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 人気バンド「WEAVER」の元ドラマーでありながら、多数の作品を手掛ける小説家でもある河邉徹さん。『流星コーリング』では、第10回広島本大賞を受賞したり、著作が中学・高校受験の国語入試問題で12校以上出題されるなど、若い世代向けとして関心が高まっている。最新刊『ムーンレター』執筆にあたってのこだわりや背景について、話を伺った。

 

 

心で強く願ったことが、時には定められたルールや法則を超えて何かを起こす

 

──『ムーンレター』では「誰かのために生きる」「誰かを思うゆえの選択」が描かれていますが、ご自身の体験や思い出で、そういった体験はありますか? そして今作へその体験がにじんでいる部分などありますか?

 

河邉徹(以下=河邉):子どもが生まれてから、誰かのために時間を使ったり、自分の予定や考え方を変えたりすることが増えました。もともと僕は、自分のことを優先して生きたい人間なので、「誰かのために生きる」という言葉に、無条件で前向きな印象を持っていたわけではありません。ただ実際には、守りたい人や喜ばせたい人がいることで、自分自身も前へ進めることがあります。一方で、相手を思う気持ちが強いほど、自分の願いを押しつけてしまうこともありますよね。誰かを大切に思うことと、その人の選択を尊重することは、必ずしも同じではない。その難しさは、物語にもにじんでいると思います。

 

──大樹と彗花という、それぞれ異なる悩みを抱えている二人の距離感が変化していく過程で、特に思い入れのあるシーンやセリフはどこですか?

 

河邉:個人的には凧彗星を海辺で揚げるところが好きです。大樹は、それまで自分の悩みを抱えるだけで精いっぱいで、誰かのために生きるような余裕を持てずにいました。そんな彼が、彗花に彗星を見せるために必死になり、友人たちと力を合わせて一つのものを作り上げていく。海辺で過ごす時間や、少し不器用な彼らの青春の空気感も含めて、思い入れのある場面です。

 

──二人が訪れる「月渡神社」ですが、モデルになった神社はありますか? また家文書なども出てきますが、ご自身の体験で家文書がある家などありましたか? ほかにも舞台となる場所やアイテムの空気感、情景作りで意識された演出はありますか?

 

河邉:物語で描写されているような神社はないですが、舞台は石川県をイメージして書いていました。出てくるものはもちろんフィクションですが、現実にあるかもしれないと想像が膨らむものを意識して選びました。

 

──「大切な記憶を失うこと」と「願いを叶えること」の対比を通して、読者に一番投げかけたかったメッセージは何でしょうか?

 

河邉:私は心で強く願ったことが、時には定められたルールや法則を超えて何かを起こすと信じています。この物語にも、願いや思いが、決められた仕組みだけでは説明できない出来事を起こす場面があります。目には見えなくても、人の気持ちには現実を少し変える力がある。その可能性を感じてもらえたらと思っています。

 

──章タイトルが「宵月」「半月」「満月」「新月」「雨月」「十六夜」と月の満ち欠けに沿って展開しますが、物語の構成上のこだわりを教えてください。

 

河邉:章タイトルは、それぞれの章における登場人物たちの心の状態や、物語の変化を表すものとして選びました。

 

月は満ちていくときだけではなく、欠けていくときにも美しさがあります。また、その姿が見えなくなっても消えてしまったわけではありません。失ったように見えても、まだ残っているものがあるということを表現したかったんです。

 

──河邉さんの作品は中学・高校受験の国語入試問題等でも数多く取り上げられていますが、若い読者に特に受け取ってほしいメッセージはありますか?

 

河邉:若い頃は、今いる学校や身近な人間関係が世界のすべてのように感じられることがあります。一度の失敗で、自分の将来まで決まってしまったように思うこともあるかもしれません。

 

だけど今想像できない場所や、まだ出会っていない人が未来にはたくさんいることを知っていてほしいです。すぐに立ち直れなくてもいいし、将来の答えを今決めなくてもいい。『ムーンレター』の登場人物たちも、正しい答えがわからないままでも進んでいきます。物語を通して、自分の人生にも、まだ見えていない続きがあると感じてもらえたら嬉しいです。

 

──「過去の後悔」や「切ない記憶」を抱える大人世代の読者に向けては、どのような届き方を期待されていますか?

 

河邉:大人になるほど、選び直せないものが増えていくのかもしれません。だけど悲しい過去を抱えて、これからどう生きるかを考えることができます。

 

また時間が経つことで、当時は理解できなかった相手の気持ちに気づいたり、苦しいだけだった記憶の中に別の意味を見つけたりすることがあります。

 

それをテーマに書いた小説ではないですが、物語を通して、過去や記憶についても思いを巡らせていただける作品になっていれば嬉しいです。