「これぞ大人の極上エンターテインメント!」として、時代小説ファンから今もっとも熱い視線を浴びているシリーズの一つ、岡本さとる氏による「旗本遊俠伝」。旗本分家の厄介次男坊が、急遽千五百石の本家の養嗣子になるところから始まり、魅力的なキャラクターと痛快な暴れっぷりが支持され、早くも人気シリーズとなっている。

 

 主人公の宝城勇之助は、三百石の旗本家の生まれだが、次男なうえに妾腹のため、養母と兄に疎まれ、盛り場で暴れ回る二十八歳の若者。生みの母は勇之助を産んですぐに亡くなり、何かと庇ってくれていた実父もまた十歳の折に亡くなったため、親の愛情に飢えつつ、やさぐれた毎日を過ごしていた。

 

 その暴れっぷりから深川新地の盛り場で名を馳せ、気の置けない仲間とともに自由気儘な人生を送ろうと考えていた勇之助だが、子を持たない本家の当主・宝城左衛門尉豊重からいきなり世継ぎに指名されてしまう。

 

 突然のことに困惑し、初めは辞退したものの、それでも諦めず己を望む豊重の思いを意気に感じ、本家千五百石の御家の継嗣に収まることを決意、運命が大きく変わった勇之助はこれからどういう活躍を見せるのか!?

 

 というのが本シリーズの序盤の流れだが、この宝城勇之助という男、知恵も回れば腕も立ち、とことん肚も据わっている、時代物のシリーズの主人公としては実に申し分ない人物であるのだが、勇之助が他と一線を画すのは、“大義へのこだわり”と“人への愛情の深さ”、そして“えも言われぬ可愛げ”だ。

 

 前述の通り、勇之助は本家に養子入りするのだが、実は本家の屋敷内では俠客の黒子屋一家が催す賭場が開帳されており、その見返りとして宝城家に毎月金が支払われていた。大名や旗本の屋敷で密かに賭場が開かれるのは間々あることとはいえ、博奕は当然御法度である。自身やさぐれた日々を送っていたこともあり、蔵を改築して設えられた賭場の見事さにこそ感心した勇之助だが、豊重が急逝していざ己が当主となってからは、なかなか賭場を再開しようとしなかった。当主が替わってもこれまで同様の付き合いを望む黒子屋の者たちは困惑するが、ある一件を経て親分の長兵衛と初めて対面した勇之助は、「御法度を犯してまで賭場を開く大義とは何か?」との問いを投げかけたのだ。ただ金儲けのために法度を犯すのをよしとせぬ勇之助に対し、「人助けに使う金を稼ぐためだ」という長兵衛の答えに満足した勇之助は、賭場を本格的に再開するとともに、長兵衛の頼みで、黒子屋の親分になることを決意する。

 

 その後も勇之助は、御法度云々ではなく“人としての大義”を行動の礎とし、家臣や乾分たちにもそれに沿って動くよう求め、様々な出来事を通して、“大義”を持った人物との交流を深めていく。そんな勇之助の生き様に、周りの者たちとともに、読む者は魅了されていく。

 

 勇之助の“人への愛情の深さ”は、勇之助が本家に入ってすぐの出来事に象徴される。無役とはいえ千五百石の御家ともなれば、家臣たちの数も多く、把握するのも一苦労だ。だが勇之助は、一度挨拶を受けただけで顔と名前をさっそく覚え、周りを驚かすのである。

 

 これはほんの一例で、勇之助は家臣や乾分たちに等しく目を配っている。下男や下女に至るまで常に見守りつつ、各人を慮り、最新巻の『悪党達の宴』では、生き別れの母親との再会を望む黒子屋の乾分の角松の願いを叶えようとする。とかく上ばかりを見る者が多いなかで、勇之助は身分に拘わらず相手を尊重し、その人となりや働きぶりを温かく見守る。“殿様”や“親分”といった立場の人物が、己のことをしっかり見てくれているとなれば、下の者は安心して働けるとともに、“このお人のために”となるのが人情だ。これも勇之助の“人への愛情の深さ”がなせるわざだろう。

 

 と、このように、いかにも申し分ない人物に見える勇之助だが、一人での微行の際に主が町で暴れることを案じ、お目付役の供をつけようとする家老の申し出を断ったものの、結局は遊び人風の浪人たちと揉めて大暴れし、「やっちまったぜ……」と後悔する。さらには、“大義へのこだわり”と“人への愛情の深さ”ゆえに、己の家臣や乾分ばかりか、本来対立する立場の人物にすら好感を抱き、手を差し伸べようとすることすらある。そのため難局にあたってあえて困難な策を選ばざるを得なくなり、下の者たちは苦労することになるのだが、真っ正直に己が思いを披露する彼に、「困ったお人だ」と皆が苦笑しつつ、勇之助のために力を尽くそうとする。それどころか、それほど親しくない間柄の者ですら、屈託のない態度で勇之助に頼み事をされれば、「仕方ないか」と承知してしまう。これこそ勇之助という人物が持つ“えも言われぬ可愛げ”によるものであろう。

 

 これ以外にもまだまだ勇之助の魅力は尽きないが、読めば読むほど好きになること間違いなし! 最強の旗本快男児、宝城勇之助の活躍を是非ご堪能あれ!!