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これまでの出来事が頭の中で再生されては消えていった。
これが人生の最期に見るという記憶の走馬灯というものか? この偽物の世界でも死ぬときは頭をよぎるんだな……。首筋にナイフを突きつけられたままそんな呑気なことを考えていると、額がつきそうなほど顔を近づけているエルフの少女が口を開いた。
「私の名は、レミナ・ルテミナ・ネモス。レミナは『白い月』という意味だ」
「なんで……名前を……?」震える唇を開き、かすれ声を絞り出す。
「殺す前には名乗りをあげる。それが獲物の命を奪う際の礼儀だ」
最悪の答えに頬を引き釣らせていると、少女は「お前の名は?」と低い声で尋ねてくる。
「獲物の名前も、いつも聞いているのか?」
「言語を解するものならな。その名をナイフに刻むことは、戦士としての誉れだ」
何だよ、その野蛮な習慣は? エルフっていうのはもっと高貴な種族じゃないのか?
胸の中で悪態をついていると、レミナは再び「お前の名は?」と尋ねてくる。
「あ、東……」
都規だと答えようとした瞬間、右の頬に衝撃が走り、視界が白く濁る。口の中に鉄の味が広がって初めて、レミナにナイフを持っていない方の手で思いっきり殴りつけられたことに気づく。
「な、何を……?」
俺が口の中に溜まった血液を地面に吐き捨てると、レミナは白い頬を紅潮させた。
「貴様ごときが聖勇アズマの名を語るんじゃない、この痴れ者が!!」
血走った双眸で睨みつけられ、身が竦んでしまう。どうやらこの世界では『アズマ』というのは特別な名のようだ。AZUMAコーポレーションが作った仮想空間だから、そのように設定されているんだろうか? だとしたらあまりにも悪趣味だ。
「もう一度だけ問う。お前の本当の名は何だ?」
レミナは押し殺した声で再度尋ねてくる。ここで再び本名を名乗れば、俺は間違いなく首を掻き切られるだろう。そう確信するほど目の前の少女からは激しい怒りが逬っていた。
さっき殴られたときの衝撃からして、この仮想空間では怪我をするとある程度は痛みを感じるようにプログラムされているようだ。さすがに耐えられないほどの苦痛を浴びることはないだろうが、それでも首を切り裂かれる経験などしたくはなかった。
どう答えればいい? 偽名を使うべきだろうか? だとしてもなんて偽名を?
焦って熱を孕んでいる頭に、目に涙を溜めながら微笑む義妹の顔がよぎった。
「トキ……。トキだ」
そう、この偽物の世界では俺は『トキ』だ。それこそが俺の名前だ。
彼は自分自身に言い聞かせる。
険しい表情を浮かべていた少女がふっと相好を崩した。
「トキか。おかしな名前だな。まあいい。承知した」
「よ、よかったよ」
「では、貴様の首を掻き切ったあと、私の愛刀にその名を刻むとしよう」
目を細めたレミナは、左手でトキの服の肩口を掴み、手首を返す。てこの原理でレミナの前腕がトキのあごを撥ね上げ、喉元が露わになった。
殺される……! 覚悟を決めかけたとき、黒板を引っ掻くような甲高い不協和音が辺りの空気を震わせた。トキの体に馬取りになっていたレミナが、勢いよく顔を上げて天を仰ぐ。
「いまの声は……」
半開きになった桜色の唇の隙間から、かすれ声が漏れた。
「お前、まさかアペモンスを狩ったのか?」レミナはトキを睥睨する。
「なんのこと……?」
「ふざけるのはやめろ! アペモンスだ! アペモンスを殺したのかと聞いているんだ!」
「あ、あの、そのアペモンスっていうのが何かよくわからないけれど、四つの目があって、でかい牙が生えている動物なら、襲ってきたから殺したけれど……」
炎に炙られた飴細工のように、レミナの顔がぐにゃりと歪む。
