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「オオサンショウウオ」

 

 先日、いきつけの沖縄居酒屋で高久さんという男性と知り合った。六十歳手前、スリムな体型で、甘い香りのタバコを吸っていた。

 不思議な体験を集めているんですと切り出すと、「ああ……」と煙をくゆらせながら遠い目をした。

「子どもの頃、変なモノを見たよ」

 高久さんは富山県の、田んぼに囲まれた家で生まれ育った。小学生のある日の夕方、妹と二人で家を目指して歩いていた。

 ふと、あれなんだろうと思って立ち止まった。

 五十メートルほど向こう、田んぼのど真ん中に、何にも使われていない空き地がある。空き地には土管が一本置かれているのだが、その土管の中から何かにゅるんとしたものが飛び出ている。

 妹と二人で目を凝らす。

 扁平な頭をもつ、爬虫類のような見た目だったが、異様なのはその大きさだ。

 空き地には何度も行ったことがあるので、土管の大きさは把握している。そのモノは大人の人間より一回りほど大きい。夕暮れ時なので黒い影にしか見えないが、ぬるりぬるりと蠢いているその姿を見ているうち、禍々しい気分になってきた。

「帰ろう」

 妹を急き立て、すぐにその場を離れた。

「あとになってオオサンショウウオっていう生き物を知ったとき、ああ、あれに似てるなって思ったもんだよ」

 ふうーと、高久さんは煙を吐き出した。

「小さい頃のことだから、夢なんじゃないかと思ってたんだけど、こないだ妹に会ったときに訊いてみたら、『憶えてるよ、気持ち悪かったよね』ってさ。記憶が完全に一致してるんだ」

 それを見たのはその一度きりだったという。

 

 

 

「不動産屋のリコ① ~社宅」

 

 椿さんは都内の不動産会社に勤める三十歳の女性である。

 その会社に、リコというかなり霊感の強い後輩がいて、彼女に関するエピソードならたくさんあると教えてくれた。

 椿さんは入社してから数年、会社の持っているマンションの一室を社宅としてあてがわれていた。その部屋で寝ているとすぐに金縛りになる。

 その部屋に住むまでは金縛りになどあったことはなかったのに、ほぼ毎日被害に遭い、寝不足ですっかり不健康になってしまった。知り合いのアドバイスに従ってベッドの向きを変えたが、まったく意味はなかった。

 やがて、仕事が全然面白く感じられなくなり、自暴自棄のような状態になった。

 リコに霊感があると知ったのはそんなときだった。

 部屋に連れていくと、リコは「まずいですよこの部屋」と顔をしかめた。

「まるまる霊道に被っています」

 リコは霊がたくさんあるところに来ると目が悪くなってくる(視界が暗くなってくる)という。

「今、目がほとんど見えなくなりそうですもん。いますよ、そこに、女の人が」

 台所を指さすリコ。よく言うように、貞子のような髪の長い女が座っているというのだった。

 椿さんはすぐに手続きをし、引っ越した。

 睡眠不足が解消され、仕事も前のように面白く感じられるようになった現在、引っ越して本当によかったと思っているそうだ。

 

 

 

「箕面の山」

 

 大阪府箕面市には、山の心霊スポットが多いと聞く。

 堅尾さん(三十代・男性)はある夜、山間の道を車で走っていた。前後に走っている車もない、真っ暗な道──だいぶ遅くなってしまったなと、ヘッドライトを頼りに運転していると、突然ドカリと車の上に何かが落ちてきた感覚があった。

 衝撃で、ルームライトが点灯した。

「うわっ、なんだよ!」

 バックミラーを見るが特に何かが落ちた様子もない。確認するのも怖く、とにかく街まで走り抜けた。コンビニに停車させ、降りて天井を確認したが、まったくへこんでいなかった。

 

 その堅尾さんの友人は、あるとき、同じ山にバイカー仲間たちと出かけた。堅尾さんが怪異体験をしたのよりもう少し山奥にあるポイントにバイクを並べて談笑していた。時刻はやはり夜中。周囲にもちろん民家などない。

「あれ?」

 ふと一人の仲間が声を上げた。

「あれ、なんだ?」

 道の向こうに人がいて、よたよたと歩いている。一同は目を凝らす。

 ベビーカーを押した、腰の曲がった老婆だった。

(いやいや、ここ、車じゃなきゃ来れないぜ……)

 我先にとバイクに飛び乗り、一同は急いで山を降りた。

 

『ソウルメイト 怪談青柳屋敷・離館』は全4回で連日公開予定