東京都多摩市で11名が惨殺された猟奇事件。現行犯で逮捕された自称・フリーライターは、意味不明な発言を繰り返しているという。
現場の見取り図、目撃証言、凶器の使われ方、どれを調べても……おかしい。事件の真相を探る精神鑑定医が犯人との面談のすえにたどり着いたのは、まるで怪物の棲みかのような廃墟の街だった。
11万部を突破したスマホサイズ本ホラー『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』と対をなすモキュメンタリー・ホラーの謎がついに明かされる。
「小説推理」2025年11月号に掲載された書評家・あわいゆきさんのレビューで『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』の読みどころをご紹介します。


■『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』知念実希人 /あわいゆき [評]
「閲覧厳禁」の一言にこめられた、視線を送ることのおそろしさ
閲覧厳禁。そう名付けられた小説、読みたくなるに決まっているからずるい。『絶対に押すなよ』と勧告されることで逆に押したくなるように、「ぜひ読んでください!」と言わんばかりの匂いをぷんぷん放っている。
だからあなたも、つい手に取ってしまう。そこに葛藤はないだろう。会社の機密文書やグロテスクな画像とちがい──社会的にも肉体的にも害を及ぼさない、あくまでも「小説」でしかないのだから。
ただ、あなたは「閲覧」を舐めている。閲覧する──視線を送る行為自体に含まれる、責任の重たさを。「閲覧」が持つ力はときに身を滅ぼしかねない。だから閲覧厳禁と書かれた警告を無視して本書を軽い気持ちで手にとってしまったら、軽はずみな気分を吹き飛ばすほど、恐怖に吞み込まれてしまうだろう。
本作は精神科医の上原香澄が、猟奇殺人事件を起こした八重樫の精神鑑定を行ったときに起きた事件についてインタビューを受けるモキュメンタリー・ホラーだ。上原は精神鑑定の過程で、何者かに見られているという妄想に囚われていた八重樫が口にしていた「ドウメキ」と呼ばれる怪物の存在を知る。そして上原も謎の視線を感じるようになり、徐々におかしくなっていく。
視線を感じるうちに精神がくずれていく恐怖を体験しながら、再現度の高い記事や写真が随所に挿入され、より強く現実を感じられるのはモキュメンタリーの醍醐味だ。さらに本作ではそれに加え、見取り図を用いた謎解きがいくつか用意されている。だから恐怖を抱きながらも楽しく読めるのだ──その楽しさこそが、最大の恐怖を抱かせる罠にもなっている。
そして、本作の前日譚にもあたる『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』は、実際にスマホを操作する感覚を味わいながら読み進められる一冊になっている。モキュメンタリーの本作とは異なる臨場感があり、あわせて読むと「ドウメキ」に対する恐怖が強まるだろう。二作とも、恐怖で身を滅ぼされる覚悟をもって、「閲覧」してほしい。