「プリクラ」
現在二十代の実来さんは小学生の頃、母と姉と三人でよく大型ショッピングモールへ買い物に行っていた。ある日、母が買い物をしているあいだ、姉と二人でゲームコーナーで遊んでいた。
「実来、プリクラ撮ろうよ」
姉に誘われ、二人で撮影をした。二人で顔を寄せ合ってWピースをし、タッチペンで加工をして「OK」を押す。
直後、実来さんはものすごい腹痛に襲われた。
(なにこれ、なにこれ……)
あまりに痛いので、姉に後を任せてトイレに駆け込んだ。
すごく痛いが、盲腸とは位置が違う。下痢でもなければ、生理痛でもない。額に脂汗をかきながらしばらく格闘し、なんとか落ち着いたので外へ出た。
ゲームコーナーへ戻ると、すでに買い物を終えた母がいて、姉と二人で出来上がったプリクラを見ている。その様子がどこかおかしい。二人とも真っ青な顔をしているのだった。
母が、実来さんに気づいた。
「実来、ちょっと来なさい」
見せられたプリクラを見て、背筋が凍り付いた。
満面の笑みを浮かべる実来さん──その腹部に、細くて白い手が一本、背後から抱きつくようにして写っていた。
「これはよくないわ……」
三人はそのまま、お世話になっているお寺にプリクラを持っていき、お焚き上げをしてもらったそうだ。
「高知の山」
堀口さんは中学校の教員を退職し、SSS(スクール・サポート・スタッフ)として働いている六十代の男性である。
堀口さんは大学二年生の八月、友人二人と高知県に旅行にでかけた。龍河洞や足摺岬など定番コースを観光したのち、高知市の郊外にハイキングに最適な小さな山があることを知った。
「ちょっと登ってみるか」
「ああ、せっかく来たしな」
男三人、その山に登り、山頂の神社で記念撮影をした。
その後、東京に戻りフィルムを現像して、飛び上がらんばかりに驚いた。
神社で撮った写真、三人とともに、鎧武者が三体、移りこんでいたのだ。源平の戦いを想起させるような鎧。三体とも目が異様に大きかった。
「さすがにヤバいやつだよな。これ、どうする?」
「あいつに見せてみないか」
仲間の一人が言った。あいつ、というのは霊感が強いと噂の同級生の男である。
早速見せに行くと、
「うーん」
同級生は首をかしげた。
「あんまり悪いモノじゃない気がするなあ。むしろ、いい写真のような気がする」
とはいえ気味が悪いので、供養の意味を込めて写真は燃やした。しかし、ネガはどうしたのか覚えておらず、もしかしたら残っているかもしれないそうだ。
「見知らぬ体育館」
現在中学校二年生の筒井君が、二〇二三年の夏に体験した話。
所属していたサッカークラブの夏合宿で、千葉県南部の宿泊施設にやってきた。
数日の合宿の日程を終え、食堂で最後の夕食を終えたあと、仲の良い四人と一緒に宿泊棟へ帰ることになった。
食堂から宿泊棟に戻るには二通りの通路があるが、たいていはロビーを通るルートで帰る。
「今日はあっちで行ってみようぜ」
仲間のうちの一人が提案し、もう一つの、人通りの少ないルートで帰ることになった。毎年来ている施設なので、昼間には何度もそちらを通ったことがあるが、夜に行ったことはなかった。
午後七時をすぎており、廊下の照明は落ち、ひっそりとしている。
すると、壁にスライド式両開きの銀色の扉があるのを見つけた。ガラス窓に桟がついていて、学校の体育館の扉に似ていた。
「あんな部屋あったか?」
「体育館じゃねえの?」
扉は、数センチの隙間があった。覗くと、暗い体育館が広がっている。
「入ってみようぜ」
誰からともなく言い、扉を開いて肝試し感覚で入っていく。
学校の体育館と同じくらいの広さだった。どこかにバスケットボールでも転がっていれば、遊べるんじゃないか。そんなことを言いながら、五人は奥へと進んでいく。
背後で、がらがらがらと音がした。
振り返ると、扉がひとりでに閉まっていく。がしゃん、と鍵がかかったような音がした。
「おい、なんだよ!」
慌てて扉に飛びつくが、びくともしない。サムターン錠ではなく鍵穴式だった。
「すみませーん!」「出られなくなっちゃいましたー!」
ありったけの声を出すが、もとより夜は人のいないエリア。誰にも届いている様子がない。五分ほどそうしているうち、
「あ、俺、スマホ持ってた」
一人の友人が言った。さっそくそのスマホで、同じ部屋に泊まっている友人にかけ、事情を説明する。ほどなくして、窓の外に友人が三人でやってきた。
がらがらと、扉が開く。
「お前たち、何やってんだよ? 簡単に開くじゃん」
助けに来た友人が眉をひそめる。内側からは全然開かなかった扉が、外からは簡単に開いたようだった。
「こんなところに、体育館なんてあったか?」
助けに来た友人はそう言ってさらに不可解そうな顔をした。
「早く逃げよう!」
どこか忌まわしいものを感じた筒井君はそう叫び、みんなで一目散に宿泊棟に戻った。
筒井君は中学校進学とともにクラブを引退し、この合宿所に行くことはなくなった。今となっては、本当に体育館が存在したのかどうか確かめるすべはない。
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