あの獣が“アペモンス”か。けれど、ここまで切羽詰まった感じで聞いてくるということは……
「もしかして、あのアペモンスって生き物、君のペットだったり?」
おずおずと尋ねると、レミナの眉間に深いシワが刻まれた。
「あんな醜い猛獣を愛玩動物にするわけがないだろう!」
「じゃあ、どうしてあの動物を殺すことが問題なんだ?」
「私もさっきアペモンスを殺したからだ」
「君も殺した? なんで?」
「肉と毛皮を得るために決まっているだろう」
エルフが動物を狩って、その肉を食べるのか。これまでに読んだ異世界ものの小説では、エルフは基本的に果物などを好んで食べている描写が多かった。あんな怪物を狩って食用にするとは、やはりこの世界のエルフは思ったよりも蛮性が高いようだ。
「えっと、ということはアペモンスは君たちの獲物だから、俺が殺してはいけなかったってことかな? だとしたら、俺は肉も毛皮もいらないから、君たちが持って帰ってもいいよ」
「違う、そういうことじゃない!」レミナはいらだたしげに首を振った。「一晩に二体もアペモンスを狩ったら、森の理に反するんだ!」
意味が分からず「森の理?」と聞き返した瞬間、再びあの不協和音が響き渡り、湖の向こう側、数キロは離れているだろう深い森から黒い影が飛び出した。
天高く駆け上がっていくその影の姿を見て、トキは唖然とする。一見するとそれは巨大な鳥のようだった。しかし、トキの知っている鳥とは明らかに異なった特徴があった。
その生物の胴体からは十本近い、蛇のような頭が伸びていた。
「ヤマタノプテロ……」
強い畏怖のこもった声でレミナはつぶやく。
二つの月が浮かぶ天を駆け昇った後、大きく両翼を開いたその姿をトキは呆然と眺める。
複数の長い首と頭部を持つその姿は、伝説の怪物であるヤマタノオロチを彷彿させた。たしか『プテロ』というのはラテン語で翼竜をさす単語だったはずだ。
つまりあのヤマタノプテロという怪物は、空を駆ける能力を持ったヤマタノオロチの亜種……。
ここが偽物の世界だと理解していても、その姿はあまりにも禍々しく、それでいて神々しかった。腹の奥底から本能的な恐怖が湧き上がってくる。
レミナが「くそっ!」と悪態をつきながら立ち上がり、遥か遠くで翼を大きく羽ばたかせながらホバリングしているヤマタノプテロを仰ぎ見る。
体から離れたせいでトキの目に再び、彫刻のように美しい裸体が映し出された。
「……貴様、また見たな。……後で絶対に償わせてやる」
首だけ振り向いたレミナから氷のように冷たい視線を浴び、トキは慌てて目をそらす。
レミナはそばに置かれていた服を素早く身につけると、鞘に戻したナイフと、十数本の矢が入った筒を腰帯に引っ掛け、脇に置かれていた大きめのナタのような刃物を無造作にトキに放った。
「これは……?」トキは飛んできたナタを摑む。
「アペモンスを殺せたということは、それなりに腕に覚えがあるんだろう? 協力しろ」
レミナは弓を拾い、矢をつがえた。
「協力って……?」
「いまからヤマタノプテロが襲ってくる。おそらく二人とも殺されるだろうが、運が良ければ追い払えるかもしれない」
「襲ってくるって、あの化け物が? どうして?」
「貴様と私が、一晩で二体ものアペモンスを殺したからに決まっているだろう!」
上空でホバリングを続けるヤマタノプテロを見つめながら、レミナが説明をはじめる。
「この森の調和は、あのヤマタノプテロによって監視されている。我々エルフ族の生活もな」
「つまり、あの怪物が森の支配者ってことか?」
「支配者というより管理者だ。森の理を犯した者を殺し、この森に調和をもたらすんだ」
「一晩に複数のアペモンスを殺すのは、森の理を犯す行為だってことか?」
トキのつぶやきにレミナは小さく頷いた。
