最初から読む

 

ショートショート 子供にゃ分からぬ桃太郎

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
 ある日、おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。
 おばあさんが川でせんたくをしていると、川上から、どんぶらこどんぶらこと、大きなももがながれてきました。
「おや、これは大きなももだ。おじいさんもよろこぶだろう」
 おばあさんは、その大きなももを家にもちかえりました。
「じいさんや、大きなももがながれてきました」
「おお、それはすごい。すぐに切ってたべよう」
 おじいさんはももを切ろうとしました。すると、ももがぱかっとわれて、中からかわいい男の赤ちゃんが出てきました。
「あら、これはおどろいた」
「でも、なんてかわいらしい赤ちゃんでしょう」
「うちには子どもがいない。よし、この子をうちでそだてよう」
 二人は、その男の子に「ももたろう」という名まえをつけました。ももたろうはおどろくほどのはやさでそだち、あっというまにりっぱなせいねんになりました……

  (中略)

 ……おにたいじをしたももたろうは、お金やおたからをうばいかえし、村にかえって人びとにかえしました。そのご、ももたろうは村でくらしました。
 ところがある日、ももたろうはとつぜん、むねをおさえてたおれました。
「どうしたんだ、ももたろう」
 おどろいたおじいさんとおばあさんに、ももたろうは言いました。
「おじいさん、おばあさん。ぼくの命は、もう長くはありません」
「なんだって?」
「ぼくは、ふつうの人とはちがうのです。そだつのがとてもはやかった分、みなさんより早くしんでしまうのです。でもどうか、かなしまないでください。ぼくがしんだら、日あたりのいい、広いところにうめてください。そこでぼくはもう一ど、みなさんをえがおにできるでしょう……」
 ももたろうはそう言いのこすと、しずかに目をとじました。
「ああっ、ももたろう!」
 おじいさんとおばあさんは、泣きながら手あてをしましたが、そのかいなく、ももたろうはしんでしまいました。おじいさんとおばあさんは、ももたろうのゆいごんどおり、ももたろうのなきがらを広いはたけのすみに、泣きながらうめました。
 するとどうでしょう。ももたろうをうめたところから、一本の木がはえてきたのです。
 それは、ももの木でした。かつてのももたろうのように、おどろくほどのはやさで大きくなったももの木は、つぎの年には、とてもたくさんの実をつけました。そのおいしい実で、村人たちはおなかいっぱいになり、えがおになりました。
「ももからうまれたももたろうは、ももの木にうまれかわって、みんなをしあわせにしてくれたんだ」
 村人たちは、ももたろうにかんしゃしました。そして、ももたろうを失ってかなしみにくれていた、おじいさんとおばあさんも、村人たちに大切にされながら、村で一生をおえました。そのももの木は、今も村とともに生きつづけているのです。
                                  おしまい

【大昔のやりとり(現代語訳)】
「う~ん、なんか最後の方、ちょっとテンポが悪いよなあ」
 俺の原稿を読んだそう編集者が、あくびをしながら言った。
「うちは子供向けの草紙なんだから、最後の桃の木が生えてきてどうこうみたいな、細かい辻褄合わせはいらないんだよね。どうせガキには分かりゃしないんだから。それよりも、話が短い方が、紙き代も節約できるし好都合なのよ。――だから、そうだな、この主人公が死ぬくだり、ばっさりカットしてもらえる?」
 あまりに軽々しい提案に怒りを覚え、俺は感情を抑えながらも食い下がった。
「いや、でも……このラストじゃないと、桃太郎が桃から生まれたっていう序盤のくだりが、何のオチもないまま終わっちゃって、結局あれは何だったんだ、みたいな感じになっちゃうと思うんですけど……」
 すると編集者は、一気に機嫌を悪くした様子で言った。
「なに、刃向かうの? 別にいいんだよ、うちの草紙に掲載されなくてもいいなら」
 くそ、何だこいつ。自分じゃ何も書けないくせして、偉そうに振る舞いやがって――。猛烈に腹が立ったが、それでも草紙掲載の原稿料は欲しい。こんな奴に頭を下げるのはしやくだけど、せっかく作った話がボツになっては、俺は食いっぱぐれてしまうのだ。
「……すみません、何でもありません」
 俺は怒りを押し殺して、編集者に頭を下げた。
「分かりゃいいんだよ。じゃあこの、桃太郎だっけ? こいつが鬼退治して村に帰って
きたらすぐ、『めでたしめでたし、おしまい』で締めちゃう形で書き直してきて」
「……はい」
 不本意だが仕方ない。俺の作品『桃太郎』は、本来より大幅にクオリティが下がった形で世に出てしまうことになるだろう。でも、せっかく書き上げた作品が一もんの金にもならないよりはましだ。言われた通りに書き直すしかない――。

