2010年の小説家デビュー以来、優れた人情描写と珠玉のストーリーで数多くのファンから支持される岡本さとる氏が、また新たな傑作を世に送り出した。読む者の心を鷲掴みにする、本シリーズの魅力とは?
時代小説紹介サイト「時代小説SHOW」管理人・理流氏のレビューで、その魅力を紹介する。


■『旗本遊俠伝』岡本さとる /理流 [評]
この痛快さ、まさに天下無双! 人情に厚く、俠気に満ちた快男児、宝城勇之助登場!!
岡本さとるは2010年12月に『取次屋栄三』で時代小説デビューした。手習い所や剣術道場の師匠を務めながら、町人と武家の間に立って揉め事を解決する取次屋を描いた痛快物語は、胸のすく展開とともに心にしみる人情話で読者を魅了し、20巻を重ねる代表作となっている。
以降、「剣客太平記」や「若鷹武芸帖」などの剣客シリーズ、「居酒屋お夏」などの市井人情ものを次々に発表。2023年には、「仕立屋お竜」「居酒屋お夏 春夏秋冬」「八丁堀強妻物語」の三つのシリーズで、第12回日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞し、文庫書き下ろし時代小説のトップランナーの一人となった。
このたび双葉文庫から刊行された『旗本遊俠伝』の主人公・宝城勇之助は、三百石の旗本の次男坊で庶子、二十八歳の若者。養母に嫌われ、当主である異母兄からも疎まれて不遇の境遇にあり、深川の盛り場で酒と喧嘩に明け暮れる日々を送っていた。鬼平や遠山の金さんの若き日を思わせる無頼ぶりで、喧嘩の仲裁で小遣い銭を稼ぎ、遊び人たちの大将として慕われている。
文政三年(一八二〇)十月、親戚で本家筋の千五百石の旗本・宝城左衛門尉豊重から養子の誘いを受けるが、勇之助は即座に断る。養母や異母兄の意向を慮ったことに加え、気楽な生活を手放せなかったからだ。だが、豊重が直々に勇之助の馴染みの料理屋に現れ、「人には天から与えられた使命がある」と説得したことで、勇之助の運命は大きく動く。
勇之助は本家入りし、短期間で武士の礼法を身につけ、老中への拝謁を果たして嫡男として正式に認められる。豊重から「父子二人で悪巧みと参ろう」と誘われ、勇之助は立身出世よりもその言葉に胸を躍らせた。ところが、豊重は宝城家が抱える大きな秘密を明かさぬまま急逝してしまう。勇之助は突然、三十人以上の家臣と奉公人を抱える千五百石の旗本家を守る立場に立たされた。
借金の発覚や先君豊重の隠し子の存在、俠客との関係などが次々に明るみに出る。勇之助は盛り場での遊びで培った知恵と剣術を駆使して難局に挑み、その義俠心は俠客の大親分をして「子分にしてほしい」と言わしめるほど。
続く第2巻『旗本遊俠伝【二】姫と賽』では、旗本当主と俠客の親分という二道を歩み始めた勇之助が、先代の落し胤で義妹にあたるお辰の災難により窮地に追い込まれる。岡本時代劇の華、人情味あふれるヒーロー像は『取次屋栄三』の秋月栄三郎や『剣客太平記』の峡竜蔵を想起させ、ページをめくる手が止まらない。仁と俠に満ちた勇之助の痛快な活躍に目を奪われる、王道の時代小説の誕生だ。