ミステリ作家にして無類の怪談好きで知られる青柳碧人氏による実話怪談集「怪談青柳屋敷」シリーズが好評を重ねてついに第3弾が刊行! これを記念して恒例の「青柳さんが今会いたい怪談師」と怪談の魅力について語る対談を開催。今回のゲストはお笑いコンビ「入間国際宣言」として活躍する一方、怪談師としても大注目の西田どらやきさん。さっそくお二人の意外な共通点も見つかるなど、興味深いお話が広がる。

 

取材・構成/有山千春 撮影/河村正和

 

──今回の対談は青柳さんが「ぜひ、西田さんで」とご指名だったそうですが……

 

青柳碧人(以下=青柳):以前からYouTubeを観ていておもしろいなと思っていて会いたかったんですよ。”怖い系”よりも"不思議系”に力を入れているように思っていて、そんなところに惹かれました。

 

青柳碧人氏

西田どらやき(以下=西田):えー! ありがとうございます!

 

青柳:動画を始めてどれくらいになりますか?

 

 西田:YouTubeで自分のチャンネル(西田どらやきの怪研部)を始めたのは2024年2月からですが、その前から先輩の好井まさお(注1)さんやほかの方のチャンネルには出させてもらってました。

注1/NSC東京校11期。芸人としての活動の一方、怪談師としても大人気で、YouTube公式「好井まさおの怪談を浴びる会」はチャンネル登録者がなんと56万人超!

 

西田どらやき氏

青柳:そもそも怪談を始めたきっかけは?

 

西田:もともと子どもの頃から怪談が好きで、聞くのも集めるのも好きやったんですけど、芸人2、3年目くらいから夏の怪談イベントに出るようになって。好井さんのYouTubeに出させてもらうようになり、好井さんの勧めもあって自分のチャンネルを作りました。

 

青柳:怪談はどうやって集めています?

 

西田:友だちとか先輩がやっている飲み屋とか、仕事で知り合った人とか。でも、これが……なかなか持っていないんですよね。

 

青柳:まあそうですよね。

 

西田:その辺のこと、青柳さんと話したかったんです! 青柳さんの「怪談青柳屋敷」シリーズもいろんな方の怪異体験をまとめられていますけど、取材対象の幅とか取材の精度の高さがハンパじゃないんですよ。

 

■怪談という“枠”を外れた怪談

 

青柳さんが蒐集してきた、中学生のリアルな怪異体験が記されたアンケート

青柳:ありがとうございます。最近は中学校での講演に呼ばれたりすると「その代わりに」とアンケートを取らせてもらうんです(中学生が回答した怖い話のアンケート用紙を見せる)。

 

西田:すごい! いいなあ!

 

青柳:すると半分くらいの子は書いてくれるんですよね。なかでも「これは、ちょっと興味惹かれるな」と思うことを書いてくれた子に追加取材したりしています。

 

西田:(アンケート用紙を読みながら)この回答用紙に書かれた例文の“網の広さ”がいい! これ大事ですよね。「巨大な生き物を見たことがある」から「スマホにインストールした覚えのないアプリが入っている」まで書いてあって、いわゆる“怪談”の枠に収まらない回答が集まるように工夫が凝らされていますよね。

 

青柳:子どもたちの回答で今まで短いけどおもしろかったのは、「放課後、徒歩で帰宅中に目がかゆくなったからきゅーっとつぶった。パッと目を開けたら、全然知らないところにいた。……こんな話でもいいですか?」という。

 

■“二人隣りの席”にいい怪談アリ?

 

「擬音デカめな怪談がちょっと……」と苦笑する西田さん

西田:いやあ、いいなあ! めちゃくちゃおもしろいですね! 僕の場合、たとえば、先輩が「この人、怪談持っているよ」って知り合いを連れてきてくれるとする。当然、こっちは期待するじゃないですか。

 話す側の人も肩をぶん回しているんですけど……申し訳ないんですが、どこかで聞いたことがある話ですね……と、たいてい肩透かしに遭うんです。「柳の木の陰から白い女がぬっと──」みたいな。

 

青柳:むしろベタすぎて、ちょっといいかも(笑)。

 

西田:逆にね(笑)。それに、僕がめちゃくちゃ怪談を聞いていた学生時代、当時の流行りなんですかね? みんな音を使うのが好きで、ドドドドッとテーブルを叩いて、「わー!」とやるやつ。アレ、すごくイヤやったんですよ。お化け屋敷で出るガスと同じで、びっくりしちゃうから。あの怪談中の音って、僕はガスやと思ってるんですよ。

 

青柳:はいはい(笑)。

 

西田:そんなふうに、ご本人は唯一無二のブリリアントな実体験として熱心に語ってくれるんですが、ありがたいと思いつつももどかしいというか……。

 そういうとき、たいてい2人隣りくらいで黙って聞いている方に話を振ると、ぼそっといい怪異体験を語ってくれるんです。「なにそれ!?」という、この世にひとつだけの体験、みたいな話を。

