転校前日、忘れられない「ゲーム」が始まる——。日本推理作家協会賞短編部門受賞作「ぼくらが夕闇を埋めた場所」を含む4つの物語は、周到に張り巡らされた伏線と、胸を締めつけられるラストが魅力の一冊。最後の一行を読み終えた瞬間、きっとあなたも最初からページをめくり直したくなるはずだ。

 

「WEB小説推理」2026年11月号に掲載された書評家・吉田伸子さんのレビューで『ぼくらが夕闇を埋めた場所』の読みどころをご紹介します。

 

 

ぼくらが夕闇を埋めた場所

 

ぼくらが夕闇を埋めた場所

 

 

■『ぼくらが夕闇を埋めた場所』松樹凛 /吉田伸子 [評]

 

読み終えた瞬間、もう一度読み返したくなる! 切なさを鍵に紡がれていく連作短編集

 

 本書は、第79回日本推理作家協会賞「短編部門」受賞作である表題作「ぼくらが夕闇を埋めた場所」に連なる3編を含んだ連作短編集である。

 

──穴を掘ってほしいの、と星野さんはぼくに言った。

 

「ぼくらが夕闇を埋めた場所」は、この一文で始まる。星野さんとは、「ぼく」の中学の同級生だ。2年生最後の修了式の日、「ぼく」にとっては、この中学での最後の日でもある。父親の仕事の都合で引っ越す「ぼく」が、明日から始まる春休みをこの町で過ごすことはない。

 

 そんな「ぼく」を、星野さんが呼び出したのは「水なし沼」と呼ばれている釣り堀の跡地だ。星野さんとは一緒に図書委員をしたことで話すようになっていたこともあり、他の人よりは距離が近しいのは確かだが、それでも、この町での最後の日に突然呼び出され、穴を掘ることをお願いされるほどではなかったような。しかも、向かい合った星野さんと「ぼく」の間には、「人一人分の大きさをした、不恰好な青い包み」。

 

「これは何?」と訝る「ぼく」に星野さんは言う。「誰かの死体だって言ったら、どうする?」と。「冗談だよね?」という「ぼく」の問いかけには答えないまま、星野さんはある提案を持ちかける。東くん、ゲームをしない? と。そのシャベルで、それが埋まる大きさの穴を掘り終わるまでの間に、わたしが東くんをここに呼び出した理由を当てられたら、東くんの勝ち。時間的に、三回まで。

 

 ここから「ぼく」=東の思考が始まる。学校生活での星野さんとの接点を振り返りながら、展開されるその推理が読みどころ。その後に連なる3編も、その連ならせ方が読みどころであり、巧い。けれど、何よりも本書を魅力的なものにしているのは、各話に通底させている「切なさ」であり、周到に張り巡らされている伏線の数々だ。読み終えた瞬間に、最初から読み直したくなること、受け合います!