【登場人物紹介】
城本純子……大学三年生。勝ち気で悪乗り好きなリーダー役の先輩
絵崎康二……大学三年生。穏やかで心優しく頼もしい抑え役の先輩
小塚咲月……大学二年生。陽気で流されやすい賑やかな女子。城本純子の妹分
棚村祥………大学二年生。クールで冷笑的だが案外とまじめなツッコミ役
宇佐眞知矢…大学一年生。怖がりで挙動不審だが人畜無害の後輩
江藤楓………大学一年生。控え目で物静かだが意外と頑固な後輩
茶垣美鈴……大学三年生。美人で万能で格好いい憧れの先輩。棚村祥の恋人
花岡景太郎…大学一年生。喧嘩っ早いが人懐っこい後輩。城本純子の舎弟
【肝試しルート】

「それじゃ、祥。行こうか。ほら、あんた男なんだから先に行って」
「はいはい、行くから押さないでください」
「二人きりだからって、変なことしたら美鈴に言うからね」
「純子さんに襲われたって? 言っていいですよ、もう」
純子と祥はわいわい言い合いながら校庭を離れていく。肝だめしのルートは村の端にあった廃寺まで向かって、裏手の墓地を一周して戻ってくるという、だいたい二十分か三十分程度のコースだった。
「行ったら行ったで、残ったほうは心配になるね」
康二が焚き火の炎を大きくさせながら言う。盛り上げ役の純子とツッコミ役の祥がいなくなっただけで、テントの前はずいぶんと寂しげに感じられた。
「なぁ眞知矢。さっきの話、嘘なんだろ?」
「う、嘘です」
眞知矢は小太りの体を縮めて、メガネの奥の小さな目でしきりに周囲を見回している。
「嘘に決まっています。あんなの、落ち武者なんて、幽鬼なんて、現実にあるわけが……」
「……そうであってほしいね」
康二は困ったように頭を掻いて話をやめる。平静を装っているが少しは怖がっているのかもしれない。眞知矢の話ばかりではない。この外界から遮られたダム底の、闇を溜め込む器のような雰囲気がさらに不安を高めていた。
前もって聞いていた純子の作戦によると、彼女の命令でこっそり来ている景太郎は廃寺の付近にいるはずだった。脅かすのは咲月と康二のペアだけで、そのあとはタネ明かしもせずにそのまま立ち去る手筈になっていた。
景太郎がどのような方法を使うのかは分からないが、恐らく正体が知られないように遠くで物音を立てるなどするのだろう。それを受けて咲月が康二にすがりついて女の子らしく甘える。すると康二は守ってやらねばという思いに駆られて、咲月を大切な存在と思い、見る目を変えてくれる。かくして二人は晴れて恋人同士になるというシナリオだった。
はたしてそううまく話が進むのか。康二も怖がって逃げ出したり、すり寄る咲月を気持ち悪がったりしないだろうか。半信半疑のままだが、動き出した作戦はもう止められない。康二が大学を卒業して外資系の会社に就職すると外国へ行ってしまうかもしれない。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「咲月さん、大丈夫ですか?」
「ふぇ?」
ふいに話しかけられて咲月は気の抜けた声を上げる。楓が窺うように顔を覗き込んできた。
「なんだかすごく深刻そうな顔をしていたので。やっぱり怖いんですか?」
「え? ああ、うん、ちょっとね。でも平気だよ。楓は?」
「私も少しだけ……何も起きなければいいんですが」
楓は二の腕を軽く抱いて眉を寄せる。みんなの前では平然としていたが、やはり気持ちは落ち着かないようだ。自分たちの勝手な計画のせいで無関係な彼女まで怖がらせてしまい少し申し訳なかった。
「大丈夫だよ、楓。いくらなんでも落ち武者とか恨みとか集団自殺とか、そんなのありきたりだよ。もう少しひねりがないと今時の読者には受けないよ」
「読者って……」
「違う? こういう場所ならもっとこう、殺人事件とかのほうがいいと思わない? 山奥のダム底にやってきた浮かれた大学生たちが巻き込まれる感じの」
「クローズド・サークルですね。外界から閉ざされた状況で、限られた登場人物の中に被害者も加害者もいるという。無人島とか吹雪の山荘とか、森の中のお屋敷とか」
「そうそう。私たちの中で誰かが殺されるの。眞知矢くんがいいかなぁ」
「よくないですよ……じゃあ犯人は?」
「お、乗ってきたね。犯人? それはやっぱり純子さんだよ」
「ひどい。動機はなんですか? 純子さんが眞知矢くんになんの恨みが?」
「分かんない。でも、眞知矢くんが殺されて純子さんが犯人というのも、ありきたりかなぁ。じゃあ祥が犯人とか……いや、祥もシリアルキラーっぽいからなぁ」
「康二さんは?」
楓は口元に手をあてて遠慮がちに言う。康二と眞知矢は焚き火の前で座ってぼそぼそと話し合っている。赤い炎に照らされた横顔が凜々しくて見とれてしまう。
「こ、康二さんは……そんなことしないよ」
「でもミステリー小説なら、そのほうが衝撃的ですよね」
楓は楽しそうに目を細める。信じられない。なぜ康二が眞知矢を殺すのか。逆なら嫉妬やコンプレックスによる逆恨みも考えられるが、優しくて賢くて格好いい康二がなぜ……いや殺していないけど。
「たしかに……一番考えられない可能性としては、ありかも」
「それか私や咲月さんが犯人というのは?」
「ダメ。キャラが薄いからつまんない」
咲月は即座に答える。自分が犯人では地味すぎて読者の期待に応えられそうにない。楓ならまだ美少女という特徴はあるが、控え目で他者とのかかわりが少なそうなので犯人役には向いていなかった。
「やっぱり康二さんが……いやそもそも眞知矢くんが悪いのかな。いっそ康二さんを被害者に? え、そんなの絶対嫌……」
「咲月さん。意外性を狙うとしたら、実は外部の人が犯人というのもありますよ」
「が、外部?」
「はい。私たちの中に犯人がいると思わせて、本当は別の人が外から来て、こっそりどこかに隠れていたとか」
「それって……うん、まあ、面白いかもね」
咲月は楓の不意打ちにとまどい口ごもる。
「な、なるほどね。私たち以外の犯人ね。でもさ、でもさ、そんなの誰が、どこから、どうやって、そんなことするの? その人って私たちの知り合い? それがわざわざこんな山奥にまで来るの?」
「え? いえ、そこまでは何も考えていませんけど」
「あ、そう……」
楓が目を丸くして首を振る。それもそうだろう。彼女は現実ではなくミステリー小説の設定を考えていただけだ。咲月はごまかすように空笑いをする。
「と、まあそんなわけだからさ。眞知矢くんの呪いの伝説なんて怖がることないよ、ね?」
「そうですね。私もなんだか気にならなくなってきました。ありがとうございます、咲月さんのお陰です」
楓はにっこり笑ってうなずく。なんて可愛い後輩だろう。怖がらせたり困らせたりしてごめんね。大丈夫、楓は誰にも脅かされないから。だからもうちょっとだけ作戦に付き合ってね。
遠くから悲鳴と怒号が聞こえて、だんだんと近づいてくる。でも深刻さのない単なるわめき声だ。テント前の四人が顔を上げて見ていると、やがて純子と祥がじゃれつくように揉み合いながら帰ってきた。
『愛した人を調べないでください』は全3回で連日公開予定