「アペモンスはこの平野部に広がる広大な森では、最大クラスの獣だ。大量の餌を必要とするために、個体数はかなり少ない。そして、アペモンスを狩るのは我々人間ぐらいのものだ」
レミナが「我々人間」と口にしたことに違和感を覚えつつ、トキは頭の中で情報を咀嚼していく。
「つまり、食物連鎖の最上位にいるアペモンスを狩りすぎたら、この森の環境が破壊されると?」
「そうだ。だから私たちは月に一体しかアペモンスは狩らないことにしている。アペモンスの縄張りはそれほど広くないので、そこさえ避ければ接触することはないからな」
「けれど、それを知らない俺が縄張りに踏み込んで襲われて、それを返り討ちにした……。俺がこの森の理を犯したってことか……」
「そうだ。お前の責任だ。本当ならお前をヤマタノプテロの生贄に差し出してやりたいところだが、そんなことしても無駄だ。ヤマタノプテロは、お前と私、二人とも殺す気だ」
「だから、二人で協力する必要があるってわけか」
立ち上がったトキは、ゆっくりと手にしているナタの鞘を外す。無骨な刃が、蒼い月光を鈍く反射した。ずっしりとした感触が腕に伝わってくる。武器としては持ち手が短すぎるし、そもそも重すぎる。おそらく、狩った獲物を捌くための刃物なのだろう。
ただ、いまの俺は現実世界とは比べ物にならないほどの筋力を持っているはずだ。この刃物でも十分に武器として使いこなせる。
軽くナタを振ってみる。空気を切り裂くビュンという音が辺りに響いたとき、各々が独立した意識を持つかのようにくねくねうごめいていたヤマタノプテロの九つの首が、同時にこちらを向いた。十八の瞳から発せられる視線に射貫かれ、トキの体が大きく震える。
さっきアペモンスと対峙したときも恐怖を覚えたが、いま腹の底から湧き上がってくる感情は、それとは全く異質なものだった。
自分より高位の存在に対する畏れ。まるで神仏の類を前にしたかのような心地になっている。
いや、実際に自分は『神』を前にしているのかもしれない。
この森の理を司る竜。それはもはや崇拝の対象であり、畏れ敬うべき相手だ。
再び甲高い叫び声をあげると、ヤマタノプテロはこちらに向かって滑空しはじめた。
ぐんぐんとそのスピードが上がっていく。ものの数十秒で、襲いかかってくるだろう。
「森の中に入った方がいいんじゃないか!?」
上ずった声で訊ねるが、レミナは迫ってくるヤマタノプテロを見据えたまま軽く首を横に振った。
「だめだ。そんなことをすれば、あの九つの細い首が木々の隙間をすり抜けて囲むように襲ってくる。森の中では勝ち目はない」
「じゃあどうすればいいんだ!? あんなにでかい竜を相手に!?」
「ある程度傷を負わせれば、ヤマタノプテロは撤退していく。自らの存在が、森の理を守るために不可決だと理解しているからな」
レミナは弓に矢をつがえて構えると、弦を引き絞りはじめた。
ヤマタノプテロの翼長は二十メートルを軽く超える。そんな巨体に、細い矢を撃ち込んだところで焼け石に水だ。そう思ったとき、レミナの手首が橙色に輝きだした。
何が起きているのかわからず目を見開いたトキは、レミナの右手首にブレスレットが巻かれており、そこに刻まれた象形文字のような文様が光を放っていることに気づく。
俺のと同じ? トキは一瞬だけ視線を落とし、自らの左手首に巻かれたブレスレットを確認する。
レミナの手首から発された光が、弓につがえた矢にまとわりついて、そこで黄金色に変化し、増幅して、やがて矢そのものがまばゆく輝きだす。
レミナは「はっ!」という息を吐くと同時に、光の矢を放った。
空中に金色の軌跡を描きながら、光の矢は一直線にヤマタノプテロに向かって飛んでいく。
次の瞬間、ヤマタノプテロに矢が炸裂した。金色の光がはじけるとともに爆裂音が響いた。眩しさに目を細めたトキは、光が収まったとき、そこに広がっていた光景に言葉を失う。
