1972年春。本土復帰を控えた沖縄では、流通していたドル札を円に交換する必要があるため、島中の現金を回収していた。その矢先、現金輸送車が襲われ100万ドル(当時のレートで3億円以上)が奪われてしまう。
本土復帰の直前に起こった事件は、高度な外交問題に発展しかねない。そのため琉球政府および琉球警察上層部は日米両政府に秘匿したまま、極秘裏に事件を解決するよう指示を下した。任務をうけた警部補は、様々な葛藤を抱えながら事件解決に挑むが……昭和史ミステリーの新鋭が描くノンストップサスペンスがついに文庫化!
「小説推理」2022年6月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『渚の螢火』の読みどころをご紹介します。
■『渚の螢火』坂上泉 /大矢博子 [評]
本土復帰間近の沖縄で100万ドル強奪事件発生! 事件の背後に沖縄の苛烈な歴史と現実が浮かび上がる──。昭和史に向き合う琉球警察小説誕生。
2022年5月で本土復帰50年を迎えた沖縄県。当時の朝ドラでもその時代の沖縄が描かれたりと、そのタイミングであらためて注目が集まっていた。坂上泉『渚の螢火』もまた、復帰間近の沖縄が舞台だ。こちらは手に汗握るサスペンスである。
見つけたと思ったら逃げられ、追い詰めたと思ったら思いがけない展開に邪魔される。二転三転する状況、最後に待つ意外な真相。円ドル交換のような本土復帰にまつわる情報の興味深さもあり、読み応えは抜群だ。
復帰50年が経過した今だからこそ、あらためて見つめ直すべき問題が本書には詰まっている。