知念実希人さんがホラー小説『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』と『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』を2か月連続刊行した。都市伝説の謎を追う大学生が恐怖に見舞われる『スワイプ厳禁』と、精神科医へのインタビューが殺人事件の恐るべき真相をあぶりだす『閲覧厳禁』。独立した作品でありながら、重要な部分がリンクし、ひとつの大きなストーリーを形作る2冊は、それぞれ読者を物語に引きずり込むような画期的な〝仕掛け〟がある。ホラーブームの目玉となりそうな野心的な作品について、知念さんにうかがった。
取材・文=朝宮運河 写真=種子貴之

 

スマホ画面だけで現代人の生活を描くことは可能だろうと思いました。

 

──8月に『スワイプ厳禁』、9月に『閲覧厳禁』とホラー小説が2冊連続刊行されました。世間はホラーブームですが、ミステリーで多忙な知念さんがホラーに挑戦した理由とは?

 

知念実希人(以下=知念):執筆の経緯をお話しすると、まず『閲覧厳禁』のアイデアがあったんです。読んでいる人がいつしか事件の当事者になってしまうような仕掛けの小説が書きたくて、メインのアイデアを思いついた。このアイデアをどう料理するか、ミステリーにしようかサスペンスにしようかと考えたんですが、ホラーにするのが一番面白く伝えられそうな気がしたんです。

 

──なるほど、『閲覧厳禁』が先にあったわけですか。

 

知念:企画が進んでいくうちに、『閲覧厳禁』と連動するような作品をもう1作書けないかという話になって。背筋さんの『口に関するアンケート』のような面白い企画本をできないかと構想が広がっていきました。二番煎じではやりたくないですから、いろんな判型を模索してあがってきたのが現在の判型でした。その見本を見たとき、ふとテーブルのスマホが目に入って、スマホサイズのホラー小説を出したら、身近な怖さがあるし、斬新じゃないかと思いついたんです。『スワイプ厳禁』は『閲覧厳禁』の前日談になっているので、できれば刊行順に読んでもらえればと思います。

 

──知念さんは一昨年『ヨモツイクサ』というホラー長編を出されていますし、ホラーは結構お好きなようですね。

 

知念:大好きです。十代の頃が角川ホラー文庫の全盛期だったので、90年代に刊行されたホラー小説には特に思い入れがあります。梅原克文さんの『二重螺旋の悪魔』、瀬名秀明さんの『パラサイト・イヴ』、貴志祐介さんの『天使の囀り』。鈴木光司さんの『リング』はなぜか文庫になる前に読んでいたと思います。

 

──『スワイプ厳禁』は、オカルトライターの先輩に依頼され、〈ドウメキの瞳〉という都市伝説の謎を追うことになった大学生の物語。読者はスマホサイズの本をめくり、主人公とともにドウメキの恐怖を体験することになります。

 

知念:見てのとおりサイズだけじゃなく、本の作りもスマホのようになっているんです。見開きの右ページにはスマホの画面、左ページには文字がくるようになっていて、本を読むというより、主人公のスマホを覗きこむような感覚を味わえる。リアルな没入体験を得られる仕掛けになっています。ヒントになったのはパソコン画面の中だけで物語が進む『search/サーチ』というサスペンス映画。現代人は生活のほとんどをスマホに頼っているので、スマホ画面だけで主人公の生活を描くことは可能だろうと思いました。

 

──主人公のスマホ内の写真フォルダや、恋人とのメッセージ画面、マップやファミレスのメニュー画面など、いかにもありそうな画像がリアルですね。

 

知念:そこはこだわったところです。簡単な指示を書いて、プロに画像を作ってもらうんですが、嘘っぽくならないようにリテイクを重ねた部分もあります。こだわったといえば本の厚さやサイズに関しても、関係者の皆さんと繰り返し相談しました。普段本を買わない若い人でも気軽に手を出せるのはせいぜいワンコイン。税込み500円内に収めるために自分の印税も減らしましたし、なかなか大変でした。

 

──しかしこれは話題を呼ぶこと必至ですね。書店に置かれていたら、絶対目を惹きますから。

 

知念:まさにそれが狙いです。「これは何だろう」と思ってもらって、まずは手に取ってもらう。それでホラーやミステリーって面白いんだなと思ってもらえたら、その人が僕の本だけでなく、他の小説も読んでくれるかもしれない。そのために読書をする習慣がない人に向けた仕掛けをたくさん作りました。タイトルや著者名の入れ方も、普通の本ではありえないような形になっているんですが、それも工夫のひとつです。

 

 

〈後編〉に続きます。