2025年のベスト・ブック

【第1位】

装画=かときちどんぐりちゃん
装幀=横須賀拓

『とつこ かときちどんぐりちゃん作品集』
かときちどんぐりちゃん 著
信陽堂

【第2位】
『陰態の家 夢枕獏超越的物語集』

夢枕獏 著
文藝春秋

【第3位】
骨を喰む真珠

北沢陶 著
角川書店

【第4位】
『ライオンの場所』

C・ウィリアムズ 著/横山茂雄 訳
国書刊行会

【第5位】
『因果ばなし』

円城塔 翻案/中川学 画
岩崎書店

【番外】
『赤富士と応為、そしてボストンの男たち』

K・ゴヴィエ 著
彩流社

 

 東日本大震災の衝撃は、あの日から10年以上も経過した今になっても、ナマナマしい。 これには震災直後、仙台に拠点を置く地域出版社「荒蝦夷」代表の土方正志さんに案内されて、津波の惨禍を被った東北各地の被災地を経巡った際の見聞が、大きく作用しているように思う。海沿いから山側まで、削り取られたようにポッカリ空白となった宮城県沿岸部の凄まじい光景は、今でも折々に脳裡をかすめる。

 

 その意味で、つい先ごろの東北・北海道地震は「東日本大震災はまだ終わっていない」という認識を再確認させるに足る出来事だった。そして同様の感慨を書物の形で、ひと足先に味わわせてくれたのが、かときちどんぐりちゃんの作品集『とつこ』である。

 

 同書は形としてはコミックなのだろうが、絵と文章とが相まって一読、曰く言いがたい味わいを生み出している。版元は作者のことを「語り部」と呼んでいるが、確かにここに収められた6篇の小さな物語には、突然の大震災によって平穏な人生を狂わされた人々の悲哀と憂いと静かな憤りが漲っていて、一読、忘れがたい感銘へと読者を誘ってやまない。冒頭の表題作は、こんな話だ。

 

 坂の上に建つ保育園に、毎日のようにやって来る老婆。「ばばちゃん先生」と呼ばれる彼女は、同園の元園長で、今は認知症が進んで、麓の公営住宅で暮らしている。日課の昼寝をする園児たちに交じって、老婆も眠りにつき、やがて泣きながら目を覚ますと、トボトボと元来た道を戻ってゆく……。

 

 ここから物語は、一気に、にわかに、超自然の色合いを深める。園児たちは証言する。「ばばちゃん先生」と眠ると、みな決まって共通した夢を見る。そこには不思議な姿の動物が出てきたり、死んだはずの犬や、津波で亡くなった身障者の少女が出てくるという。その動物は、地元で「権現さま」と呼ばれる獅子舞の獅子頭であり、園児たちは「ばばちゃん先生」の夢を共有していたのだ!

 

 獅子頭をかぶった一人の園児(そんな子、園児の中にいたっけ?)に先導されて、子供たちは園の屋上に置かれた不可視の大凧に乗って天空に遊び、そして「ばばちゃん先生」も……こ、これは一体、どんな話なのだ!? まるで「風の又三郎」ではないか? さすがは「宮沢賢治」を生んだ東北の大地!

 

 他の収録作も、泣かせる泣かせる。もう涙腺大決壊だった。「盛岡在住の語り部」かときちどんぐりちゃんに注目せよ! ちなみに氏の本業は「音楽療法士」だそうな。

 

 小説の新作では、大ベテラン・夢枕獏のバラエティに富む短篇集『陰態の家』と、ホラー大賞受賞の『をんごく』で脚光を浴びた新鋭・北沢陶の長篇第2作『骨を喰む真珠』が、とりわけ印象に残った。どちらの本も、曰く言いがたい妖しさといかがわしさがつきまとうところが、何より魅力的だ。

 

 洋物では、チャールズ・ウィリアムズ『ライオンの場所』が、とんでもない幻視の世界へと読むものを誘う、壮絶なる怪作だった。英国の片田舎で、イデアの世界にのみ存在するはずの、ライオンだのモスラのような巨大蝶だの巨大な姿の天使だのが、現実世界への侵犯を開始するのだ。まさに、これこそは「幻想文学」と呼ぶほかはない物語が、嬉々として繰り広げられる不可思議さよ。

 

 今年は「八雲の年」と言っても過言ではないほど、空前の「小泉八雲=ラフカディオ・ハーン」ブームとなった。さすがは、「皆様のNHK」の看板ドラマ番組効果というべきか。視聴率も活況を呈しているようで、まさに御同慶の至り。

 

 出版物も雨後のタケノコの如く、さまざまな種類が出ているが、さて、その中から何を選ぼうか?

 

 ここはやはり、名著『怪談』の優れた新訳で脚光を浴びた円城塔による翻案作品に、中川学のエロティックな挿絵が極めて印象的な『因果ばなし』を挙げておきたい。

 

 余命わずかな良家の奥方が、若い腰元に嫉妬するあまり、その美しい乳房を鷲摑みにして、死後も離さない……という凄まじい執念の物語で、妄執とも言うべき老女の怨念に、一抹の哀感がにじむところが、「八雲流怪談」の妙趣と言えるかもしれない。

 

 ちなみに八雲がらみでもう1冊、通常のレビュー欄では、うっかり取り上げそこねた作品について言及しておきたい。

 

 キャサリン・ゴヴィエ『赤富士と応為、そしてボストンの男たち』(モーゲンスタン陽子訳/彩流社)である。これは同じ著者の前作『北斎と応為』(上下2巻)の続篇なのだが、本巻の主人公である葛飾応為(北斎の実娘にして女弟子の浮世絵師。晩年の北斎に最後まで寄り添い、しばしばその代筆も手がけたとされるが、その実態は定かではない、謎の絵師。没年不詳)は、なんと死後10数年を経て、ゾンビさながら幽霊となって明治の世に復活し、維新の混乱で海外に流出した自分と父の作品を捜して、米仏を飛び回る! しかも、その途中、米国時代のラフカディオ・ハーン(後の小泉八雲)と遭遇するという、なんとも形容を絶するような作品なのである。しかも諸般の事情で、この日本版が世界初刊行。モーゲンスタン陽子の訳文も、冒頭から快活・伝法に飛ばしまくりで、愉快この上ない!