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 少年はそのまま、島で成長した。山火事から数年が経つと、はげ山となってしまった焼野原は草に覆われ、見た目には緑色の山が戻った。ただ、木は戻っていない。

 草や笹ばかりが生えたその山には、等間隔で小さな苗木が並んでいる。大人たちが植えたものだ。あの木が大きくなったなら。そうしたら、いずれまたあの緑の森の山に。そう願い、少年は山を見守ってきたが、やがて少年が成人になっても、木々はなかなか思ったように大きく生長しなかった。

「ネズミだ、ネズミ。いっくら木ぃ植えたって、片っ端からネズミが幼木齧って枯らしちまうんだもの。やってられねえ」

 長年、植林に携わっていた役人はそう言って酒を呷った。狭い島に生息し、山火事をかろうじて生き残ったネズミにとって、まだ若い木の柔らかい皮はまたとない食料だった。植えては食われ、育ててはまた食われる。

 どれだけ人間が真剣に島の将来を想って木を植えたとしても、ネズミにとっては関係がない。人間が罠を仕掛けて捕らえるにも限界がある。島全体に毒餌や殺鼠剤を撒くことも、現実的ではなかった。

 かつてあの山火事を見た青年は思いついた。では、ネズミを食べる生き物をこの島に放ってはどうだろう?

 今までこの島にいなかった、ネズミがすっかり油断する、天敵を。

 たとえば、キツネだ。まとまった数のキツネをこの島に放って、ネズミを食わせたならば。折しも、世の中には毛皮の生産という仕事が根付き始めている。ネズミをたらふく食ってくれたキツネは折を見て回収し、その毛皮を売れば、一石二鳥ではないか。青年の思い付きは、悪くないように思われた。

 早速、青年は手はずを整える。島の中だけでなく、船で稚内まで渡っては、キツネの仕入れ先について尋ね歩いた。

 そのうち、千島列島で大規模に養狐場を営んでいる業者の名を聞きつけた。青年は生来の真面目さで先方に手紙を綴る。礼文島に昔のような木々生い茂る景観を取り戻すために、どうかキツネを譲って頂けないだろうか。できれば飼育方法などもご教授願いたい。言葉を尽くして、真摯に頼み込んだ。

 その誠実な手紙が縁を結び、商売の糸を手繰り寄せ、希望となるべき光が灯る。

 島で育った青年は、こうしてキツネを手に入れた。これで緑の木々溢れる山が取り戻せると、この獣たちが希望になるのだと、微塵も疑っていなかった。

 

『清浄島』は全3回で連日公開予定