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 その日の放課後も何の気なく巡と帰宅部をした。

 活動内容は今日も同じだ。帰宅と無駄話。ちなみに田所さんなんかは、もっとちゃんとした部活動に勤しんでいる。放課後はもっぱら将棋を指しているそうだ。まあまあ強いというのは本人の談。始は軽く誘われていて、しかし今まで全く興味を持ったことのない自分が加わってもいいものかと、消極的に悩んでいた。どっちかって言えば、運動の方が得意だ、でも活発な運動部はこの一年間で既に強い連帯が生まれていそうだからそこに入っていくのはな、なんて。

 良い暇つぶし程度になる部活があるならいい、そしてそこに始が出会いたい彼か彼女がいればもっと。

 夜になって夕ご飯を食べ、始は遠山先輩に五十円の礼を伝えるため外に出かけた。今日は自転車を走らせ商店街の方に行ってみる。この時間に元気というなら、カラオケやゲームセンターで夜遊びをしている可能性もあると考えた。でも、やっぱり先輩を見つけることは出来なかった。それで良かった。家で母と二人になった始は、ここ一年ずっと、暇を感じていた。また明日もこの暇つぶしを続けられる。

 だから次の日の昼休みには改めて、人生って決まった道を歩けるわけではないのだなあ、なんて思った。

 今日の始は巡と一緒に食堂を訪れた。始の斜め前に座った巡はいつもと同じようなお弁当を食べ、始は海老天そばを頼んだ。大きな海老天を箸でつまみ上げたら、衣がホロっと崩れ海老天が瘦せてしまった。細い海老を齧って、三百円ならこんなもんかと納得したところだった。

 何故だか、今日も突然ひまわりが目の前に現れた。

 彼女は始の前、巡の隣の席にいきなり座った。

「ここいい?」

 座ってから聞かれたのは初めてだ。でも誰が来るわけでもないので、二人で頷く。先輩は昨日と同じく麦わら帽子をかぶっていた。夜にみんなが帽子をかぶるようになって以来、室内での帽子オシャレは普通になった。特に昼休みは校内でも増えて、食堂内にもちらほらいる。

「探したよ」

「僕らお尋ねものみたいになってる?」

 巡が嬉しそうにしている最中、始はなんとなくの礼儀として、先輩の本名の方を思い出そうとした。

「えっと、向日先輩」

「ひまわりでいいよ。みんなそう呼ぶ」

 その時先輩の後ろを通った女子生徒が「葵祢ライン送ったから見といてー」と言いながらジュース片手に去っていった。

「みんなっていうのは概念」

「ちょっと間抜けだったね」

 思い切り本人に聞こえるような声で囁いたのは巡だけれど、始もちょうどそう思ったところだ。

「探してたってのは」

 始が訊くと、ひまわりは白い指を鳴らした。

「安心してそんなに時間は取らせない、いや返答次第によっちゃ取らせるかも。まあいいや、本気で迷惑だったら言って。一つ、訊きたいことがあるんだけど、君は、山下くんでいいよね」

 ふと記憶を探り、そういえば、昨日この先輩の前で田所さんから名前を呼ばれたことを思い出す。

「はい」

「あ、今のは訊きたいことじゃないからね。確認。訊きたいのは、山下くん一年間休んでたんなら、まだ部活なにも入ってないんじゃない? ってこと」

 始は質問に対し、一瞬の間を置いた。そして一度、巡の顔を見た。帰宅部に入ってます、活動は帰りながら作り話をすることです。という本気でもあるし冗談でもある答えを先輩にしていいものか迷った。彼女の口ぶりから、多少の事情を調べられたんだろうと察せられたが、それは特にどうでもよかった。

「ああ、別に入ってても入ってなくてもいいんだよ。うちにそんな規則はない。生徒会を代表して怒りに来たわけじゃない。ただ私は、もし暇なら、貴重な中学校生活を充実させる提案をしに来た。オーライ?」

 何もオーライじゃないが、彼女の言う通りに始は暇だった。なので自然と、話の続きを聞くため頷いた。巡が横で「何がだろう」と囁き玉子焼きを頬張る。合わせて始もそばをすすった。

「話を聞く気はあるって意味ね、ありがとう。つまり実は私は今、生徒会の活動とは別に新しい部を作ろうとしているの。山下くんがまだなんにも所属してないんだったら、初期メンバーとして一緒にどうかなって思ったわけ」

「なるほど、です」

 つまり先輩は田所さんと同じく、一年遅れた余りものを気遣って、勧誘に来てくれたってことだ。始は理解した。

「急にこんな話は怪しいかもしれないけど、冗談じゃないよ。えっと特典としては、まず一期生として伝説になれる。試験期間は放課後エアコンの効いた静かな部屋で勉強し放題、生徒会室にも入れる。そして何よりこの学校じゃ私を味方につけといた方がいい」

 具体的な活動内容よりも先に語られるメリットで一気に怪しさが増す。詐欺ってそういうのだって聞く。特に最後のやつだ。

「あとはジャンルによるけど、先輩や顧問から特別に勉強も教われる、はたまたトランプやボードゲームの、暇つぶし要員もすぐ集められるね」

 並べたてられた他の入部特典には、どれもピンとこなかった。でも最後、始は心をわずかに惹かれ「暇つぶし」と復唱した。それがひまわりに捕まった。

「お、乗り気? ボードゲーム好き? 麻雀する? 私出来るよ」

「じゃあ四人」

「三麻でもオーケーだし、最悪オセロでも。もしも前向きになってくれるなら、食事終わってちょっとだけついてきてほしいんだけど、どう?」

 始はちょうど暇つぶしくらいの部活を探していた、更にはそこで出会った人達から始が抱える問題解決の糸口を教えてもらいたかった。かといってなんでもいいわけじゃない。

「何部、なんですか?」

 まだそれも聞いてない。

「そうだね、色々やろうとしてたりしてなかったりする、白黒ついてない。オセロだけに」

 巡は手元で小さく拍手をしたけど、始にはあんまり響かなかった。そんな目的の不明瞭な団体が、学校から認められること、あるんだろうか。

「なにかコンセプトはいる、それはこれからメンバーを増やす上でも不可欠なことだよ」

 雄弁なひまわりは中学生を前にして流暢に語る。つまりまだ何も決まってないってことだ。

「今すぐ仮に部の名前を決めるとしたら」

 先輩が大仰な間を作っている隙に、そばを食べ終え、退散、怪しい勧誘からは距離を取るべきかもしれない。始の中の小さな常識が、次の行動について悩ませる。生徒会役員を怒らせるのはまずいのかな。彼女はどうせあと一年で卒業してしまうのだから、問題なさそうだ。

 でも高校三年生ってことは、あの人の、友達かもしれない。

「そうだうちは、星空中毒研究部だな」

 昨日までは身近なものとして受け止めていなかった言葉を、始はまた聞いた。

 まるで奇跡みたいだって、巡がはしゃいだ。

 

 

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