日本では現在、約3万人が「孤独死」しているという。今後予想される数は数百万人規模とも言われ、対策されない限り誰もが長期間発見されずに死ぬ可能性がある。特殊清掃業者や遺族、見守りサービス法人などへの取材を通して見えた現状と、孤独死しないためのヒントを探る菅野久美子氏のルポが文庫化された。

『酔うと化け物になる父がつらい』『「神様」のいる家で育ちました』など社会問題を扱う漫画家・菊池真理子さんのレビューで『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』の読みどころをご紹介します。

 

■『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』菅野久美子  /菊池真理子[評]

 

「いかに孤独死しないか」から「いかに孤独死させない社会を作るか」へ。数々の孤独死現場から見えてきた、生きている私たちができることを探る一冊。

 

 実は私も何度か、孤独死の現場を取材したことがある。そのうちの一件、53歳の男性が亡くなった部屋の光景をたびたび思い出すのは、私がその年齢に近づいたせいだろうか。

 中層マンション、西向きの一室。玄関を入ると、部屋の扉に引っ掛けられた紳士服が見えた。無造作に丸められた布団に、整理されてはいない書類の束。確かにここに住んでいた人が今はもういないことを告げるのは、リビングの一か所に溜まる血と体液だけだ。「冬なので、臭いはそこまで強くないですね」と清掃業者は言うけれど、防護マスク越しにもうっすら感じるその臭いを、漢字一文字で表すなら「糖」だった。

 テーブルの上に散らばった名刺から、彼が中堅どころの会社で課長職にあったことを知る。当時はコロナ禍前で、リモートワークでもなかったろうに、彼は2週間、誰にも発見されなかった。無断欠勤を訝った人はいなかったのだろうか。親しい友人もなかったのか。最期の時、出血をティッシュで押さえながら、呼ぼうとしたのは誰の名前だったのだろう。

 菅野久美子さんの『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』を読みながら、あの時、夕陽の射しこむ部屋で湧き上がった感情を、何度も反芻した。彼への哀れみと同時に、これは独身の自分にも起こりうることだと、ほんの少し先の未来を見たような気がする。

 孤独死の背景には、現代人の孤立があるという。孤独死は高齢者だけの問題ではないのだ。菅野さんによると、日本では老いも若きも含めた約1000万人が、様々な縁から断たれた孤立状態にある。現在の年間孤独死3万件という数字からは、これから訪れる大量孤独死時代が透けて見えるらしい。

 ならば、今できることは何か。菅野さんは、まるで焦っているかのように、孤独死防止活動に尽力する人々にも取材を重ねる。孤立していた人が周囲と縁をつないでいく様は、奇跡のようでもあり、すでにわかっていた答えのようにも映るのだ。人が人らしく生きていくのに何が必要か、私たちはきっと気づいている。「いかに孤独死しないか」から「いかに孤独死させない社会を作るか」へ。数多くの現場で死者と向き合った菅野さんは、彼らに背中を押されているのかもしれない。早く、生きている人たちをつないで、と。

 私はこれからどう生きよう。キッチンにはいただきものの文旦が、生命の塊のような太陽色に光っている。あれをご近所さんにお福分けしようか。「死んだらすぐに見つけてね」ではなく。「生きてる間、お互い楽しく、よろしくね」という気持ちを込めて。