2014年、まだ平成の時代。山本甲士さんによる「ひかりの魔女」シリーズが、スタートしました。80代のおばあさん・真崎ひかりが、特別な力ではなく、「優しいウソ」と「おいしい料理」、そして人への思いやりで、周囲の人生を少しずつ変えていく心温まるスーパーおばあちゃん小説です!

 

 第1巻(単行本)の発売から12年。干支がひと回りした2026年3月、待望のシリーズ最新刊『ひかりの魔女 よつば旅館の巻』が刊行されました。担当編集者がその尽きない魅力をたっぷり語ります!

 

 

 多くの読者に愛され続けてきた大人気シリーズ「ひかりの魔女」。その幕開けとなる第1巻の単行本が発売されたのは、今からずいぶん前、まだ平成の時代だった2014年3月のことです。

 

 いまや「迷犬マジック」や「ひなた」シリーズなど、数々の人気作を生み出してきたヒットメーカーである山本甲士さん。その代表作ともいえる「ひかりの魔女」シリーズの待望の最新刊である、第4弾『ひかりの魔女 よつば旅館の巻』が、ついに2026年3月に発売されました。第1巻の刊行から、ちょうど干支がひと回りする12年目の春です。

 

 実はこのシリーズ、単行本発売当初から大きな注目を集めていたわけではありません。人気が爆発したのは、2016年10月の文庫版発売からでした。翌月には早くも2刷が決まり、そこからは増刷に次ぐ増刷。いまでは36刷を数えるロングセラーとなっています。2巻の『にゅうめんの巻』、3巻の『さっちゃんの巻』、そして今回の4巻をあわせ、累計25万部を突破するまでになりました。

 

 書店では、主人公・ひかりばあちゃんを布で作った巨大POPとして店頭に飾ってくださる書店員さんがいたり、『図書館教育ニュース』では「読めば人間関係を円滑にする偏差値がアップ!」と紹介していただいたり。さらには読者の方から「これはいい物語ね! 感動のあまり思わず電話しちゃったわ」と直接ご連絡をいただいたこともあり、担当の私にとっても心がホクホク温まる出来事の多い、幸せなシリーズとなりました。

 

 さらに特筆すべき出来事として、雑誌『GINZA』(2020年5月号)のインタビューで、新垣結衣さんが「友達に薦められて読んでいる本」として『ひかりの魔女』を挙げてくださったこともあります。最近では、朝日新聞の投書欄(2026年3月1日朝刊)に、娘さんが受けた模試の問題文に本作の一節が引用されており、登場するおばあさんの料理があまりにもおいしそうで、親子で続きを読みふけってしまったという投稿が掲載されました。12年前の本に、いまなおこんな嬉しい知らせが届くのかと、新鮮な感動を覚えたものです。

 

 さて、『ひかりの魔女』の主人公、真崎ひかりさんは80代のおばあさん。孫の光一や光来から「うちのばあちゃんは魔法使い」と言われていますが、実際に特別なことをしているわけではありません。誰にでもできることを積み重ね、その“魔法”を生み出しているのです。

 

 第1巻では、長男の急死をきっかけに、次男が継いだ実家へ戻ることになったひかりばあちゃん。浪人生でいちばん時間のある孫の光一が、挨拶まわりに付き添うことになります。ところが、彼にとってはごく普通の祖母が、訪ねる先々で「先生、先生」と大変な慕われ方をしているのです。大企業の役員や有名な空手家、農家や商店主、さらにはヤクザにまで敬われている姿に、光一ならずとも「え、なんで!?」と驚かされます。

 

 その秘密は、物語が進むにつれて少しずつ明らかになります。ひかりさんの“武器”は主に三つ。「優しいウソ」「おいしい料理」「立禅」です。

 

 まずは「優しいウソ」。ひかりさんは「腰が痛いので席を替わっていただいて本当に助かるわ」といった、罪のないウソを感謝の言葉とともにさりげなく口にします(実際には、中国拳法由来の体操である立禅を日課にしているため、体はとても丈夫なのですが)。その言葉は、人の気持ちを不思議と前向きに動かします。たとえば3巻の主人公、小学5年生のさっちゃんも「多少誇張はあるかもしれないけど、感謝されて悪い気はしない」と感じるのです。ひかりさんの言葉によって、人々は自然と善い行いへと導かれ、人生が少しずつ良い方向へ進んでいきます。

 

 次に「おいしい料理」。なかでも、ひかりさんは米を炊くのが抜群に上手です。そのおにぎりには不思議な力があり、ひかりさんと出会った人々、特に子どもたちの心をたちまち明るくします。原稿を読みながら「一度でいいから食べてみたい」と何度も思ったほどです。なかでも印象的なのが「いわしのぬかみそ炊き」。人生に行き詰まっている登場人物たちの多くは、この料理の美味しさに心をほぐされるところから、新しい一歩を踏み出します。おいしい食べ物には、言葉以上に人の心を動かす力があるのだと改めて感じさせられます。

 本シリーズの登場人物には中高年が多いのですが、「ぬか」など、その層にいかにも響きそうな料理ですよね。実際、みなその美味さに舌を巻き、なにがしかのヒントを得て、自身の商売に活かしたりと、その都度、強力なアイテムに変貌していきます。

 

 物腰やわらかなひかりさんは、誰に対しても丁寧です。読者からの感想はがきには「おばあちゃんが息子たちを“さん付け”で呼ぶところが、亡くなった母と同じで懐かしい」と書いてくださった男性もいました。作務衣の上に割烹着を重ねた姿とともに、どこか懐かしい“母の姿”を思い出す読者も多いのでしょう。実際、読者層の中心が50代以上というデータを見ると、そうした懐かしさも人気の理由のひとつなのかもしれません。「昔、こんな人がいたよなあ」と思わせる、背筋を伸ばして人に丁寧に接する姿。その凛とした美しさに触れ、読んでいて自然と心が整うのだと思います。

 

 そういえば説明が遅れましたが、ひかりさんが「先生」と呼ばれるのは、書道の先生だったからです。かつて小学生の生徒たちを、優しい励ましと感謝の言葉で支えてきたその積み重ねが、いまの深い敬愛につながっているのです。

 

 最新刊『よつば旅館の巻』では、最愛の妻を失い人生を諦めかけている50歳の男性が登場します。ひかりさんは、友人の代わりに臨時で管理している旅館へ彼を自然に引き込み、一緒に旅館を切り盛りしていくうちに、彼の心を少しずつ前向きに変えていきます。その“魔法”を、ぜひ物語の中で目撃してください。

 

 最後に、第2巻『にゅうめんの巻』で書評家の細谷正充氏が寄せてくださったレビューから引用し、新刊で再びひかりばあちゃんに会える喜びをお伝えしたいと思います。

 

「えっ、なんでそんなに浮かれているのかだって。周囲の人々を幸せにするスーパーおばあちゃんの真崎ひかりさん(さん付けをせずにはいられない素敵な人物である)と、また会うことができたからだ」

 

 時代が平成から令和へと移っても、ひかりばあちゃんの生き方は変わりません。スペシャルでワンダフルな彼女が福を呼び込む、小さな奇跡の物語。ぜひその魅力を味わってみてください。