サークルOBのフリーライターから「就職に有利になる」と聞いて「やばいバイト」に手を出してしまった大学生のオレ。これで稼げれば彼女との同棲もうまくいく……そんな気軽さで始めたバイトだったが、自分のスマホに、不可解な「何か」が起き始めた。黒い服の女は一体誰なのか? 体中に目がある怪物とは? 都市伝説「ドウメキの街」とは何か──。文庫サイズより小さい体感する「スマホ本」ホラーの誕生‼

「小説推理」2025年10月号に掲載された書評家・あわいゆきのレビューで『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』の読みどころをご紹介します。

 

 

『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』知念実希人  /あわいゆき [評]

 

スマホがなければ生きていけない社会だからこそ怖い。著者初のモキュメンタリー・ホラー!

 

 スワイプ厳禁。タイトルにはそうある。しかし私は言いたい。スマホのスワイプを「厳禁」にしたまま、生きていくことはできるのだろうかと。

 

 本書を特徴づけるのは、従来の小説とは異なる特殊なレイアウト(165ミリ×85ミリ)だ。ページを見開いた左側は、侵入したら呪い殺されるというゴーストタウン『ドウメキの街』という都市伝説を語り手の主人公が調べていくミステリ小説になっている。対する右側には、語り手のスマホ画面がリアルタイムで写されていく。スマホの画面を再現することでリアリティを醸し出すWeb漫画は増えているが、ミステリ小説では前代未聞だろう。

 

 さらに、画面の活かしかたにも目を瞠る。前例となる漫画はほとんどが「LINEのトーク画面」や「アルバムのカメラロール」を再現したものだった。本作ではそれらに留まらず、目的地に案内するナビゲーション、宿泊するホテルの部屋の開錠、ファミレスのモバイルオーダー……スマホの機能を最大限に活用しながら語り手が行動し、都市伝説を解明しようとする。

 

 だからこそ、読んでいて気づかざるを得ない。私たちは生活を営むなかで、スマホを通して世界を見ることに慣れすぎていると。確かにスマホの普及で生活は豊かになった。しかし語り手がとっている行動のほとんどにスマホが関わっている事実は、もはやそれが必要不可欠な世界にいる──スマホを持たなければ生活が困難な社会になってしまったことを示してもいる。

 

 そして、スマホによって世界を豊かに見ることができる社会は、裏を返せば、私たちが常に見られるようになったことも意味する。だから、調べていくうちに『ドウメキ』の視線を感じるようになる語り手の呪いは、私たちが日々抱きながらも逃れられない、スマホを通して他者から見られている感覚に通ずる。日々の生活に蓄積していると実感する、おぞましい呪いに化ける恐怖を前にすれば、あなたはスワイプをやめられるか? スマホが手放せない世の中で、どう生きるかを問いかける挑戦状にもなっている。