あなたはドリームランドよりマウンテンの方が楽しみだった。だって、ドリームマウンテンのオープンした日、九月九日は、あなたの生まれた日でもあるから。
完成した木箱はボンドをかわかすために、教室の外のろう下にならべたつくえの上にしばらく置いておく事になった。クラスの子たちのほとんどが、あなたの箱の前に立ち、すごいすごい、とかん声を上げていた。
「ギフトショップで売っている、本物みたい」
実さいに、ドリームマウンテンに行った事がある子にそう言われ、あなたはほこらしい気分になった。
「アッコは作文だけじゃなく、工作も得意なんだね」
そんなふうにもほめてもらえた。自分で言うのもなんだけど、あなたの、そして、わたしの長所は、想ぞう力と集中力なんじゃないかな。
休み時間の教室がどんなにさわがしくても、本をめくる手は止まらなかった。何より、教科書にのっているくらいの文章なら、三回声に出して読めば暗記する事ができた。
国語のじゅ業中、お父さんの事が心配でぼんやりしていたあなたは、本読みを当てられた。あわてて立ち上がったけれど、教科書を開いてもいなかった。となりの席の男子が文頭を小声でささやくと、あなたは「ああ、そこね」と寒い季節にもかかわらず、ひたいにういたあせを手のこうでぬぐいながら前を向いた。そして、教科書を手に取らないまま、一だん落分を暗唱し始めたのだから、教室中のみんなが目を丸くしておどろいていた。
それ以来、あなたは天才少女なんてよばれるようになった。はずかしがり屋のあなたは「やめて、いつも通りのアッコがいいよ」と顔を真っ赤にしながら、必死でうったえていた。
そういう所は、今でも同じ。
そんなあなたにいじわるな事を言う子もいた。あなたは今、自分はおとなしいため、せいかくが暗いと思われて、クラスの中心にいる活発な女子たちからさけられているのだ、となやんでいるかもしれない。だけど、おとなになったわたしには、それがまったくの見当ちがいだった事が分かります。
あなたはしっとされているだけ。だから、学級委員長の実里ちゃんはこう言った。
「シロウトがお金目的で作ったものじゃなくても、ドリームキャラクターを勝手に使っちゃダメなんだよ。わたしのいとこのお兄ちゃんの知り合いの小学校で、卒業記念に体育館のかべに、みんなで、ドリームランドのメインキャラ、ドリームベアの絵をかいたら、アメリカのドリーム社から、すぐに消すようにってこう議の連らくがあったらしいんだから」
そのとたん、あなたの顔はこおりついた。木箱をぼっしゅうされるだけでなく、ルールい反をしたせいで、ばっ金を払う事になったらどうしよう。それよりも、ドリームランドやマウンテンに立ち入りきん止にされたらどうしよう、と。
あなたは泣きながら、たん任の篠宮真唯子先生に相談しに行った。すると先生は「まだ見つかっていないから、大じょう夫よ」と笑いながらあなたをはげまし、もう百点満点をつけたからと、その日のうちに木箱を持って帰らせてくれた。
「パパに、すごく上手だってほめてもらえたよ」
学校帰りに病院によったあなたは、よく朝、うれしそうに先生にほう告したよね。
だけど、その木箱に、家族三人でのドリームランドとマウンテン旅行の写真を入れる事はできなかった。木箱ができたよく週、あなたのお父さんは天国へと旅立ったから。
ひと月前の事ですね。
その時に、この手紙を送る事ができたらよかったのだけど……。
未来からの手紙はかん単にか去へ送れるものではありません。いつ、だれが、だれに、どういった目的で送るのか、きびしいしんさがあるのです。
よく考えてみて。かん単に送る事ができたら、たからくじの当選番号を伝える事もできるでしょう? みんながそれをしたらどうなると思う? そんなのはくだらない例だけど、たとえば、一部分の不幸な未来を知り、そのステージをさけようとする人だっているかもしれない。
知らなければ、そのステージを乗りこえた先に、大きな幸せが待っていたかもしれないのに。
わたしがこの手紙に、げんざいの名字やしょく業を記していないのも、それらをきん止されているからです。この先、あなたがもう少し成長すれば、自分がなぜこの世に生まれてきたのかを、今までよりも真けんに考えるかもしれない。
だれと出会うために、何をするために、などとなやんだり、色々な方法をためしてみたりしながら、人生は自分自身で切りひらいていくものです。なのに、先の事が分かってしまったら、だれかに決められた人生を歩んでいるだけなのだと思いこんでしまったら、努力をしない人間になってしまうかもしれません。もしくは、わざと反発しようとするかもしれません。
未来など、知らない方がいいのです。
それでも、わたしがあなたに手紙を書く事にしたのは、あなたの未来は、希望に満ちた、温かいものである事を伝えたかったからです。
やさしかったお父さんをなくして悲しんでいるのは、あなただけではない。おそう式の日、お母さんはあまりの悲しみにたえ切れなくなってたおれてしまった。あなたはそんなお母さんの代わりに、自分がお父さんを見送るのだというように、必死でなみだをこらえ、親族席に一人ですわっていました。
お母さんはそれからも、たびたび起きられなくなる事があって、お父さんのしょく場の社長さんご夫さいや同じマンションの人たちは、あなたに、お母さんを元気づけてあげてね、お手伝いしてあげてね、などと言ったけれど、あなたがお母さんをささえようと必死にがんばっている事は、わたしが一番よく知っています。
夕飯のおべん当を買いに行ったり、ゴミ出しをしたりといった、家の事だけではありません。あがりしょうなのに、お母さんに喜んでもらいたくて、クラスで一人だけ選ばれる六年生を送る会で手紙を読む係に、自分から手をあげて立候ほしたよね。
あなたにとっては、先週の出来事です。これには、すいせんされるのを待っていた実里ちゃんもおどろいて、いつものように文くを言いませんでしたね。
努力した先の未来には、楽しい事が待っている。これは、お父さんがよく言っていた事。あなたはなみだがこみ上げそうになるごとに、おく歯をギュッとかみしめて、最後まで堂堂と読み上げました。一ぱん公開していたものの、そこに、お母さんのすがたはなかったけれど、体育館中にひびいた大きなはく手は、きっと、天国のお父さんの元にとどいたはずです。
『未来』は全3回で連日公開予定