【現代】
「よく考えたらさあ、昔話ってマジで雑だよね」
 とあるファミリーレストラン。二十歳そこそこの無名の女芸人のコンビが、テーブルにノートを広げて話している。
「ほら、たとえば桃太郎なんてさあ、最初に桃から生まれたっていう、いかにも伏線っぽいくだりがあるのに、結局あの伏線は全然回収されないまま終わるんだよ」
「ああ、たしかに。たぶん昔の人は、伏線回収なんて誰も考えなかったんだろうね」
「いいよねえ、昔はレベルが低くて。今じゃ若手芸人のネタにも、伏線回収なんて当たり前に出てくるのに……なんて言ってないで、早く次のライブのネタ作らなきゃ」
 二人はそう言って、雑談からネタ作りに戻った。
エッセイ 芸とかつらと陽灼けと坊主
 かつらは意外と高い、ということを若くして実感するのは、お笑い芸人か、本当に若くして禿げてしまった人のどちらかだと思います。
 コントを演じる若手芸人は、誰もが一度、「かつらが高い問題」にぶち当たります。パーティーグッズ系の、皮膚部分が明らかにゴムやプラスチックでできているような物は数百円で買えるのですが、テレビのコントで使われるようなしっかりした物や、本当に髪の薄さを隠したい人が日常生活で使えるレベルの「本気かつら」は、安くても数千円、高ければ何万円もするのです。
 私は若手芸人時代に一度、「野球部の女子マネージャーが気合いを入れて坊主頭にしてきて、部員たちにドン引きされる」という内容のコントを考えました。それを演じるために坊主頭のかつらを探したのですが、なかなか見つかりません。これがスキンヘッドのかつら、つまり皮膚と同じような色のペラペラのプラスチックをかぶるだけの物だったら、百円ショップのパーティーグッズ売り場にもあるのですが、私が考えたコント「野球部女子マネージャー」は、ちゃんと短い毛が生えた、リアルな坊主頭のかつらをかぶって演じたかったのです。
 私はネットでも実店舗でも必死に探しましたが、なかなか見つかりません。考えてみれば、本当に髪が薄い男性は、わざわざ坊主頭のかつらをかぶろうとは思わないでしょうから、坊主頭のかつらというのは世の中に需要がほぼないのです。「坊主頭の人物を演じたい人」という、当時の私のような希少な人間の需要しかないのです。需要がきわめて少ないけど、欲しい人は喉から手が出るほど欲しいというタイプの物は、えてして値段が吊り上がるものです。アダルトDVDも「こんなの誰が見るんだよ!?」という、ハードSMや×××、それに×××を×××しながら×××する、といったマニアックな性癖を扱った作品ほど、値段が高いと聞いております。(※編集部注 健全なテレビ雑誌に甚だ不向きな言葉があったので伏せ字にしました)
 その後、私が苦労してようやく見つけた坊主頭のかつらは、一万円以上の値段でした。貧乏若手芸人にとっての一万円以上というのは、日本円に換算すると百万円以上です。さすがに手が出ません。
 そこで私は奇策に出ました。同じ事務所の坊主頭の後輩芸人、正岡チキンに、彼がいつも使っているバリカンを借りて、私は自らを本当に坊主頭にしたのです。その本物坊主頭で、コント「野球部女子マネージャー」を披露した後、元々の私の髪型に最も近い、二千円台のセミロングの女性用かつらをドン・キホーテで買いました。そして、それまでに作った普通の女性役のコントは、その女性用かつらをかぶって演じるようになりました。
 こうして私は、普段は坊主頭、舞台上とバイト先ではかつらをかぶるという生活を送るようになりました。それからしばらくして、私は実感しました。坊主頭生活はものすごく快適なのです。シャンプーなんてほぼいらないし、リンスやドライヤーは一切いらない。お風呂上がりに頭を拭くのも数秒で済みます。私は、この先ずっと坊主頭でいいじゃないかと思って、ちゃんと自分用のバリカンを買い、定期的に剃髪ていはつする生活を送りました。
