人気バンド「WEAVER」の元ドラマーでありながら、第10回広島本大賞を受賞した『流星コーリング』など、多数の作品を手掛ける小説家でもある河邉徹さん。2026年は『言葉のいらないラブソング』『ひだまりのストリート・ピアノ』に続き、3作目『ムーンレター』を刊行する。そんな河邉徹さんのアーティスト・クリエイターとしての素顔に迫る。
小説にも、読後の余韻を音楽で味わう楽しみ方があっていい
──音楽家、小説家、写真家として、幅広く活動されている河邉さん。原稿執筆中、どんな生活をしているか教えてください。
河邉徹(以下=河邉):朝、子どもを保育園に送っていって、それからお迎えまでの時間に小説を書いています。あとは夜に家族が寝た後、少し進められることもあります。私の体は深夜まで仕事をして昼まで寝る生活を望んでいるのですが、子どもがいると贅沢な要望です(涙)。
──音楽家としての側面と小説家の側面、類似点と相違点、作り方の違いなどがありましたら教えてください。
河邉:どちらも時間の流れの中にある表現ですよね。音楽は言葉や音が重なり、サビでピークを迎えます。小説も出会いや伏線の積み重ねがあり、物語の終盤にピークがきます。そういう意味では似ている部分もあるなと思います。
また、小説の執筆自体は一人で進められますが、音楽は私の場合は一人で進められるものではないで、そのあたりが制作の感覚は全く違います。
──写真家としても活動していらっしゃいますが、どんなこだわりを持っているのか教えてください。
河邉:もともとは風景写真ばかりを撮り、写真集を作ったりしていましたが、今は人を撮らせていただくことが多くなりました。家族写真や結婚式、前撮りなどです。撮影をして、そのあと一枚ずつ編集しているときは、依頼された写真を仕上げているというより、一つの作品を作っている感覚があります。その人や家族のためだけの作品を作れることに、大きな幸せを感じています。
小説や音楽と同じように、写真にも、その瞬間だけではなく、あとから見返したときに感情がよみがえる力があると思っています。
──今後、音楽家、小説家としてどのような活動をしていきたいか、目標を教えてください。
河邉:小説を書ける限り書いていきたいと同時に、音楽も状況が許すのなら作っていきたいです。自分の作るものが、誰かの力になれるとすごく嬉しいです。
──今作『ムーンレター』では、作品をイメージした楽曲も制作されていますが、どんな楽曲になっているのか教えてください。
河邉:『ムーンレター』を読み終えたあとに流れる、物語のエンドロールのような曲を目指して制作しました。映画やドラマには主題歌やエンディング曲がありますが、小説にも、その余韻を音楽で味わう楽しみ方があっていいのではないかと思っています。読後に聴いていただくことで、もう一度物語を楽しんもらえたら嬉しいです。
──今作『ムーンレター』は月の伝説にまつわるお話ですが、どのようなきっかけやアイデアから生まれたのでしょうか?
河邉:誰も知らない神社に、未来や過去へ手紙を届けられる不思議なポストがあったら、面白い物語になるのではないか。最初はそんな発想から考えていきました。ただ都合よく願いが叶うだけでは、登場人物たちの選択に重みが生まれません。そこで、手紙を送る代わりに大切な記憶を失う、という代償を設定しました。月は夜空から消えたように見える日もありますが、本当になくなったわけではありません。その性質も「見えなくなっても、失われたとは限らない」という物語のテーマにつながっていきました。
──過去作『流星コーリング』などでも天体が象徴的に描かれていますが、今作で「月」や「彗星」をモチーフに選ばれた理由や思いをお聞かせください。
河邉:もともと星空を見ることが好きで、星空に関する検定を受けて合格したこともあります。天体そのものへの興味もありますが、小説の中で天体を描くときには、星の知識だけではなく、宇宙という大きなものに対する小さな自分たちという対比に惹かれます。
また、彗星というのは次に現れるまで何十年もかかることがあり、そこに物語性を感じました。
──イラストレーターの萩結さんが手掛けられた装画を最初にご覧になったときの印象や、物語の世界観との親和性について感想をお聞かせください。
河邉:小説の世界観を素敵に表現していただいたと思いました。切なさや喪失が描かれる一方で、未来に向かう光や、青春の瑞々しさもあります。この物語の入り口として、とても親和性の高い一枚にしていただいたと思っています。
──執筆を終えて、河邉さんご自身にとって『ムーンレター』はどのような存在の作品になりましたか?
河邉:何より、楽しく書けたという印象が強く残っている小説です。登場人物たちが物語を動かしていってくれたおかげです。
また、ここしばらく書いていなかったテイストの物語でもありました。これからの自分の作品にも繋がっていく、大切な一作になったと思っています。
──本作はどんな読者に読んでもらいたいですか?
河邉:十代の方から大人の方まで楽しめる物語を目指して書いたので、年齢を問わず、様々な方に読んでいただけたら嬉しいです。登場人物たちは、それぞれ後悔や孤独、将来への不安を抱えていますが、決して特別に強い人たちではありません。迷ったり、間違えたりしながらも、誰かとの出会いによって少しずつ前へ進んでいきます。今、悩みや弱さを抱えている方にとって、この物語がほんの少しでも勇気になることを願っています。
〈後編〉に続きます。