青柳碧人氏による実話怪談集・怪談青柳屋敷シリーズ第3弾『カエルみたいな女 怪談青柳屋敷・新館』の刊行を記念した、お笑い芸人で気鋭の怪談師・西田どらやきさんとの対談後編。UFO遭遇体験の話から東尋坊にまつわる衝撃的なエピソードまで、怪談の枠にとらわれない「不思議で奇妙な実話」が次々と──。
取材・構成/有山千春 撮影/河村正和
■西田さんの衝撃UFO体験談
青柳碧人(以下=青柳) 西田さんは「怪談」の枠に収まらない不思議な話をしますが、そんな話にロマンを感じるということは、UFOも好きですか?

西田どらやき(以下=西田):好きです! 高校生のとき、最寄り駅から実家の中間にある夜の公園を自転車で飛ばしていたら、池のほとりの木々の間に全身グレーのスウェットみたいなのを着た大柄な人が立っていて……近くまで来たら顔が完全にハトやったんですよ。
青柳:ハト……?
西田:ハトです。ハトも完全にこっちを見てて、うわ! となって。あれは宇宙人やったと思うんですが、2009年のM-1グランプリ決勝で笑い飯さんが「鳥人」をやって(注1)、僕が見た宇宙人とまったく同じなので、もうどこにも喋れなくなってしまって……。「それ鳥人のパクリやん」って言われるだけだから……。
注1/とりじん。首から上が鳥、下が人間という奇妙なキャラが登場。審査委員長(当時)の島田紳助が100点満点をつけたという伝説的なネタ。

青柳:(笑)それが西田さんの宇宙人体験なんですね。
西田:もうひとつ、1年くらい前にすっごい当たる霊能者の方を紹介されて、その方からいきなり、「UFO乗ったことある?」と言われました。「ないです。乗ってたら絶対覚えてるんで」と言うと、「おかしいね。めちゃくちゃ宇宙の音してるけど」と言われて(笑)。
青柳:宇宙の音? 気になるなあ。
西田:謎ですね(笑)。でも、なんも話してないのに、僕の父のことまで言い当てた人でしたが、でもまあ、乗ったことは覚えていないんですよねえ。
■都内に点在する「奇妙な街」
──今回の新刊『カエルみたいな女 怪談青柳屋敷・新館』には1章丸ごとUFO系の話になっていましたが……。
青柳:そうですね、聞いた時期はバラバラですが、そのなかの一つは、バーでずっと株のチャートを見ていた方から聞いたんです。最初は「俺は怖い話持ってないよ」と言ってたんですけど、僕がマスターとちらっとUFOの話をしていたら「UFOくらいならあるよ」と、株のチャートを1回閉じて話してくれました。
西田:(笑)すごいバランス感覚ですね。
青柳:中野新橋のバーだったかな。
西田:そういえば、『怪談青柳屋敷』に中野新橋がちょこちょこ出てきますよね。
青柳:そのバーは一度しか行ったことないんですが、そこでいっぱい聞いたんです。お店自体も出るところで。もう移転しちゃったんですけどね。

西田:僕は実体験も含めて都内のSという街の話をよくしているんですが、いくつかはもう建物自体がないお店が多いですね。
青柳:そういえばSって1ヶ月に1、2回すごい霧が出るっていう話がありますけど、本当ですか?
西田:ずっと住んでSで起こった奇妙な体験談を聞き集めている身からすると……そんな日はありません!
青柳:そうなんだ(笑)!
西田:でも、僕が出会っていないだけかもしれません。あの街、なにかあると思います。
■怪談取材はメモ派の二人だが

青柳:なにかある街といえば、僕の仕事場の近くに3軒知ってますよ。視える人がいるバー。
西田:ほんっと羨ましい! すごいなと思いますよ。そういう話を聞く時ってレコーダー使いますか?
青柳:録音しても聞き返さないし、全部直筆メモです。
西田:僕もメモ派です。お店でお酒を飲みながら聞いて「こんなにおもしろい話を忘れるわけがない」と自信たっぷりにキーワードだけ書いてあるんです。でもたいてい翌日「なんやこれ……」というメモばかり。青柳さんも同じようなことを本に書いていましたよね。だから僕、最近はバトンを渡すんです。
──バトンを渡す?
西田:店を出たら友だちにすぐに電話して、ついさっきの話を聞いてもらう。頼むぞと友だちに託すんです。
──なるほど、だからバトン(笑)。ところで、ふたりとも心霊スポットには行かないんですか?
青柳:行かないですね。
西田:『怪談青柳屋敷』を読んでいて「マジで一緒だ!」と膝を打ったんですけど、たまたま日常生活の中で遭ったものを抽出したいんですよね。こちらから受け取りに行きたくないんです。
青柳:人から聞く分にはいいんですけど、ただまあ心霊スポットだと「心霊スポットの話かあ……」とはなりますね。不謹慎な要素が含まれるなあと思っちゃったりするんです。特に地方だと、ただの廃墟なのにそんなふうに仕立て上げられてしまったり……。
西田:ただ、今回の『カエルみたいな女』に出てきた東尋坊の話、怖いですよね。あそこはやっぱり「いのちの電話」を見るだけで圧倒されますよね……。
■東尋坊にまつわる奇跡のような話

