夜、家に親がいられない家庭が現実に存在する。
 そんな親子を守るために、園長自ら自宅を改築して開いた夜間保育園は、今夜も温かな明かりを灯している。

 河合隼雄物語賞、坪田譲治文学賞などを受賞した注目の作家が、新米男性保育士の成長とともに描く親と子の物語。

「小説推理」2025年7月号に掲載された書評家・吉田伸子氏のレビューで『蒼天のほし』の読みどころをご紹介する。  

 

蒼天のほし

 

■『蒼天のほし』いとうみく  /吉田伸子 [評]

 

子どもを幸せにするには、親も幸せにならないと。「いま困っている親子」のために。

 

「保育園落ちた日本死ね!!!」

 

 この言葉がネットに投稿されたのは2016年2月のこと。「死ね」という強い言葉を使わざるを得ないほどの投稿者の無念は、他人事とは思えなかった。私が息子を区立保育園の一歳児クラスに入れることができたのは、僥倖だったと今でも思っているし、通っていた保育園には感謝しかない。

 

 本書は職場体験先に保育園を選んだ、中2の風汰の5日間を描いた『天使のにもつ』に連なる連作短編集だ。中2だった風汰が22歳の保育士となって働いているのが、「すずめ夜間保育園」。保育園とはいっても認可外なので、いわゆるベビーホテルである。園長が「とにかくいま困っている親子がいるなら動かないと」と始めたのが「すずめ夜間保育園」で、その園長のポリシーがとにもかくにも素晴らしいのだ。

 

「子どもの幸せはね、子どもだけを見ててもだめなの。子どもを幸せにするには、親も幸せにならないと」

 

 親のために子どもが犠牲になるなんて、あってはならないことだけど、子どものために親が犠牲になることもないんですよ。子どもだから、子どもなのに、親だから、親なのに、なんて、そんな言葉は、呪いでしかない。あぁ、本当に、この園長というか、作者のいとうさんの言葉を心の底から讃えたいし、この言葉が必要な親子、沢山いると思う。

 

 本書に登場するのは、まさに「いま困っている親子」たちで、そんな彼らが「すずめ夜間保育園」に支えられ、子育ての日々の呼吸が深くなる様がいい。同時に、そこで働く保育士たちのドラマも描かれていて(保育士としてはまだまだ新米の風汰が、いい味だしています)、そちらもたっぷり読ませる。

 

 読み終わったとき思ったのは「すずめ夜間保育園」のような園が、実際にあって欲しいということだった。昼職、夜職問わず、親も子も安心して日々を助けてもらえるような、そんな園が増えていきますように。それが、親と子の笑顔に繋がるはず。