世界最長の格闘小説「餓狼伝」シリーズが再び盛り上がってきた。2メートル超のプロレスラーが老人に瞬殺され、古武術の達人が刑務所内で大乱闘を繰り広げる。さらには、格闘技界のレジェンド2人によるトップ会談が実現!

 

 2025年は『餓狼伝1』の刊行からちょうど40周年の節目。待望の新刊は、実に5年ぶりとなる。物語の緊張感は高まり、いよいよ始まる最終トーナメントから目が離せない!

 

「小説推理」2025年9月号に掲載された書評家・細谷正充のレビューで、『新・餓狼伝 巻ノ六 変幻鬼骨編』の読みどころをご紹介する。

 

 

『新・餓狼伝 巻ノ六 変幻鬼骨編』夢枕獏  /細谷正充 [評]

 

人気格闘小説シリーズ、5年ぶりの新刊だ。闘いに憑かれた男たちは、最終トーナメントへと向かう。

 

 夢枕獏の格闘小説「餓狼伝」シリーズの、5年ぶりになる最新刊が出版された。病気による入院があり、しかたがないと分かってはいるが、やはり待ち遠しかった。その渇が、ようやく満たされたのである。こんなに嬉しいことはない。

 

 スクネ流を巡る争いも決着し、ストーリーはいよいよ最終トーナメント「闘天 TOUTEN」へと向かっていく。とはいえ、まだ助走期間。トーナメントに出場するだろう何人かの格闘家と、周囲の人々が活写されるのである。だが、これがメチャクチャに面白いのだ。

 

 作者はまず前作に登場し、圧倒的な強さを見せつけたマンモス平田こと平田万太の半生を綴っていく。沖縄で出会った両親の間に生まれた万太。幼い頃から身体が大きく、異様なまでに頑丈である。しかし運動神経はなかった。それでもプロレスが好きになった万太は、東洋プロレスに入門。努力を重ねてプロレスラーになったが、後から入門してきたカイザー武藤と巽真(グレート巽)の才能の煌めきに耐えきれず、東洋プロレスを辞めた。その後、アメリカに渡った万太は、プロレスの会場で、キュウシン・オキナという日本人と闘うことになる。

 

 このキュウシン・オキナは、前巻のラストに登場し、主人公の丹波文七と闘う予定の梅川丈次に絡んできた翁九心だろう。梅川は翁との野試合により意識不明の重体となり、丹波との試合はなくなる。それにより丹波は己の闘う意味に迷い、トーナメントの参加も保留にしているのだ。もはや哲学の領域といっていい、丹波の闘いに関する思考が、本書の読みどころのひとつになっている。

 

 その他、竹宮流の藤巻十三と辻流の金村良平の刑務所での邂逅。シリーズでお馴染みの、松尾象山、グレート巽、久我重明の3人による語らい。トーナメント主催者の道田薫の過去と、内容は盛りだくさん。数度の格闘の描写も熱く、ストーリーがどんどん盛り上がっているのである。