青柳:東尋坊といえば、まだ書いていない話があるんです。僕が初めて行ったのは26歳のときで、「夜中に白い手がブワーッと出てくる」なんて噂のあった、東尋坊沖にある雄島まで行ったんです。
昼間、島を1周する遊歩道を歩いていると、白蛇が目の前を横切ったんですね。うわ! 白蛇だ! と驚いたし、そのときは怪談っぽいメンタリティだったから、「この感動を今すぐ誰かに伝えたい!」と思ったんです。
当時、怖い話を喋っても嫌がらない女の子の後輩がいて、その子に「今、目の前を白蛇が通ったよ」とメールしたら、すぐに返信が来たので見ると、たった一言、「それ、私だよ」と書いてあったんです──。
西田:怖い怖い(笑)!
青柳:でしょ? 僕も怖いから返信しなかったんですが、いろいろあって、その彼女が今の僕の妻です。
西田:えーーー!「それが今の妻です」史上いっちばんすごい話……!

青柳:彼女もそれは覚えていて、ただ改めて聞いても「私だよと思ったからそう送ったけど」みたいなことしか言わないんですよ。
西田:そのメールの返信、最高の返しですね! こっちのワクワク感とか怪異的好奇心をちゃんと読んで返してくれているというか。
青柳:どうなんですかねえ(笑)。そういえば、付き合う前に飲んだとき、ダイノジの大谷(ノブ彦)さんの怪談「霊感テスト」を彼女相手にやったんです。
西田:知ってます! 生まれ育った家を思い浮かべて、そこで何かと出遭ったら──
青柳:そう、霊感があるというやつ。で、彼女は「病院の服を着た人がいたけど……」と言うので、この子はおもしろいな~と印象に残っていて、白蛇のことを送ったんです。でも、彼女自身は怪談嫌いなんですよ(笑)。
西田:エッジの利いた奥さまですねー!
■西田どらやき『怪談放浪記』に期待!

──西田さんは7月刊行の『芸人怪談 怖い寄席』で著者に名前を連ねていますが、単著で読み物としての怪談をやりたくはありませんか?
西田:『怪談青柳屋敷』みたいに、読んでこれだけ楽しいものを書くのって難しそうやなと思います。それに正直、僕のやりたいことを全部やってくれてますから(笑)。だったら、今のままでいいやんって思っちゃいますよね。
青柳:いやいや、西田さんの話をまとめて読みたいと人は多いと思いますよ。
西田:どうなんでしょうねえ。僕は作家の伊集院静さんが好きなんですが、伊集院さんの「旅打ちエッセイ」というか、吉田類さんの『酒場放浪記』みたいな、放浪しながら怪談と出遭う読み物は面白いかなあと思いますけど。

青柳:『怪談放浪記』いいじゃないですか! でも、それにはちゃんと放浪しないといけないですね(笑)。
西田:伊集院さんみたいにギャンブルでズタボロになるまで放浪しますか(笑)、それくらい徹底したらライブ感があるかもしれませんね。
そういえば、映画館で怪談をやりたいと思っていたら、映画館の支配人の方が僕のファンで「ぜひうちでやってください」とお声をかけていただいて、今年の春に映画館でやらせていただいたんですね。
だから、やりたい「場所」をまず決めて、そこから逆算して、その場所にまつわる怪談をまとめるのもありですね。図書館で怪談の読み聞かせをしたいから「本」系の怪談本、とか。動物園でやりたいから「動物」縛りの怪談本、とか。でもまあ、それも結局『怪談青柳屋敷』がやっているんですけどね(笑)。猫怪談やってるし。
青柳:猫ね(笑)。猫ちゃんの怪談って集まるんですよねえ。いずれにしても、西田さんの怪談は本当に好みなので、怪談本、楽しみにしています
【お知らせ】
8月19日19時より、2023年怪談最恐戦王者にして最新刊『怪談ぐるい』が刊行されたばかりの怪談師・作家の深津さくらさんと青柳碧人さんのトーク&サイン会を開催。会場は東京・新宿区の芳林堂書店高田馬場店で、開場は18時半より(詳細は以下のリンク参照)。
https://www.horindo.co.jp/t20240612/