどして、どうにか時間をつぶそう。
 そうこうしてると、お客さんを送り出すママたちが店の外に出てくるんだな。
 そこで品定め。まずはママの服装をチェック。いいドレスを着ていたら料金設定は高めだとか、入店の判断材料になるわけ。刑事ばりの張り込みだよ。
 「いいな」と思うママがいたら、お客さんを送り出したエレベーターにそのまま乗り込みましょう。「ママの店、いくら?」と、店まで上がる間に聞いちゃうの。
 これは確実。題して“スナック刑事作戦”。皆さまお試しあれ。
 今、残っているスナックは数千円で飲める店ばかりだから安心して。長年やってるお店って、だいたい商売っ気がない。
 キャバクラだと姉ちゃんの後ろに“数字やグラフ”が見えちゃうけど、スナックはママが食っていけるだけの売り上げがあればいいんだもん。
 アストンマーティンに乗ってるスナックのママやマスターなんて聞いたことないからね。
 
飲み代はママの言い値

#スナックにはレジがない
 スナックに行かない人からすると、入りにくさの一つに“料金体系がわかりにくい”という問題がある。料金が表示されている居酒屋やカラオケボックスなどとは違って、スナックはメニューに値段を書いていないお店はザラだ。
 はっきり言ってスナックの料金はママ次第だからね。
 だいたい会計の時、ママに小さな紙を渡されて、その紙を見ると手書きで4000円とか、書いてあるの。明細なんてものはない。“枝豆”と“焼きうどん”が同じ値段ということもあるからさ。
 そもそもスナックには飲食店の必須アイテムの“レジ”がない店が多い。
 レジは“ママのハンドバッグ”と考えていいだろう。それよりスナックや個人経営の飲食店で出される会計の時に渡される小さな紙、あの紙の正式名称を知りたいよ。
 なので会計のことが心配だったら店に入るなり、まずママに金額を聞いちゃうのが一番安心なんだ。
 自分の財布と相談して「全部込みで、3500円で飲めますか?」と、ぶっちゃけて聞くのは、全然失礼なことじゃない。全国で約1000軒のスナックを飲み歩いた俺だって初めてのお店に行くと、席に着く前にママに料金は確認するからね。
 番組で訪ねたあるお店は“お手持ちの御予算をお申し出ください。気軽に楽しんで飲めるお店です”と看板に書いてあったからね。
 俺はそれを見て、店に入った瞬間、「うまいね、ママ! 全国のスナックの看板に、この宣伝コピーを書くべきだよ!」とママに伝えたぐらいだから。
 たくさん飲みたい気分の時は、「セット料金に2000円上乗せするので、飲み放題でお願いできませんか?」と交渉するのもいいんじゃないかな。そういった自由度の高さがチェーン店にはないスナック飲みの醍醐味だろう。
 当然、交渉力は必要になるよ。といっても、店内のゴミを処理したら、支払いがタダ同然に大幅に値引きされる、なんてことはない。
 何かの帳尻を合わせようとして、明らかに高い時もあったりして。でも、それはそれでいいじゃない。あんまり白黒つけなくてさ。それを許してまた通う。
 逆に明らかに安く請求される時もあったりするわけ。
 そうなると、こちらとしてはつい多く払ってしまうんだけど……。
 それもまた駆け引きなのだろう。
 客の心のキャパシティーを広げてくれていると思えばね。行けば“くつろぎの場”を与えてくれているわけだし。その緩さも含めてスナックの魅力なんじゃないかな。

 

『玉袋筋太郎の#昭和あるある』は全5回で連日公開予定