千家彩音は、唐突な辞令によってさつき町という地方都市で地域資料の編纂をさせられることになる。案内役の金栗と共に住民に話を聞く彩音だが、彼らの口から語られるのは、奇妙で異常な話ばかり。まことしやかに囁かれる「声無き神」の存在、この世ならざる雰囲気を纏った、佐伯直という少年。町の異様はやがて外の人間であるはずの彩音をも飲み込み、終焉へと向かっていくが……。

 

「WEB小説推理」2026年11月号に掲載された書評家・朝宮運河さんのレビューで『終わった町の話をしよう』の読みどころをご紹介します。

 

終わった町の話をしよう

 

終わった町の話をしよう

 

■『終わった町の話をしよう』芦花公園 /朝宮運河 [評]

 

人知を越えたものに触れる恐怖と絶望。現代ホラーの旗手・芦花公園の到達点

 

 ホラーにはよく奇妙な町が登場する。「佐々木事務所」シリーズなどで人気を博す新世代ホラーの旗手・芦花公園の新作もそうだ。舞台となる地方都市・さつき町では、〈声無き神〉と呼ばれる神が信じられ、常識では説明のつかない現象が相次いで起こっている。

 

 文具メーカーに勤める主人公の彩音は、突如辞令を受け、東京本社からさつき町の地域振興課に異動させられた。与えられた仕事は、町の人の声を聞き取り記録すること。初回のインタビューでは小学校で起こった異様な事件が、関係者の口から明かされる。ある教師が地元の言い伝えをもとに設けた〈神様の席〉。神様の目を意識することで、生徒たちは勉強や片付けをよくするようになったが、不思議な転校生・直の出現によってクラス内の雰囲気は一変した。神様の名を借りたごっこ遊びは、悲惨な結末を迎える。

 

 オカルトめいた内容に戸惑いながら、彩音は住民への聞き取りを続ける。憎しみを隠しながら善人として暮らす郵便局員、町の伝承を歪めて拡散させた作家、病気で愛する妻を失った神主。連作形式で紹介されるエピソードは、いずれも不条理で救いがない。さつき町で信じられている神とはいわば超自然的なシステムのようなもので、住人たちの些細な言動が、取り返しのつかない事態の引き金となるらしいのだ。歯車が回転するように、避けられない破滅に向かって進んでいく人々。やがて第三者であったはずの彩音も、大きな怪異の渦に吸い寄せられていく。なんと怖ろしく、絶望的な物語だろう。

 

 果たして〈声無き神〉とは一体何者なのか。作中にその答えはない。だからこそ読者は引き込まれ、考察を加えたくなるが、それこそが本書に横たわるテーマでもある。語りえぬものを人間の尺度で理解しようとすることは許されるのか。それは傲慢であり、大罪ではないのか。デビュー以来、超越的なものの怖さを扱ってきた著者のひとつの到達点ともいえる力作。異様な世界観に吞まれ、悲劇の連鎖に絶望してほしい。