生前、あまり本音を語らなかった母は「砂の国」や「雪の里」などを舞台にした、神秘的で不可思議なおとぎ話を書き遺していた。しかし、これらは母の単なる趣味の創作ではなかった。 物語を読み解くほどに、母の過去が浮かび上がっていく。

 

「小説推理」2026年7月号に掲載された書評家・千街晶之さんのレビューで『暗夜に君と星をたどる』の読みどころをご紹介します。

 

 

暗夜に君と星をたどる

 

■『暗夜に君と星をたどる』木江恭 /千街晶之 [評]

 

テキスト解読の面白さと友情の機微を描く、「作中作ミステリ」で統一された連作

 

 2017年に「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」で第39回小説推理新人賞奨励賞を受賞、2019年に『深淵の怪物』で小説家デビューした木江恭にとって、新刊『暗夜に君と星をたどる』は3冊目の著書になる。全6話から成る連作短篇集だ。

 

 第一話「砂の国の女王が死んだ」は、女子高生の「わたし」が、図書館でクラスメイトの海瀬由埜かい ぜ よし のに声をかけられるところから始まる。由埜は「わたし」が持参した原稿に興味があるらしい。それは、数カ月前に死んだ「わたし」の母が執筆した短篇小説だった。

 

 ここで、その原稿「砂の国の女王が死んだ」が挿入される。架空の国が舞台の暗鬱なおとぎ話である。だが由埜は、「あのお話、続きがあるよ」と「わたし」に告げ、原稿の本当の読み方と、そこに籠められた母の真意を解き明かす。著者の前作『鬼の話を聞かせてください』も安楽椅子探偵ものの連作だったが、この作品もその点は共通する。

 

 こうして親しくなった「わたし」と由埜は、「わたし」の母が遺した数篇の短篇小説に秘められたメッセージを紐解いてゆく。だがその結果は、第一話のようにすっきりしたものになるとは限らず、「わたし」と由埜の関係性にも、話が進むにつれて変化が生じてくる。特に第五話「鬼神王の戦女神」は、それまで伏せられていた事実が明かされるなど波乱の連続であり、一体どうなってしまうのかとハラハラさせられる。ここまで来れば、連作の締めくくりである最終話「北極星の道しるべ」がどう着地するのか、気にならない読者はいない筈だ。

 

 全6話がすべて「作中作ミステリ」という凝った構成の連作である本書は、テキストに籠められた書き手の真意を解読することの面白さを堪能させると同時に、二人の女性の揺れ動く友情の機微を描いた小説としても秀逸である。ダークな味わいに満ちた『鬼の話を聞かせてください』とはまた異なる著者の側面が窺える一冊としてお薦めしたい。