 しかし、ほどなくして、坊主頭の弊害も思い知りました。
 五月の夏日になったある日、コントに使う小道具を探して、色々な店を昼間ずっと歩き回ったのですが、その翌朝、やけに頭が痛かったのです。「頭が痛い」といっても、中身ではなく表面の痛みです。何事かと思って、鏡を見て驚きました。
 私の頭は、陽灼けによってひび割れ、亀の甲羅のような状態になっていたのです。
 初めて坊主頭にしたのは冬場だったこともあり、私の頭皮は五月になって初めて、髪の毛に遮られない強い直射日光を浴びたのです。その結果、紫外線による大ダメージを負った私の頭皮はひび割れを起こし、そのひびの間から黄色い汁が出てきました。蚊に刺されて肌を掻きすぎた時に、血の手前で出てくる、あの黄色い汁です。
 その状態でお笑いライブに出演し、楽屋でかつらを取った私の頭を見て、同期の女芸人の犬飼いぬかいねこが「ミワ子ちゃん、頭の傷、接着剤で止めてるの?」と心配そうに聞いてきました。たしかに、私の頭皮のひびの間から出て固まった黄色い汁は、こういう接着剤あるよね、という、アラビックヤマト風の色と質感でしたし、当時貧乏芸人だった私は、壊れかけの靴やコント道具を接着剤で補修して使っていた時期もありました。でもだからって、私が自分の頭の傷を、そんな接着剤で補修するような、ターミネーター顔負けの女だと同期芸人に思われていたことにショックを受けました。「そんなわけないじゃん!」という返しのツッコミも、どこか悲しげだったと思います。
 坊主頭の弊害は他にもありました。私は乾燥肌のせいで頭皮のフケが多く、髪が長かった時は見えずに済んだフケが、割とはっきり見えてしまうようになったり、夏は頭皮を蚊に刺されるようにもなりました。髪の毛というのは目隠しにも虫よけにもなっていたのだと、坊主頭にしてみて初めて気付きました。
 最終的に、女性用のかつらが徐々に傷んできたのと、そもそも坊主頭にするきっかけになったコント「野球部女子マネージャー」が、そこまでウケるネタでもなく、あまりやらなくなったこともあり、私は再び髪を伸ばし始めました。こうして私の坊主頭ライフは、一年も経たずに終了しました。
 そんな坊主頭経験者の私から、世の女性たちに忠告があります。
 女性が彼氏の部屋で、自分のものではない長い髪の毛を発見して「何、この髪の毛?浮気してるでしょ!」と彼氏を問い詰める――的なシーンが、よくドラマやコントなどでありますが、実際はあれだけで浮気を疑ってはいけません。
 というのも、私が坊主頭で過ごした一年弱の間に、アパートの自室で長い髪の毛を見つけたことが何度かあったのです。長さ的に、坊主にする前の私の髪でもなかったし、私はその期間、女友達を家に招いたこともありませんでした。(友達の少なさを気の毒に思うのはいったんやめてください。)おそらく、ライブで共演した女性芸人や、バイト先の同僚、電車で近くに乗っていた女性などの髪の毛が私の服に付いて、それを部屋に持ち込んだのでしょう。
 このような現象が起こる以上、部屋に落ちていた長髪一本だけで、彼氏が浮気していると決めつけてはいけません。本気で彼氏の浮気の有無を判断するなら、お風呂の排水口をチェックするのが確実でしょう。排水口に自分でも彼氏でもない長い髪の毛がたくさんあったら、それは浮気の可能性大だと思います。
 逆に、これから浮気したいという男性は、髪の長さが自分以下の、できれば坊主頭かスキンヘッドの女性を浮気相手にするのがベストです。昔の私のような坊主頭の女芸人、もしくは尼僧と浮気をしましょう。

