針ざむらい 3

 親友の仇を追って江戸へ逃れてきた「針研ぎ師」の佐武郎。対するは、身の回りの道具を武器にする暗殺集団「七人みさき」!

 時代編集部に異動してきたばかりのオールドルーキーが、敵も味方もとにかくキャラの濃い大人気シリーズ「針ざむらい三」の魅力を紹介します。剣の天才ではない主人公が見せる、泥臭くも圧倒的に面白い戦いとは?

 

 

敵が魅力的な話は、物語そのものも魅力的

 

 皆さん、「針ざむらい」というタイトルを聞いて、どんな内容を想像されましたか?

 私は、初めて聞いた時、「え、針で戦うのかな。一寸法師みたいに? じゃあ、この主人公も小さいのかな。まさか、ファンタジー小説?」と恥ずかしながら頓珍漢とんちんかんな想像をしてしまいました。

 ところが、この「針ざむらい」、読んでみると抜群に面白く、敵も味方も魅力的なキャラクターばかりで、思わず一気読みです。

 ということで今回は、「会社始まって以来の最高齢新人編集者」と弄られまくっている私が、「針ざむらい」シリーズの魅力をフレッシュな視点でお伝えしたいと思います。

 

 まず主人公の糸原佐武郎いとはらさぶろうについてですが、残念ながら一寸ではありません。元広島藩の徒目付かちめつけでしたが、親友の黒部新右衛門くろべしんえもんを無惨に殺された上に、その罪も被せられ、さらには謎の賊に襲撃されたりして、ほうほうの体で江戸へ逃げてきました。広島時代、たたら場に出入りし鉄の扱いを熟知していたため、神田鍛冶町に「針研ぎ かぐら」の看板を出しながら、親友・新右衛門の仇を捜します。この仇である賊一味が「七人しちにんみさき」という、土佐のはぐれ乱破らっぱ(=忍)集団です。

 

 この「七人みさき」、名前のとおり七人の集団なのですが、それぞれが武器として庖丁や鎌、なた鳶口とびぐち、斧、くわのこぎり、を使って人殺しを請け負っているのです。忍といえば、手裏剣や吹き矢、鎖鎌くさりがまなど武士とは違った武器を使っていたことは知られていますが、「七人みさき」は身のまわりの道具を武器とし、また普段はその道具を使った仕事をすることで市井に身を潜めています。仇一味ではありますが、まるで『必殺仕事人』のようで面白いですよね!

 

 たとえば、「七人みさき」で庖丁を武器とするおほうは、佐武郎が行きつけにしている料理屋「南番なんばん」の女板前です。狐のような細い目をした妖艶ようえんな美人で、女将のおようの前にふらりと現れ、雇われることになりましたが、それも佐武郎のことを探るためで、細長い柳刃やなぎば庖丁を両手に戦います。

 

 また、賭場でのいざこざから佐武郎が助けたまがりは、団栗眼どんぐりまなこと丸い鼻に細めのちょんまげを合わせた人好きのする顔の軽業師かるわざしです。佐武郎に博打を指南したり、「南番」に入り浸り、佐武郎たちと友のように親しくなりますが、その正体は、曲苦無まがりくないという武器を駆使する「七人みさき」の〈鎌〉です。

 

 と、つい仇一味のことばかりを書いてしまいましたが、敵が魅力的な話は、物語そのものも魅力的というのが、私のフレッシュな持論です。とはいえ、そろそろ主人公の佐武郎に話を戻そうと思います。

 

 佐武郎は針を研ぐ腕は一級ですが、決して剣の達人というタイプではありません。むしろ、剣で打ち合うことが嫌いだったため、広島城下の剣術道場では「さばきの佐武郎」と(「逃げの佐武郎」とも)呼ばれ、「七人みさき」の一人からは「遅いのう。まるでなめくじじゃ」、さらには「力自慢でもない、速さもない、さりとて間合いを読む天才でもない奴」とまで評されてしまいます。ただ、佐武郎には、たたら師の〈けむり〉から学んだ「口神楽くちかぐら」という技があり、口や喉を使い拍子を刻むことで相手の動きを読むだけでなく、自分の攻撃のリズムもよくしていきます。

 

 そして、佐武郎のもう一つの武器は、その器用さにあると思います。佐武郎も「七人みさき」同様に身のまわりの道具を戦いの際に使います。まず針研ぎ師である佐武郎の一番身近にあるのは、やはり針です。ただ、一寸法師が使うような短い縫い針ではなく、畳や革に使う、とても長くて太い針、これを佐武郎は手裏剣のように投げて戦います。さらに、倒した「七人みさき」たちの道具を持ち帰り、次の戦いでは必殺の武器として使用したりします。これは、佐武郎の器用さと、まじめさからの研鑽けんさんの成果だと思います。

 

 また、この佐武郎、人が好く、すぐ人を信じてしまうのが弱みではあるのですが、一方で、その人の好さゆえに助けてくれる人物たちが周りに集まってきます。表向きは、舞や歌、占いなどをする声聞師、実は京の乱破一族の出身であるあお。日本橋の鉄問屋「備後屋」の一人娘で、杖術じょうじゅつの心得もあるお花。打倒「七人みさき」の目的が一致し、佐武郎の後ろ盾となり様々な手助けをしてくれる勘定奉行の小栗忠順おぐりただまさ。その小栗に仕え、陰流をはじめ様々な流派を修めた剣客の戸縁円ノ介とべりえんのすけなどなど、脇を固める登場人物たちも個性豊かで魅力的な人間ばかりです。

 

 そんな魅力的なキャラクターだらけの「針ざむらい」最新の第三巻では、新右衛門の妹・唄が広島から江戸に出てきたのですが、何か隠していることがありそうだったり、「七人みさき」の一人が品川宿で殺され、現場となった旅籠はたごの部屋の壁には謎の大穴が空いていたり、佐武郎は「七人みさき」の頭と再会したものの、なぜか茶を飲みながら話をしたりと、新たな登場人物たちと、気になる出来事が盛りだくさんです。

こちらのレビューを読んで、少しでも興味を持ってくれた方は、ぜひ本屋さんで手にとってもらえると嬉しいです。

 

 ということで、今回は先輩が担当された作品のレビューを書かせていただきました。正直に申し上げますと、我が編集部も「針ざむらい」に負けず劣らず個性的(癖強め)な先輩ばかりです。佐武郎のように「逃げの◯◯」などと評されないよう、私もフレッシュに食らいつき、いつか自分が一から手掛けた本で皆様をワクワクさせられるよう研鑽を重ねてまいります。

 これからも「針ざむらい」シリーズ、そして双葉文庫の時代小説をどうぞよろしくお願いいたします!