25歳のヒロイン・小夜が嫁いだエリート武家は、なんと陰で悪を成敗するプロの「隠密(暗殺)ファミリー」だった!? 今一番ポップな痛快エンタメ時代小説「姉上、ご成敗ねがいます」シリーズは、新感覚のスパイアクション風時代劇だ。
本作の最大の魅力は、人付き合いは苦手だけど暗殺術は世界最強な新妻とクセ強な秘密を抱える「疑似家族」が徐々に心を通わす、温かく、丁寧に描かれる人間ドラマにあろう。実母と引き離された過去を持ち、実母を捜している八歳の梅千代は、小夜を「母上」と呼ぶことに抵抗があり、普段は小夜のことを「姉上」として接している。
各巻に登場する「闇場居党」や「天杯屋」といった、巨利をむさぼる悪党を成敗する激闘シーンも見逃せない。たとえば1巻における、谷中の荒れ寺での大立ち回りは圧巻の一言。小夜が晴れ着の裏に暗器を仕込み、凄絶な技で悪党たちを一刀両断する戦闘シーンの美しさは、惚れ惚れするほどの爽快感だ。
え、小夜がなぜそんなに強いかって!? 実は今は行方不明になっている小夜の父、吉竹篤兵衛も「始末人」であり、小夜は幼い頃から「暗殺術」を仕込まれて育ったのだ。ちなみに素質が認められなかった実弟の由利之丞は、そのことを知らず、火盗改の滝沢家に養子に入ったのだが、お役目の最中にしょっちゅう様子を見に来るほど、姉である小夜のことを心配している。彼は世間で「鬼の滝澤」通称・鬼滝と呼ばれるにふさわしい実績をあげているが、実は小夜たち「正体不明の正義の一派」がやっつけた悪党たちを、そのあとに現場にかけつけてたまたま捕縛しているだけなのでは? という噂がぼちぼち江戸の巷で囁かれ始めている(もちろん、読者だけは真相をお見通しだ)。
お仕舞いに、ひと癖もふた癖もある魅力的な主要登場人物たちをご紹介します。
〇隠密一家「酒井家」の面々
□小夜(さよ) / 隠密一家・酒井家の「奥方」
表の顔: 旗本・酒井家の実質的な新妻(後妻)。二十五歳。
裏の顔: 比肩する者のない凄腕の暗器使いにして「生まれながらの始末人(暗殺者)」。
元々は小普請入りの武家・吉竹篤兵衛(実は始末人)の長女。十四歳から外で働き、台所仕事や裁縫、愛想のいいおしゃべりは大の苦手という不器用で天然な女性。しかし、ひとたび「現場」に赴けば「気配を完全に断つ術」を使い、吹き矢、棒手裏剣、短刀、鉄扇を華麗に操る暗殺術の天才。
□菊之進(きくのしん) / 一家の「家長」
表の顔: 勘定吟味役を務める有能な役人。三十歳。
裏の顔: 隠密一家の精神的支柱。暗殺術の手練れにして剣の達人。
月代を剃らず総髪(儒者髷)にしており、香るがごとき美男子として江戸中の女性から持て囃されている。金物に肌が触れると腫れ上がる奇病(アレルギー)のため、夏でも革の手袋を欠かさない。暗殺場では風に舞う柳のように身を躱し、一撃必殺で仕留める剣の使い手。表向きは飄々として軽薄に見せるが、裏では非常に冷静。妻となった小夜にぞっこんで、夜の寝所では甘い素顔を見せる。
□蘭十郎(らんじゅうろう) / 小夜の「義弟」
表の顔: 酒井家の部屋住みの厄介(菊之進の弟の役)。二十七歳。
裏の顔: どんなところにも潜り込む「潜入・変装の名手」。
琉球王国の下級官吏の生まれ。14年前、使節(江戸立)の小姓として江戸に来た際、薩摩の抜け荷の秘密(冠鳩)を知ってしまい、闇に葬られかけた過去を持つ。死を偽装され江戸に取り残されたところを青山に拾われた。大きくて丸い目が特徴の派手な顔立ち。琉球仕込みの徒手体術「手(ティー)」の使い手。
□梅千代(うめちよ) / 一家の「嫡男」
表の顔: 秀才の集まる偉殿塾に通う筆子。八歳。
裏の顔: 驚異的な記憶力と知略を誇る一家の「知恵袋」。
菊之進の連れ子(という設定)。生まれて一年半の頃(二歳児)からの記憶を全て保持している驚異の神童。三歳の時に生き別れた実の母親を捜し出すため、自ら志願して隠密の道を選んだ。小夜に対しては当初つんけんしていたが、徐々に信頼を寄せる。滝沢家の美鷹(同い年)を前にすると真っ赤になって大慌てする可愛い一面も。実母との思い出である「赤い色」を常に身につけている。
〇酒井家の周囲の人物
□青山 下野守 忠裕(あおやま しもつけのかみ ただひろ)
丹波国篠山藩主、江戸幕府・老中。
隠密一家・酒井家の「抱え主」。老中職に就いて16年になる重鎮だが、本人は至って質素で「冴えない地味なおじさん(お爺さん)」を自称する好々爺。しかし、賄賂が横行し、手続きに金と時間がかかる表の幕政に限界を感じ、裏からひっそりと世の歪みを正すためにこの隠密一家を組織した。菊之進たちの最大の理解者である。
□滝沢 由利之丞(たきざわ ゆりのじょう)
先手弓頭・滝沢家の養嗣子。火付盗賊改。
小夜の実の弟(十九歳)。姉と同じく強靭な肉体と武勇を持ち、実直を絵に描いたような若武者。姉の小夜を「世の中で一番美しく気高い」と、無闇に慕う極度のシスコン。小夜が酒井家に嫁いだ後も心配でたまらず、何かと理由をつけては警固や見廻りと称して現れる。
着物に武器を忍ばせた最強新妻の爽快アクションと、血の繋がらない偽りの家族が本物の「絆」で結ばれていく温かいヒューマンドラマ。 ページをめくる手が止まらない興奮と、じんわり広がる静かな感動をぜひ味わってみてください。 アニメ感覚で一気読みできる本作、あなたもこの最高に愛おしい家族の活躍を見届けてみませんか?