混雑した病院、不機嫌な医師、短い診察時間——。「病院嫌い」の悩みを吹き飛ばす、新たな“医療小説”が誕生した。

 仙川環の『お医者くんカフェ』は、カフェの一角で「お医者くん」が一杯のドリンクとともにじっくり健康相談に乗ってくれる物語だ。頻尿や人間関係のストレスなど、一人で抱え込みがちな悩みに優しく耳を傾ける「対話」の温もりが、冷え切った心をじわじわと解きほぐしていく。

 

「小説推理」2026年10月号に掲載されたライター・碧月はるさんのレビューで『お医者くんカフェ』の読みどころをご紹介します。

 

 

お医者くんカフェ
お医者くんカフェ

 

 

■『お医者くんカフェ』仙川環[著] /碧月はる[評]

 

対話を通して本人の気づきを促す風変わりな「お医者くん」とカフェ店主の〝歩み〟

 

 昔から〝病院〟という場所が苦手だ。いつも混んでいるし、不機嫌な医師相手に疑問点を差し挟む余地はない。中には丁寧に診てくれる医師もいるが、そういう病院は例外なく待ち時間が長い。仙川環氏が紡ぐ連作短編集『お医者くんカフェ』には、後者のタイプの「お医者くん」が登場する。

 

 水島めぐみが店主として切り盛りするカフェ「カミナーレ」は、火、木、土の14時から17時の間、「お医者くんのカフェタイム」となる。好きなドリンクを楽しみながら、カウンターの中にいる「お医者くん」に健康相談ができるサービスだ。別料金を支払えば、個別相談にも対応してもらえる。このカフェタイムを担うのは、丸山賢太。かつて、めぐみの主治医だった丸山は、診療方針の違いで勤務先の病院を辞めた。

 

 頻尿に悩む商品企画部のエース、義母から「潔癖すぎて病的だ」と指摘され憤る嫁、なんでも一人で抱え込んでしまうサラリーマン。さまざまな人々が、「お医者くん」との対話を通して自身を見つめ直す。店主のめぐみ本人もまた、苦い過去を持つ。めぐみが抱く悔恨と、愛する者への惜別の思い。丸山が望む、患者一人ひとりとじっくり向き合う余白。両者がカチリと嚙み合ったことから、「お医者くんカフェ」は生まれた。

 

 丸山は、特段目新しいアドバイスをするわけではない。ただ、じっと相手の話を聴き、共感した上で最低限の助言をする。そんな丸山にも「許せない」ポイントがあり、一度だけ声を荒らげる場面があったが、彼の怒りはどこまでも優しかった。他者のために怒れる人の言葉は、どれほど厳しくとも胸に響く。

 

 小石に躓く程度の段階で悩みを打ち明けられる「お医者くん」の存在は、対話の大切さを私たちに教えてくれる。「自己責任」という冷淡な言葉で切り捨てず、親身になってくれる相手とじっくり話し合う。それだけで見えてくるものがあるのだと語りかける本書は、ある意味で私たちにとっての「カミナーレ」に繫がるだろう。カミナーレの意味は、ぜひ物語の中で紐解いてもらいたい。