直木賞・山本周五郎賞W受賞! 映画も大ヒット! 『木挽町のあだ討ち』の著者による最新作が刊行されました。今作は、明治三十九年の東京を舞台に描く新機軸の人情譚。「霊が視える」冷静な学生と、「霊は視えない」が情熱はある貴族の御曹司という凸凹コンビが、世を騒がす不思議な事件の真相を解き明かします。
「小説推理」2026年7月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』の読みどころをご紹介します。

■『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』永井紗耶子 /細谷正充 [評]
霊と話せる帝大生と怪異大好きな子爵家の次男。数々の霊絡みの騒動に、ふたりが立ち向かう
さまざまなタイプの歴史時代小説を執筆している永井紗耶子が、新たなジャンルに挑戦した。時代ホラーだ。かつて短篇の時代ホラーを発表したことがあったが、本格的な取り組みは、本書が初めてといっていい。
物語の始まりは明治39年だ。帝大の学生で、銀座にある新聞社でアルバイトをしている斎木啓吾には、特別な能力があった。霊が視えて話すことができるのだ。ある日、下宿に帰る途中、侍の霊に取り憑かれた啓吾。その侍の髑髏を掘り起こし、下宿に持ち帰ったことから警察に捕まり、牢に入れられた。そんな啓吾を助けてくれたのが、子爵家の次男の連翹寺正周だ。怪異やスピリチュアルなことが大好きな正周は、啓吾の能力を知ってから、彼を腹心の友と呼んでいた。上野戦争の頃に斬り殺されたらしい侍の霊の心残りを果たすため、啓吾と正周は動き出す。
というのが第一話「ロマン髑髏」の粗筋だ。霊とコンタクトの取れる啓吾。霊感のたぐいはまったくないが、身分と行動力で必要なことを調べる正周。このコンビの活躍が、物語の読みどころだ。また、ストーリー展開にミステリー的な要素があり、意外な事実も明らかになる。しかもそれが、温かな味わいへと繫がっているのだ。以後、猫に取り憑いた元花魁の霊の願い、浅草十二階に展示された男爵令嬢の写真の怪異、啓吾と正周が初めて出会ったときのエピソードと、一話ごとに内容が工夫されている。だからページを繰る手が止まらない。さらに第二話「祈り猫」で、元花魁の願いは叶うものの、ある人物の行方が分からないまま終わる。この人物が各話を貫く横糸になっており、読者の興味を惹きつけるのだ。第五話「生きていた令嬢」では、10年前に行方不明になった炭鉱王の娘が、生きて帰ってきたことから巻き起こる騒動に、啓吾と正周が巻き込まれる。騒動を通じて露わになるのは、人の心の醜さや、やりきれなさだ。しかし一方で、人の心の繫がりに希望も感じられる。そこが本書の魅力になっているのだ。シリーズ化も決定しているとのことなので、今後の展開を大いに期待したい。