ショートショート 反社会天才学者の性癖

 ついに完成した。天才である俺にとっても過去最高の発明品、透明人間になれる薬だ。これを飲めば、人間の体を完全に透明にできるはずだ。
 ――と、自らの体で実験するまでは思っていたのだが。
 俺は今、一人暮らしの自宅の鏡の前に、全裸で立っている。鏡に映る俺の姿は、透明とは程遠い。それどころか、俺自身でさえ目を背けたくなるような有様になっている。
 まさか、透明にならない部分が、こんなに出てきてしまうとは思わなかった。
 まずは体毛だ。髪も脇毛も陰毛も、はっきり鏡に映っている。毛というのは死細胞だから、薬を飲んでも作用が行き届かないようだ。実際に飲んでみて初めて分かった。
 そして、その理屈で言えば当然、同様に透明にならない物がある。
 最も正視に耐えない物――消化器の内容物だ。
 ぐちゃぐちゃに咀嚼されたカップ麺。その下には、ヘアピンカーブを繰り返しながら徐々に便になっていくそれが、鏡に映っている。ああ、見ているうちに気持ち悪くなってきた。ついでに、その手前には膀胱の形に溜まった尿も見える。やはり飲食物も俺の体細胞ではないわけで、薬の作用で透明にはならなかったようだ。
 要するに、鏡の中の俺は今、宙に浮く毛とゲロとウンコとオシッコなのだ。透明人間になれる薬を発明したはずが、これでは透明人間とは言いがたい。もしこの姿で外出しようものなら、普通の人間よりよっぽど目立ってしまうだろう。
 それ以外の俺の体細胞は、観察を続けたところ、薬を飲んでから一時間半ほどで徐々に肌の色を取り戻し、二時間ほどで完全に元に戻った。ちなみに薬を飲んでから体が透明になるまでの所要時間は三十分ほどだった。今は八月。血流や代謝が最も盛んな時期だ。季節によって、これらの時間にも変化があるのかもしれない。
 多少の見込み違いはあったが、俺がものすごい発明をしたことは間違いない。この成果を発表すれば、ノーベル賞受賞は確実だろう。
 でも、すぐに発表するつもりはない。
 当然だ。発表してしまえば、俺の欲望を叶えることは二度とできなくなってしまうのだ。去年までの勤務先である、あの大学で――。
 まったく今でも許せない。この俺を、たかが女子更衣室の盗撮ぐらいでクビにしやがったのだ。俺ほどの天才が、准教授という不当に低い肩書きと安い給料に甘んじて、愚かな学生相手に講義をして、無能な教授の研究の手伝いをしていたのだから、若い女の下着姿を楽しむ程度の見返りは与えられて当然だったはずだ。なのに奴らときたら、更衣室で見つけた隠しカメラの映像の最初に、カメラを仕掛けた時の俺の顔が映っていたと、鬼の首でも取ったように言い募り、俺を囲んで罵倒してきやがったのだ。
 すでに大学の女子寮の場所は調べてある。俺の犯行を暴いた後、俺を罵ってきたあの女子学生たちのことは、片時も忘れたことはない。あの憎たらしい女たちの裸を、寮の風呂でたっぷり堪能してやるのだ。恨みがある分、いっそう興奮できるはずだ。
 俺は計画を立てた。毛と便が透明にならないのであれば、毛を全て剃り、消化器を空にすればいいだけの話だ。入浴する学生が多いのは、たぶん夕方から夜にかけてだろう。その少し前に女子寮近くの駐車場に車を停め、車内で薬を飲み、体が透明になったのを確認してから女子寮に入ろう。そうすれば、あとは……ぐへへへへ。
