スマホサイズの小説がもたらす臨場感と、抗いがたい「エゴサ」の魔力からあなたは逃げられるか? 昨年8月に発売され11万部の大ヒットとなった『スワイプ厳禁』。それを超える恐怖が待ち受けている。
「小説推理」2026年7月号に掲載された書評家・あわいゆきさんのレビューで『エゴサ厳禁』の読みどころをご紹介します。
■『エゴサ厳禁』知念実希人 /あわいゆき [評]
スマホサイズの小説がもたらす臨場感と、抗いがたい「エゴサ」の魔力
Googleの検索欄に自分の名前を入力したことはあるだろうか? おそらく一定数はいると思う。姓名判断サイトしか出てこなかったり、赤の他人と名前が被っていたりするものの、自分が過去に経験した出来事の痕跡が表示されるひともきっといる。それを目にして、懐かしさや恥ずかしさ、あるいは誇らしさを抱くわけだが──どうして私たちは、自分の名前でついつい検索したくなってしまうのだろう?
その心理に迫った作品こそが、『エゴサ厳禁』だ。物語は大学生の深山遥香が、探偵の久我原廉に「アイコレクター」の正体を暴くよう依頼するところからはじまる。「アイコレクター」は犯罪者の目玉をくりぬいて惨殺する事件を繰り返し起こしている殺人犯で、以前に収賄容疑で逮捕されていた遥香の父親も、被害者のひとり。そして遥香の自宅にも、犯人からと思しき脅迫めいたポストカードが送られてきたのだった。
本作は著者の過去作『スワイプ厳禁』と同様、スマホを模したサイズの書籍となっており、遥香の手にするスマホの画面が読者にも共有される。そのおかげで「アイコレクタ―」の正体を追う捜査パートは、まるで自分が遥香になったかのように臨場感を味わえる。遥香のスマホカメラが映している光景に違和感がないか、小説を読みながら自ら捜査する感覚は新鮮だ。
そして本作特有の没入感は、遥香になりすぎるあまり、自分を見失うような瞬間すら与える──そんなとき、自分を見つけるためのいい方法がある。それこそが、エゴサだ。自分の名前で検索して過去の痕跡が出てきたとき、誰かが自分に言及していたとき、自分はこの世界に存在しているのだと確認できる。それはときに安心にもつながるだろう。自分の名前の検索は、自らの生を証明し、肯定する手段でもあるのだ。
しかし、エゴサは反応欲しさによる自己主張にも結びつき、かえって自分を見失うことにもなる。あなたも自分を見失わないよう慎重になりながら、衝撃的な本作の結末を見届けてほしい。