田舎の格安物件を探す青年、古くなった我が家を持て余す老夫婦、ローン審査でつまずくフリーランスの中年女性……。それでも、わたしたちは理想の家が欲しい。建築士・蝶野あさりが奮闘する住宅小説!
「WEB小説推理」2026年11月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『理想の家はどこにある』の読みどころをご紹介します。


■『理想の家はどこにある』東山泰子 /大矢博子 [評]
理想の家って何? 住みたい家を求めて彷徨う子羊たちを、風変わりな建築士が救う!
人が生活する上で不可欠な衣食住。その中でも、日常的に購入・利用する「衣食」と違って、最も迷い、最も大きな決断を迫られるのが「住」だ。なんせ一度決めたらおいそれとは変えられないのが家だから。特に昨今の住宅事情では、無理のない予算で後悔のない家を手にいれるなど、ほぼ無理ゲーである。
東山泰子『理想の家はどこにある』は、まさに理想の家を求めて悩む4人の物語だ。
夫と息子の3人家族で賃貸マンションに住む真奈美は、将来を見据えて持ち家を探している。しかし価格高騰でまったく手が出ず。夫ともケンカが増え……。
会社員を辞めアドレスホッパーとして旅チャンネルを配信している歩夢は、猫を飼いたい一心で朽ちた0円物件の内見に行く。
智子は子どもが巣立ったあと二階建ての我が家を持て余していた。二階は不用品の物置と化しており、そもそも膝を痛めて二階には上がれない。
シェアハウスに暮らすライターの友紀は、人間関係に疲れて一人で暮らせる家を探すことに。しかしアラフォーで独身、収入が不安定なフリーランスではろくなローンも組めず……。
どれかひとつは自分に当てはまりそうな、つまりは現代の住宅事情を濃縮した4つのエピソードに、まず引き込まれた。わかる。わかりすぎる……!
そこに登場するのが建築士の蝶野あさりである。あさりは彼女たちに、ある解決策を示す。それは「発想の転換」だ。広い家がほしい、物をたくさん収納したい、安く買いたい……だが、それは何のため? 誰のため? 家を持つことはゴールではなく、そこでどんな暮らしをするのか、何のためにどんな住環境が必要なのかを、彼女たちが抱える問題とともに少しずつ解きほぐしていく。まさに目から鱗だ。
探すのは理想の家ではなく、理想の生き方なのである。読めば今の自分の暮らしを見つめ直し、大切にしようと思うに違いない一冊だ。