自他共に認める美貌を持ち、自分以外の誰も愛せなかった青年が出会った女は、鏡の中から現れ、「私たちは、性別だけが異なる同一人物」だと言うが──。

 新作長編小説『かがみよかがみ』で三秋縋が提示するのは、「自分自身と恋に落ちてしまう」という背徳感がありながらも、透き通るように瑞々しい「一人(ふたり)暮らし」の物語。美しくも激しい痛みを伴う結末は読む人の胸を締めつける。

 なぜ今、この物語を描こうと思ったのか。作品に込められた思いを、三秋縋氏に伺った。

 

 

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文体もルール違反ぎりぎりのところでやっている方が面白い

 

──冒頭で「これから語られるのは、基本的には彼が不幸になる話だ」と語られますが、本作では登場人物と一定の距離感を保った三人称の語り口が非常に効いています。

 

三秋縋(以下=三秋):三人称を用い始めたのは本作以外だとたぶん『恋する寄生虫』『さくらのまち』くらいで、自分はどちらかといえば一人称が本分の作家だと思っています。三人称を用いた三作に共通しているのは、主人公を僕とは根本的に異なる人間として描こうとしている点です。「こいつは僕じゃないんだぞ」と自分に言い聞かせるために三人称を採用しています。放っておくと僕になってしまうので。

 

 三人称を書く上で意識しているのは一人称的な利点を諦めないことで、逆に一人称を書く上で意識しているのは三人称に限りなく近い一人称であろうということです。どっちも徹底しすぎるとつまらないんですよね。ルール違反ぎりぎりのところでやっている方が面白い。秋山瑞人さんは三人称的な三人称と一人称的な三人称を状況に応じてものすごく自由に使い分けていたと思うんですけど、ああいうのがエンタメ小説においては一番理想的な文体なんじゃないでしょうか。

 

──三秋さんが本作を書いていて特に楽しかったシーンや、印象に残っている登場人物があれば教えてください。

 

三秋:伊織が顔に傷を負ってからはとにかく書きやすかったです。いつも通り卑屈な内面を描けば良いだけですから。ただ、書いていて楽しかったシーンとなると、案外序盤の方になるかもしれません。これくらい自分とかけ離れた仮説的人物を動かしていると、普段の自分からは絶対に出てこないような言葉がポンポン出てくるんですよね。物語を書く上での醍醐味とも言える感覚です。

 

孤独は、他人と触れ合えないことによって起きる感覚ではなく、他人と触れ合ったときの摩擦の強さによって生じる感覚

 

──作中では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やスーパーカーの楽曲『Lucky』など、実在のモチーフが複数登場しますが、意図的に選ばれたのでしょうか。

 

三秋:選んだというより、自然な連想で出てきたという感じです。このシチュエーションってちょっと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っぽいな、こういう場面で流れていてほしいのは『Lucky』だよな、と。

 

──「イマジナリーフレンド」のように、幻想かもしれないとわかりつつも、「自分を本当に理解してくれる誰か」を人は求めてしまいます。人間における「孤独」と「他者との関わり」についてどのように三秋さんは捉えられていますか?

 

三秋:たとえば僕なんかは一年の大半を一人きりで過ごしているんですけど、その状態で孤独を感じることってまずないんですよね。もちろんそれはインターネットを通じていろんな人間の発言や活動をキャッチしているからというのもあるんですが、それ以前に一人の状態が当たり前になりすぎて意識することがないんです。自分とは相容れない価値観の人間に囲まれることで、ようやく孤独という感覚を思い出すことができます。だからそれは、他人と触れ合えないことによって起きる感覚ではなく、他人と触れ合ったときの摩擦の強さによって生じる感覚なんじゃないかと思っています。僕があんまり孤独を感じないのは、僕が書いた本を読んでも摩擦の生じない誰かが、たとえ顔が見えなくても世界に一定数存在することを知っているからというのもあるんじゃないかなと。

 

──ちなみに、もしも絶世の美男子・伊織が実際に目の前に現れたら、三秋さんご自身はどのような反応をされると思いますか?

 

三秋:彼ほどに極端に恵まれた人間を近くで見たら、嫉妬や羨望も確かに抱くとは思うんですが、それ以上に「この人の目には一体世界がどんなふうに見えているんだろう?」と気になってしかたないと思います。僕とはまるで違う景色が見えていることは確実なんですが、あまりにも前提が違いすぎて想像が追いつかない。別の生物に対して抱くのと同じような興味を抱くことになるでしょうね。

 

──これから『かがみよかがみ』を手にとる読者へ向けて、一言頂けたら幸いです。

 

三秋:表紙がとても綺麗なので、インテリア感覚で買っていただけると幸いです。

 

――ありがとうございました。

 

【あらすじ】
あなたの運命の相手は、きっと運命なんてまるで感じさせずにあなたのそばにいる。

大学生の片平伊織は自他ともに認める美形で、多くの人間を魅了してきた。 彼は鏡を見るのが何より好きだった。そこに映っている自分が、誰より好きだった。 一方で伊織は「運命の人」を探していた。たくさんの女と付き合い、抱き、別れ、それでも巡り合うことができない。 もしかしたら、そんな女性はいないのかもしれない―― 諦めすら覚え始めたある日、彼は「彼女」と出会う。