ヤマタノプテロの九本の首のうちの一本が、根元から吹き飛んでいた。よく見ると数百メートル先の地面に、光の矢によって切り飛ばされた首が激しくのたうち回っていた。
なんて威力だ……。唖然としていたトキは、耳をつんざくような甲高い不協和音で我に返る。
見ると、ヤマタノプテロの残った八本の首の先についているコブラのような頭部が、口を大きく開けていた。爬虫類の表情が読めるわけではないが、強い怒りを覚えているのは明らかだ。
弓に次の矢をつがえながらレミナが「三本だ」とつぶやく。
「首を三本落とせば、ヤマタノプテロは撤退する」
あと二本……。まだヤマタノプテロとはかなり距離がある。さっきの光の矢だったら、襲われる前にあの怪物を撤退させられるかもしれない。
レミナは再び弓に矢をつがえる。さっきと同じように、レミナの右手にはめられているブレスレットから橙の光が溢れ出し、じわじわと矢を包み込みはじめる。数十秒後、再び金色にまばゆく輝きだした矢をレミナは放った。光の軌跡がヤマタノプテロに向かって宙を駆けていく。
また当たる! トキがそう思ったとき、ホバリングしていたヤマタノプテロはその巨体からは想像できないほどの俊敏さで、しなやかに空中で身をひねり、矢を避けた。
「来るぞ!」
緊張を孕んだレミナの声を合図にしたように、ヤマタノプテロはその場で自然落下する。
墜落するかのように下降していった巨竜は、湖面ギリギリで大きく翼を開くと滑るように飛んでくる。瞬く間にトキたちとヤマタノプテロの距離は数十メートルまで近づいた。
レミナは舌打ちをすると、弓に矢をつがえ、素早く三発目の光の矢を放った。しかし、その光の強さは、これまでの二本とは比べ物にならないほど弱々しい。
ヤマタノプテロが湖に飛び込んだ。水しぶきがトキたちがいる場所にまで降りかかってくる。
あいつはどこだ!? トキが左腕を顔の前に置いて必死に視界を保っていると、目の前の湖面から人間の胴ほどの太さのある蛇が数体、大きく口を開き、牙を向きながら飛び出してきた。
「避けろ!」
レミナの警告に、無意識に体が反応した。トキは地面を蹴ると思い切り横に飛ぶ。
数瞬前までトキがいた空間を、ヤマタノプテロの鋭い牙が切り裂いていった。
地面で一回転してナタを構えると、反対側に飛んでいたレミナも同じように、腰につけた鞘からナイフを抜いて構えていた。レミナの手首のブレスレットから溢れ出す光がナイフを包み込んでいく。
トキは左手首のブレスレットに視線を落とす。しかし、それが光を放つことはなかった。
ブレスレットの能力を使うためには、何かの条件が必要なのかもしれない。湖からゆっくりとヤマタノプテロの胴体が姿を現し、岸へと上陸する。
レミナに一本吹き飛ばされ、八本になった首が天に向かって咆哮を上げた。
息を乱しながら、トキは十メートルほど先にいる怪物を観察する。
翼竜を意味する『プテロ』の名前通り、その羽に羽毛は生えておらず、代わりにコウモリのような褐色の膜が張っている。前足はなく、その巨体を支える二本の後ろ足は象の足のように太い。キングコブラを彷彿させるその首は、鎧のような鱗に覆われていて、牙が覗く大きな口からは、チロチロと忙しなく赤く細い舌が出ては引っ込んでいた。
あまりの威圧感に、絶望が全身の細胞を満たしていく。
「毒に気をつけろ!」離れた位置にいるレミナが声を張り上げる。「あの牙に嚙まれたらひとたまりもないぞ。牙の先端から毒を飛ばして来ることもある。それを浴びたら、地獄の苦痛を味わいながら全身が溶けていくからな!」
「そんな恐ろしい情報、聞きたくなかった……」
頰を引きつらせながら言うと、レミナの目つきが鋭くなった。
「何だ、その言い草は! 何も知らないで、毒液を浴びてドロドロに溶ける方がよかったか!?」