 善は急げ、いや悪は急げだ。俺は体毛を全て剃り落とし、絶飲食を敢行し、下剤まで飲んだ。もちろんつらかったが、その先のパラダイスを思えば余裕で耐えられた。
 そして翌日の午後、俺は車で女子寮に向かった。少し離れたコイン駐車場に車を停め、窓がスモークガラスの後部座席で薬を飲み、体が透明になったところで服を脱ぐ。持参した鏡でつぶさに確認したが、俺の姿は正真正銘の透明になっていた。よし、ついに夢が叶うのだ! 俺は意気揚々と車を出て、女子寮へと歩いた。
 だが、誤算だったのは、八月の屋外は夕方でも、クーラーを効かせた家や車の中とは比べものにならないほど暑かったことだ。
 外に一歩踏み出した時点で、足の裏が火傷しそうなほど熱いことには気付いたが、日陰を歩けば平気だろうと思い、そのまま歩き出してしまった。しかし日陰になった場所も、数十分前まで日向だったのだと痛感できてしまうほど熱かった。体が透明になっているせいで確認できなかったが、おそらく足の裏はとっくに火傷していた。
 目標の女子寮まで数百メートル。その距離がこれほどつらいとは思ってもみなかった。足の裏の痛みも、絶飲食によるめまいも、どんどん悪化していった。間違いなく熱中症になっていた。ほぼ二日絶飲食しているのだから、体が暑さに負けるのも当然だった。女子大生の裸ばかり想像して、そんな危険性すら想像できなかった自分を呪った。
 だめだ、引き返すしかない。そう判断するのが遅すぎた。もはや引き返したところで、駐車場にもたどり着けそうにない。俺は駐車場と女子寮のちょうど中間辺りの地点で、激しいめまいを起こし、とうとう倒れてしまった。
「た、助けてくれ……」
 俺は通りすがりの若い男に声をかけた。男ははっとした様子で周りを見回したが、首をかしげて去って行った。それもそうだ。俺は透明人間なのだ。きっと空耳だとでも思われてしまったのだろう。
「助けて……誰か、助けて……」
 もはや立ち上がることも叫ぶこともできない。俺はただ歩道の隅に倒れて、か細い声で助けを求めることしかできなかった。何人かが俺の声を聞いて立ち止まったが、みな周囲を見回し、首を傾げて去ってしまう。やがて視界も霞んできた。ああ、なんてこった。ノーベル賞間違いなしの俺が、こんなところで死んでいいはずがない……。

「ねえ聞いた? うちの大学クビになった、あの変態の准教授」
「ああ、女子寮の近くで全裸で死んでたってやつでしょ? マジでドン引きだよね」
「しかもスキンヘッドで、全身脱毛してたらしいよ。マジで超キモいんだけど」
「あんま大きい声じゃ言えないけど、死んでよかったね。あんなクズ人間」
「でもなんか、研究者としては優秀だったって噂も聞いたよ。自分の家に実験室を作って、すごい熱心に研究してたとか……」
「そんなの本人が吹いて回ってただけでしょ。盗撮でクビになるような奴だよ」
「そっか、やっぱりただの噂だよね」
 学生たちに糞味噌に言われ、誰にもその死を悼まれることのなかった元准教授。彼の家の実験室に遺された謎の薬は、警察官によって発見されたが、それを飲んでみる勇気のある者などいるはずもなく、残らず廃棄処分された。ノーベル賞確実といえた新薬は、こうしてあっさり闇に葬られたのだった。

 

この続きは、書籍にてお楽しみください