一年間の不登校を経て、“ある人”を探すために復学した中学生の始。彼は校内で、「星空中毒」という奇病を抱える高校生の遠山先輩と出会う。

 

「小説推理」2026年8月号に掲載されたライター・吉田大助さんのレビューで、住野よるデビュー10周年記念作品『夜想い』の読みどころをご紹介します。

 

夜想い
夜想い

 

■『夜想い』住野よる /吉田大助 [評]

 

書かれたことのない「嵐」と「嵐の後」を生きる人々の姿から始まるポジティブな連鎖

 

 住野よるのデビュー一〇周年記念作品のタイトルには、ペンネームのよる(夜)が入っている。何度もやれることじゃない。もしかしたら、キャリアで一度っきり。ロックバンドが、バンド名をアルバムタイトルに付ける時と近い感覚なのかもしれない。これこそが自分が生み出したいものなのだ、と宣言するような。

 

 中高一貫校に通う少年・始は、一年間の不登校生活を終え、中学二年生の春から登校を始めた。その二週間後に〈ボーイミーツガール〉。廊下で倒れている女子に遭遇する。彼女は高校三年生の遠山先輩ことケイティで、「星空中毒」という未知の病にかかっていた。夜空で輝く星の光には毒がある。その光を目から吸収することによって発症し、星が出ている夜は高揚し、昼間は二日酔いのような状態が続く。

 

 始はケイティの親友に誘われ、「空想研究会」のメンバー入りを果たす。ケイティを交えたその活動は、始が学園生活に復帰した目的を叶えるのにうってつけで──。病を抱えた少女と、心をこじらせた少年の物語。そう聞くと著者のデビュー作『君の膵臓をたべたい』を連想するが、大きく異なるのは死者の存在だ。一年前に亡くなったツグミという名の男子高校生が、二人の運命と絡み合う。

 

 青春小説と呼ばれる物語が紡ぐのは、「コップの中の嵐」だ。第三者にとっては、あるいは「大人」たちにとってはそうと感じられないが、当事者にとってはとびきり切実な痛み。住野よるはこれまで「コップの中」をリアリティたっぷりに描出しながら、独創的な「嵐」を創出してきた。本作でも、ここにしかない、まだ書かれたことのない「嵐」が登場する。ただ、著者が本作において最も腐心し、文字数や技芸を尽くして表現しようとしているのは、「嵐の後」を生きる人々の姿だ。そこに、空想の力、フィクションの力が関わってくる。

 勇気と希望の連鎖は、一冊の本を読む、という経験からだって起こる。ここから、あなたの中で始まる。たぶんこれこそが、住野よるが小説を通して生み出したいものなのだ。