「いや、そんなことはない。悪かったよ」
「何にしろ油断するな! 生き残れる可能性は十に一つもないが、油断すればそれがゼロになる」
やっぱりそんな情報、聞きたくなかった……。胸の中で愚痴をこぼすトキに、レミナが再び「来るぞ!」と警告する。鎌首をもたげてこちらを睥睨していたヤマタノプテロの両端の首が一本ずつ、トキとレミナに向かって襲いかかってきた。
森の中で獣に襲われたときと同様に、攻撃が当たる寸前に体を開いて躱したトキは、目の前を通過するヤマタノプテロの首に向かって、右手に持っているナタを思いっきり振り抜く。
巨大な岩をハンマーで殴ったようなしびれが右腕に走り、鱗にわずかな傷をつけただけでナタがはじき返された。
鋼のように鱗が硬い。これじゃあ切り落とすどころか、出血させることも難しい。
唇を固く噛んだとき、視界の隅に黒いものが見えた。ほとんど無意識にトキは後ろに飛ぶ。
獲物を呑み込まんばかりに口を大きく開いた大蛇が、目の前を高速ですり抜けていった。
首が完全に別々に動いて、死角から攻撃してくるのか……。トキは四方八方から降りかかってくるヤマタノプテロの攻撃を間一髪で避け続ける。この体の超人的な運動能力のおかげで、なんとか回避はできているが、こちらの攻撃が全くダメージを与えられない以上、このままじゃじり貧だ。
どうする? どうすればいい? 必死に思考を巡らせるトキの視界に、離れた位置で戦っているレミナの姿が飛び込んできた。
トキと同じようにヤマタノプテロの波状攻撃を避けつつ、光をまとわせたナイフで攻撃している。
しかし、さっきヤマタノプテロの首を吹き飛ばした光の矢とは明らかに破壊力に差がある。
鎧のような硬い鱗こそ切り裂いて出血させてはいるものの、首を切断するにはほど遠い。
俺の攻撃は全く通用しない。レミナもナイフでは十分なダメージを与えることができない。
だとしたら……。トキの頭に一つの作戦が浮かんだとき、攻撃を仕掛けていたヤマタノプテロの八本の首が一斉に引いていくと、胴体の上で再び鎌首を上げ、トキとレミナを見下ろした。
こちらに十分な攻撃力がないことを把握したのだろう。チンアナゴのようにゆらゆらと八本の首を揺らしている姿からは、余裕と、これから嬲り殺す獲物への嗜虐心が見て取れた。
「レミナ……」
トキが近づいて声をかけると、レミナは鼻の付け根に深いシワを刻んだ。
「いつ、私の名前を呼んでいいと言った?」
「……そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「そうだな」肩を上下させながら、しぶしぶといった様子でレミナは頷く。
「いま、金色の光の矢は撃てないのか?」
「あれは力を増幅させるための紋様が彫られた特別な矢だ。とても貴重で、あと一本しか残っていない。それに、十分な威力を込めるにはかなり時間がかかる」
レミナは腰につけている矢筒を指差す。数十本の矢が入っている大きめの筒とは別に、矢を一本だけ収められる細い筒が三つついていた。そのうちの二つはすでに空になっている。
「さっきのように相手が油断しているならともかく、いまは撃っても避けられるだけだ。最後のこの一本は確実に当てる必要がある」
そこで言葉を切ったレミナは、冷たい視線をトキに送る。
「ただ、それも難しい。お前が期待外れだからな。光力を全く使いこなせないとは」
光力というのは多分、レミナが使っていた光の力だろう。やはりこの世界には魔法のような力があるらしい。洞窟で見つけたブレスレットをはめているので、もしかしたら俺にも光力とやらが使えるのかもしれない。けれど悠長にその方法を教わる余裕などあるわけもなかった。
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