 たぶんそれって、「これは怪談じゃないよな」と誰にも喋らず引き出しの中にずっと入れていた話なんです。こういう話をどうにか聞きたいという気持ちがずっとありますね。

 

■怪談とお笑いの意外な接点

 

前回登場のチビルマ(チビル松村)さんと西田さんの共通点を指摘する青柳さん

青柳:そういうところ、西田さんは、チビルマくんたちのユニット『おばけ座』(注2)に近いのかなと思います。チビルマくんも「それって怪談なの?」というものも拾っていくスタイル。だからおもしろいんです。

 チビルマくんも「机をドドドドッ」は絶対嫌いだろうし(笑)、2人のチャンネルってすごく合うんじゃないかな。2人ともおしゃれな雰囲気だし。

注2/伊勢海若、チビルマ、深津さくら、ワダという4人の怪談師によるユニット。公式チャンネルでは週1で怪談の生配信をしている。

 

西田:いや、僕は大学生みたいな見た目なだけで(笑)。『おばけ座』さんは、怪談好きが唸るような話から子どもも楽しめる怪談まで得意で、うらやましいですね。青柳さん、子どものときに見たものって覚えていますか?

 

青柳:『あなたの知らない世界』(日本テレビ系)(注3)とかですかね。夏休みのお昼にやっていた──。

注3/1973年から1997年まで、「お昼のワイドショー」(後に「午後は○○おもいっきりテレビ」)の枠内で夏休み期間を中心に週一で放送されていた「怪奇特集!!あなたの知らない世界」

 

西田:あ、知ってます! リアタイ世代じゃないですが、小さい頃に特番で復活してました。おばあちゃん家でテレビを観ていたら急に怖い話が始まったんです。

 

青柳:そうだったんですか。新倉イワオさんという方が司会でしたよね?

 

──新倉さんはもともと『笑点』(同)の放送作家さんで、夏場だけ怖い話を集めてやっていたんですよね。

 

青柳:ああ、やっぱり怖い話とお笑いって繋がっているんだ。あと夜中にやっていた稲川淳二さんの番組を観ていましたね。

 

■トラウマ昔話が西田さんの原点?

 

未だに心に引っかかる奇妙な昔話が怪談蒐集の原点と語る西田さん

西田:僕も稲川淳二さんのYouTubeだけを夜通し観続けた時期がありました。

 

青柳:『先輩のハト』とか知ってます?

 

西田:知ってます! ツイッターを始めたとき一番最初にフォローしたのも稲川さん(笑)。ただ、原体験は『学校の怪談』(フジテレビ系)かもしれないですね。いや、もっと前に『まんが日本昔ばなし』(TBS系)もあるか……。

 

青柳:あるある。怖い回、ありました。

 

西田:昔話だと安心して観ていたら、たまにどギツイがあるんですよ。救いがないというか。「結局百姓の五助はこれで死んだのだった。終わり」みたいなのが怖くて……。それきっかけで、図書館で似たようなものを探したりしましたね。

 

──西田さんの怪談蒐集の原点はその辺にあったと

 

西田:そういえば幼稚園のとき、バザーで怖い話ばかり載っている児童文学を30円で買ったことがあって、そこに載っていた『人、人を食う』という話が忘れられないんですよ。

 飢饉で村人が次々と死んでいく中、ある男が子どものために食べ物を探しに行くんですが、何日もかかってしまい帰ってきたら、子どもが泣きながら自分の体を自分で食べていた──って話で、しかも挿絵付き……もうそれが怖すぎて、いまだに思い出しては探すんですが、ネットでも見つからないんですよね。

 

■「日本昔ばなし」には青柳さんも…

 

「そういえば、僕も…」とトラウマ昔話を語り始める青柳さん

青柳:僕も聞いて思い出しました。『まんが日本昔ばなし』の「琴塚」って話です。村はずれの洞くつに、いつもこちらに背を向けて黙って正座している女性がいる。村で冠婚葬祭があるときは洞くつに御膳を借りにいき、お米や野菜をつけて返すんです。ただし、絶対に彼女の顔は見てはならない掟がある。

 

──「迷い家」みたいな話ですが、嫌な予感がしますね……

 

青柳:あるとき腕っぷしの強い男が「顔を見てやる!」と言いだす。村人も口では止めるけれど、結局、草むらの陰から覗いてしまう。男が無理やり女性の肩を掴んで顔を振り返らせると……「ギャーー!」という悲鳴とともに暗転。

 ただ、何より不気味なのが、このあとの展開が僕の記憶とネットで読めるあらすじとでまったく違うんです……。

 

西田:うわあ……そういう話を聞いていると、昔見た変なテレビをどんどん思い出してきますよ。

 

(後編)に続きます

 

 

【お知らせ】
8月19日19時より、2023年怪談最恐戦王者にして最新刊『怪談ぐるい』が刊行されたばかりの怪談師・作家の深津さくらさんと青柳碧人さんのトーク&サイン会を開催。会場は東京・新宿区の芳林堂書店高田馬場店で、開場は18時半より(詳細は以下のリンク参照)。

https://www.horindo.co.jp/t20240612/